崩壊
初めまして、まひろです。
本作品、本来短編のつもりでした……ただ、書いてたら長くなる長くなる収集が短編だと読みにくくなってきた? と言うことで連続物にさせていただきます。
納得のいった段階で投稿するつもりなので長期スパンの不定期掲載です。
結構精神がぶっ飛んでる作品のような気がするのでご注意を。
拙い物ですが楽しんでいただけたのなら幸いです。
○月△日、どうやら相沢陸である俺は誰からも認識される事のない透明人間になったようだ。
◇◆◇
目が覚めた、悪夢を見ていた気がする。
首を傾けると鏡が見えた。
その鏡を見るとそこには幼馴染の加藤美紀の姿があった。
体は麻痺してるようにうまく動かせない。
近くで声が聞こえる、部屋の外のようだ。
うまく動かない体を無理矢理動かし窓の外を見ると隣の家で葬式が行われていた……棺には俺の遺体が入っているようである。
「美紀! 目が覚めたのね……」
声が聞こえたので首を向けるとそこには美紀のおばさんがいた。
「お(ばさん)、どう(して)お(れの部屋に)?」
声がうまく出せない、力も出ない、俺はその場に崩れ落ちた。
「美紀!?」
おばさんは慌てて俺を抱きしめると大丈夫、大丈夫と繰り返した。
そんなに慌てなくても大丈夫だと思う、何処も痛くないしただ力が入らないだけだから……でもどうしておばさんはそんなに慌ててるんだろうか? それに何故俺の部屋にいるんだ、それにさっき『美紀』って……俺と自分の娘を間違えちゃ駄目だよ、別に似てるわけでもないんだしさ……
「……美紀よく聞いて、陸君と美紀は事故にあったの、陸君はそのとき……」
あ……思い出してきた、反対車線側にいた美紀が俺のほうに移動しようと横断歩道を渡っていて、そこにトラックが赤信号で突っ込んできて、危ないと、間に合わないを同時に思って……俺は美紀を突き飛ばして、それからどうなったっけ……あれ、俺どうなったんだっけ?
「……陸君はそのとき美紀を助けてそのまま……うっ……死んだの」
陸は死んだ……俺は……死んだ? え、何言ってるのさおばさん、俺はちゃんと生きてるそう思ったとき再び鏡が目に入った。
おばさんに抱かれているのは、その鏡に映る姿は……美紀だった。
動かしにくいけど指を動かすとその鏡に映る美紀も同じように指を動かした……鏡に写っているもの、それは夢でも見ていない限りは現実だった。
俺は美紀の姿をしているのか?
だったら、隣で行っている葬式って……葬式って……
俺はおばさんの抱擁から動かない体に鞭を打ち抜け出し窓からもう一度外を見た……名前が今度は見えた
『相沢陸』そう……書かれていた。
隣で行われていた葬式は俺の葬式? だったらここにいる俺は誰だ、俺は―……俺は―……
俺はもう一度鏡を見た……そこに写っていたのは幼馴染の『加藤美紀』の姿だった。
○月△日、『相沢陸』と言う人間は死んだらしい……そして俺は透明人間になった。
この時俺は、陸が死んでいる事よりも、俺が別の体になっていることよりも、本物の美紀がどうなっているかと言う事よりも、何故かただ自分が生きている事に安堵している自分に気がついた。
随分と立ってからだがそしてそれに気がついたとき……自分自身を最低だと思った……しかしその事実に気づくのはこの時より遥か未来の出来事だった。
◇◆◇
俺はあの後気を失ったらしい、目が覚めたときには全てが終わっており既に日が暮れていた。
相変わらず体は動かしにくいが最初の時ほど動けないわけではなかった。
俺は再び鏡を見た、そこに写るのは美紀の姿だった。 どうやら夢ではないようだ。
さて、どうするか……まずは考えを整理して見よう。
俺の名前は『相沢陸』何が真実とか事実とかはともかく俺はそう認識している、しかし体は……鏡に写る姿は幼馴染である『加藤美紀』である。
そして今いる部屋も美紀のものであるようだ……少なくとも俺の部屋じゃない。
おばさんもこの家にいるようなので(下から音がする)恐らくここは『加藤美紀』の家なのだろう。
つまり俺の置かれている状況は現在進行形で『加藤美紀』の位置なのだろう……多分
そして夢でないのなら、今日隣で行っていた葬式は『相沢陸』のものである。
分からない事だらけだし、遺体も見ていないのでそれが本当かどうかは知ることは今はできないがとりあえず『俺の葬式』……いや、『相沢陸の葬式』ということにしておこう。
自身の記憶と状況をそのまま解釈するのなら俺は美紀を助け交通事故でなくなったらしい、そして今日俺の葬儀が行われた、しかし何らかの理由で俺の魂(?)が美紀の体に入っていると言うことか?
……だとしたら本物の美紀はドコニイッタ?
これは入れ替わりとかそういう類か? だがそんな事はどうでもいい、今この状況が真実だとするのならば、結局俺は美紀を犠牲にし自分だけが生き残った事になる……それでは意味が無い。
― 本物の美紀を探さなければ ―
季節は初夏に入る頃……厚着をする必要は無いはずだ。
俺は動かしにくい体を動かし家の外に出た……幸いおばさんには見つからなかった。
家を出て最初に何処を探せばいいのか分からない事が分かった、どうする……そうだな、とりあえず事故現場に向かう事にしよう。
足取りは重くゆっくりした動きで俺は移動を再開した。
事故現場までの距離……それは家から1Kmもなく、普段の俺の足なら10分もかからない距離にある。
しかし今はどうした事だろうか、時計を持っていないので分からないが既に30分以上……下手をしたら1時間近く歩いた気がするが到着する気配が無い……体がダルく、力が入らない、汗も大量に掻いている、眩暈までしてくる、俺は今どんな状態なんだ?
何度もよろけてコケながらも事故現場に到着した……たったコレだけの事で俺は既にボロボロになっていた。
俺は『相沢陸』が死んだ現場を自身の目で始めて見る事になる。
人通りはほとんど無く薄暗い道、夜は通るなって言われてる道だったっけ……そして事故現場はすぐに分かった。 なぜならそこには多くの花束が置かれていたから、テレビの報道などで見ることはあっても現実味は無かった、遭遇した事が無かったからだ。 それがまさか最初に見たのが自分の死んだ現場とはどんな皮肉だ?
俺はその現場を確かめるべく近づくと人影が見えた、その人影は知らない人物ではなく『俺』のよく知る人だった。
『君島典明』相沢陸の親友である。 そして……
「馬鹿野郎、何で死んでんだよ……美紀の事、勝負すらさせないつもりなのかよ」
先日ある告白を受けていた、『加藤美紀が好きだ』と言う告白である。
あ~……間の悪いときに来ちまったか? そんな風に考えている時体力の限界がきたのか体から力が抜けてその場に座り込んでしまった。
「誰ですか? え、加……藤、何で……今の聞い……いや、それよりその格好どうしたんだ、何でこんなところに……」
典明は俺に気づくと大げさなほど慌てだした。 いきなり死人が来たら驚くわな……どうすっかな?
「よぉ~典明、これはまぁ、体をうまく動かせなくてコケまくっただけだから気にするな」
どうしたらいいか分からなくなったので、とりあえずいつも通り典明に接するように話しかけた。
しかし話しかけた途端典明は動きを止めすごく真面目な顔をしてこちらに近づいて俺と向き合った……え、どうしたんだ典明?
「加藤、いつも俺のことは『君島君』というだろう、それにそのしゃべり方……陸の真似か? そんな風にしてもあいつはもういないんだぞ」
あいつはもういない? 何言ってるんだ、いなくなったのは『美紀』だぞ。 『相沢陸』はここにいる、そして美紀が行方不明になってるから探さなきゃいけないんだ。
「違う……いなくなったのは『美紀』だ、だから俺は『美紀』を探さなきゃいけないんだ。 ……典明、もしかしてお前は美紀の居場所を知ってるのか?」
そうだ、典明は美紀を好きだったんだ。 なら、行方不明になったのなら必死に探してもう見つけているのかもしれない。
なら……会わせてもらえればいい、何処にいるのか分かっているのなら、生きているのならそれでいい。
「なら、美紀に会わせてくれ。 あいつが生きてるのならそれでいい、それで十分なんだ。 典明、美紀は何処にいるんだ、頼むから会わせてくれ」
俺は必死だった、だから必死に説明した。 でも説明すればするほど典明は沈痛な面持ちになっていく。 どうしてそんな顔をする、俺は美紀に会わせてくれといっているだけなのに。 だが今の俺には頼むしか手段が無い、だから……だから……
「……分かった、ちゃんと答える。 そんな状態の加藤をきっと陸も見たくないだろうからな」
そんな状態の加藤? そんな顔をして言うほど美紀は酷い状態なのか……俺はやはり美紀を助けられなかったのか? 俺は美紀の状態を聞く覚悟をした、どんな状態でも聞かなければ成らないのだろう。
「加藤美紀が何処にいるのか、それは俺の目の前にいる。 お前自身が加藤美紀だろう。 加藤美紀は相沢陸に助けらた。 そして相沢陸は死んだんだ」
違う……違う! ……違う!! そうじゃない、そうじゃないんだ!!
俺はどういう訳か姿は『加藤美紀』だが心は『相沢陸』なんだ! 俺は……
「違う! 俺は……俺は『相沢陸』なんだ!! 姿は美紀だが、俺は……」
違うんだよ典明、俺は……俺が『相沢陸』なんだ! 信じられないかもしれないが心と言うか精神と言うかそういうものが……だが幾ら説明しても典明は信じてくれずに最後には……
「加藤……現実を見ろ。 お前の幼馴染の『相沢陸』はもういない……」
信じてもらえない……こんなに説明してるのに信じてもらえない……どんなに説明しても『相沢陸』というものを否定してくる。 典明のその態度にどうしようもなく腹立たしくなり、それと同時に俺の中の冷静な部分がこの状況で何を言っても信じてもらえないのは当たり前と言う認識もあった。
俺はどうすればいいのか分からなくなりさっきまで動けなかったのに何時の間に動けるようになったのか体の自由が利き、踵を返しその場から逃げようとした。
そして振り返るとそこにはもう一人いた……『鈴木伊織』美紀の友人でこの場にいる『君島典明』、今現れた『鈴木伊織』そして美紀と俺の四人はよく一緒にいる友人だった。
何時の間にいたのか分からない、ただ『鈴木伊織』は怒気を張らんで俺を睨みつけていた。
「鈴木……、何時からそこに……」
俺は思わずその場にいた『鈴木伊織』そう言葉をかけていた。
しかしそう言葉をかけた瞬間に『鈴木伊織』と言う人間の怒りが爆発した。
「鈴木……ですって、何それ相沢君の真似? ……ふざけるな!ふざけるな美紀!! 相沢君を殺したくせにふざけるな美紀!!」
相沢陸という人間の死に対して鈴木伊織はそうやって怒っていた。 余りに突然の事に俺は唖然としていた。 典明はすぐに鈴木を止めに入っていた。 「あの事故は加藤の所為じゃない」と鈴木に言っていた……
それでも鈴木は止まらず美紀がもっと注意していればこんなことは起こらなかったと言う……でもそれは美紀の所為ではない、悪いのは当然トラックの運転手だ……でもそれ以外に原因があるとするのなら『間が悪かった』としか言いようが無い。
それにあの時俺は美紀を助ける事に躊躇わなかった。 例え自分が死ぬ事になろうとも……いや、そんな事考えてなかった。
そもそも自分が死ぬなんて思ってなかった。 ただ美紀を助けなきゃって思って、気がついたら行動してたんだ……そんで美紀を突き飛ばして、これで美紀はトラックに轢かれなと安堵したんだ。
……それで俺は……俺はどうなった?
俺は美紀を助けてそのまま……そのまま……
…………ああ、『相沢陸』は……俺は、死んだのか…………
近くに鏡があった……そこに写っている姿は『加藤美紀』のものだ……『相沢陸』ではない。
…………なら、今の俺は『誰』なんだ?
今の俺は『相沢陸』なのか……違う、なら『加藤美紀』なのか? ……恐らくそれも違う。
では―……『俺』は誰だ?
俺の持っている記憶は……誰のものなんだ?
『相沢陸』のものなのか?
…………ワカラナイ…………
『加藤美紀』のものなのか?
…………ワカラナイ…………
……………………オレハジブンガダレカワカラナイ
透明……そこに無いのと同じ……ああ、これではまるで何も無い『透明人間』ではないか。
俺の意識は急速に暗転していった。
暗くなっていく中で……一人の声を聞いた気がした。
『大丈夫、あなたは……あなたこそが相沢陸本人の心だよ。 他の誰が認識していなくても、認識できなくても、あなたが”オカちゃん”である事は私が知ってるから……だから安心して……』
……この声に何を安心すればいいのか全く分からなかった、でも美紀はこんなしゃべり方だったなぁット思った。
そして俺は意識を手放した。
◇◆◇
気がつけばベットで寝ていた。
あれは、夢だったのだろうか……それとも今も夢の中なのだろうか。
今俺のいる場所は『加藤美紀』の部屋だ。
服装も変わっているし、色んな傷の手当もされている……少なくとも事故そのものが夢でない限り今まで起こっていることは現実のようだ。
時計を見る、時刻は真夜中であるが一日眠っていた訳ではなく時間にして数時間程度らしい。
……さて、では落ち着いて考えよう。 『俺』が誰なのかについて……
まず『俺』は自身を疑いようもなく『相沢陸』だと思っていたが本当にそうなのかと言う事だ。
まず体……これはどう見ても『加藤美紀』のものである事は確かだ。
そしてこの体はどうやら精神的にかなり負担がかかっている事故にあったようだ。
その事から考えられる事は『美紀』の精神がその事故のことから自己を守るために作り上げた『相沢陸』と言う第二の人格である可能性。
実際にあるのかどうかは知らないが、そういう可能性もあるのだろう。
と言うか、恐らく端から見るとそう見えるのだろう……少なくとも今考えれば典明や鈴木にはそう見えたのだろう『美紀は現実逃避をしている』と……
事実……今の俺ですら冷静に考えればそんな風に思ってしまうのだ、どうしようもないな。
さて、もしそうだとするのなら『俺』は誰でもなく『加藤美紀の別人格』ということになってしまうのだが……そうなると判断の仕様もない、『俺』の記憶は『加藤美紀』の作り出したでっち上げの記憶と言う事になってしまうのだから。
しかし……本当にそうなのか?
俺の中の記憶は『加藤美紀』が知り得ないような『相沢陸』の記憶を多数持っている……これらの記憶も『造られたもの』と言われたらどうしようもないのだが……このような記憶はどのようにして得られたんだ?
……堂々巡りだな。 『相沢陸』の記憶云々言ったところで判断する事は今の俺には不可能だろう。 ならば『加藤美紀』を調べる事の方が重要なのかもしれない。
美紀は几帳面だった、日記位ならあるんじゃないのか? 『俺』からすれば他人の日記になりもし在ったとしてそれを読むのはすごく罪悪感があるが……俺が多重人格ならばもしかしたらそれが何かしらの刺激になって美紀の人格が戻る可能性も無い訳じゃない……と思う。 ……いや、素人判断なのでどうなるかなんてわからないけど。
体のダルさは取れていないがそんな事は気にしていられなかった……兎に角俺は自分の納得できるものがほしかった。
そしてそれは簡単に見つかった。
『加藤美紀』が着けていた日記帳と思われるもの……どうでもいい事だけど在る事にある意味感動するね。 毎日几帳面につける日記……俺には絶対無理だ、三日坊主になればいいほうだろう。 ……多分着け始めても二日で投げ出す自信があるぞ。 どうだすごいだろう! ……ほめられる事じゃないって? そんなの分かってるって……
ふぅ、気分も紛らわしたし気は引けるが始めるか。
俺の手が日記に掛かろうとした時突如声が聞こえた。
『きゃ~! きゃ~!! お願いだからその日記は見ないで~』
「………………」
場の雰囲気をぶち壊すような無駄に陽気な声が聞こえた……その声の主は俺のよく知っている人のものだった。
そう、『加藤美紀』のものである。 しかし、この部屋には誰もいない……幻聴か? いや、人格分裂起こしてるのなら幻聴って普通にありえるのか? ……分からん。
……気を取り直して日記を見ることにしよう。
俺が再び日記に触れて開こうとすると……
『きゃ~! だから見ないでっていってるでしょオカちゃん! 乙女の秘密をそんなに暴露したいのかぁ!』
「……………………」
幻聴にしてもこれは酷い、と言うかこれ幻聴にしても確固たる意思を持ってるよな?
そして思い出した『加藤美紀』と言う人物について……奴は空気が読めない人間だった。 ついでに言うのなら、奴はどんな状況になろうが恐らく現実逃避をするような性格ではない……つまり多重人格の線はほぼ皆無だったな、と。
ああ、後俺のことを『オカちゃん』呼びするのも『美紀』以外にはいなかったな。 陸を『おか』と呼び間違えてそのまま『オカちゃん』になったんだったなぁ……まぁ、それはいい
「……もうこの際幻聴でもなんでもいい『美紀』、お前は何処にいるんだ?」
俺は俺以外誰もいない美紀の部屋でそう声を掛けた……端から見れば相当逝っちゃてる人間に見えなくもない……でも俺はこれでいいような気がした。
『……えうぅ~頭が痛い……でもでも条件付だけど許可が取れたからお話しすることができるようになったよ……だからオカちゃん、鏡見てもらえるかな?』
そんな風に声は返ってきた、俺は声に従い鏡を見た。 そしてそこには『加藤美紀』が映っていた。
そう、その鏡には美紀の姿をした『俺』が写っていたわけではなかった。
今の俺は黄色いパジャマに包帯を巻かれていたり、絆創膏を貼られていたりと結構痛々しい格好である……しかし鏡に映る美紀は真っ白なワンピースを着ており、俺と対象に動いているわけでもなく、俺とは全く違う動きをしていた。 何というかそわそわしている、後同じ顔でも表情が全然違う。 やっぱり中身が違えば出る表情も全く違うものになるのだなと思った……俺には『美紀』のような顔は絶対にできない。
そして、これが幻覚とか幻聴だったとしてもどうでもいい、ここにいるという事実があればそれでいい……こんな風に思うとは、どうやら俺の精神は大概もう壊れている様だ……
『自分と同じ顔にじっと見つめられるって不思議な気分だね。 それもそれがオカちゃんだからさらに不思議な気分だね』
美紀はそんな風に話を始めた、相変わらず行動が読めない、と言うかもしこれが幻覚なのだとしたらすんげぇリアルな幻覚だな……いや、幻覚の時点でリアルもへったくれもないか。
「なんでもいい、ようやく見つけた。 とりあえずさっさと戻って来い、俺はお前を助けたんだから最後まで助けられろ……俺は……俺は死んじまったみたいだけどな」
美紀は生きている。 俺は美紀を助けた、だから美紀は生きている。 これが事実だ……まぁこのことを認識したから今始めて実感したよ……俺死んだんだなぁって。
だから美紀を戻した後どうすっかなぁって初めて思った……死んでるからどうするもできないんだけどさ。
俺は今そんな風に考えていたんだ……だけど、この後の美紀の言葉で俺のそんな考えは全て吹き飛ばされた。
『あ、オカちゃんそれ無理! だって私既に死んでるもの。 ついでに言うなら次の転生先も決まってるから私は現世には戻れないの! だからこれからはオカちゃんは気兼ねなく私の体を使ってくださいな……って言うか使ってくれないと色々困る!! だから使え!!』
「………………は?」
ナニイッテルンダコイツ?
とりあえず思ったこと。 俺には『加藤美紀』を理解するのは不可能なのだという事だろう……
『理由は……言えない事が多いけど、私は死んだ。 それだけは変わらないんだ、そして私は私の残された時間をオカちゃんを助けるために使います! 私の体じゃ色々不便かもしれないけど精一杯サポートはするから……だからちゃんと生きてね』
美紀は俺の理解が追いつかないうちにどんどんしゃべっていく。
ちょっと待て、ちょっと待て! 俺、美紀の言ってる事全然わかんないんだけど……ちゃんと説明してくれ!!
そうしている時、朝日が差し込んできた。
『あ……時間だね。オカちゃん、日が……』
「ちょっと待て、美……紀……」
朝日が部屋を明るく照らす……その時にはもう鏡に『美紀』は映っておらず、今の『美紀』が写るだけの普通の鏡になっていた。
「幻覚……だったのか? は……はは、今までのやり取りが幻とかだったら俺やべーわ、末期症状だわ……でもなんでかなぁ、幻覚とは思えないんだよなぁ」
それにどうしてだろうか、目が覚めてから今まで自分でもありえないくらい余裕がなかったのに……なのに今は何でだろうなぁ、すごく楽になったんだよな……幻覚かもしれないが『美紀』に会えたからか? もしそうだとするなら俺は相当おめでたい性格なんだろうな。
― くぅ~…… ―
そんな風にしてたら腹が鳴った……そういえばもう一日位何も食べてないような。
そう思ったらすごくお腹が空いてきた、すんげぇ現金な体だな……思わず笑えてくる。
今のこの状況なんて分からない事だらけで、問題は何も解決してないけど……だからどうしたって思えてくるね。 とりあえず腹ごしらえでもしますか……あ、まだ朝の5時にもなってない。 どう考えても朝食ってないよな、しかもここ『美紀の家』みたいだし勝手が分からん……はぁ、もうちょっと我慢するか
― くぅぅ~きゅるるぅ…… ―
……ちょっとは自重しないかな美紀の体よ?
こうして、俺は何もかもが分からないまま今までとは違う不思議な生を生きる事となった。
◇◆◇
待ってる間に少し考えた事がある。
これから俺はどうするか……一つ言える事は『相沢陸』として行動しない方がいいだろうと言う事。
俺が本物の『相沢陸』なのかどうかについてはさまざまな事を考えられるが一先ずそれは置いておく。
俺は自分を『相沢陸』だと思っている、しかし周りから見ればそうは見れないと言う事だ……それは昨日の夜の典明や鈴木の反応を見れば『美紀』が狂ったようにしか見えないのだろう。
では『美紀』の振りをするか? ……無理だ。 元の美紀を再現しようって無理だ、それは美紀の性格云々ではなく知らないことが多すぎるからだ。
確かに『相沢陸』と『加藤美紀』は幼馴染でもあり過去はその行動を多く共にしていた。 しかし思春期に差し掛かれば男女の違いも出てくるし生活の違いも出てくる……そう考えるなら俺は『加藤美紀』の事を何も知らないのと同じだろう。
― くぅぅぅ……くぅぅぅ…… ―
お願いだから腹の虫自重して、今結構真面目な事考えてるんだからさぁ……
まぁ、そんな状態で日常生活が送れるのだろうか……少なくとも親には一目でばれる気がする。
……あれ、もしかしてこれ朝食とかに顔出さない方がいい感じ?
― くぅぅぅ……きゅるるるぅ! ―
自己主張しすぎだ腹の虫!! ちょっと黙ってろ、俺も腹減ってんだよ!!
どっちにしろずぅっと家族と会わないなんて事は出来ない。 どうなるか分からないなら行動するしかないか……そういえば、今のような事態になってから美紀のおばさんとあったのはこの体で目が覚めた最初の時だけだ、この体になってからよく気を失っているためかちゃんと話す機会は居るのなら今からの朝食と言う事になるのか。
― くぅぅ、くぅぅ ―
……もう腹の虫はほっとこう、自分の体と漫才してもしょうがない。
時刻は6時位、とりあえず俺は部屋から出る事にする。 美紀の部屋は二階にあり部屋から出て右手にはすぐ階段がある、俺は下に下りていくと『トントン』と言う包丁の音か聞こえた。 美紀のおばさんが朝食の準備をしているようだ、時間的に多分美紀のおじさんもいると思う。
『美紀』の家族構成は美紀のおじさんとおばさん、それに『美紀』の三人だ。 ……そういえばおじさんは中学に上がったあたりでなぜか俺を警戒するようになっていた、……う、嫌われてるわけじゃないんだが若干苦手なんだよな。
部屋を覗くとおじさんとおばさんがいた、こちらにはまだ気がついていないね……あ~、考えがまとまらない、うん回れ右して部屋に帰ろうそれがいい。 俺は元の部屋に戻ろうとした。
― くぅぅぅ…… ―
腹の虫いぃぃぃぃぃ!! お前は何故だ! 何故そうなんだ!!?
あほみたいな展開だが腹の虫によって二人に気づかれてしまった。 仕方なし……どうとでもなれ!!
「おは……よう……ござい、ます……」
そして俺はお辞儀した……
…………しまった!! 何だこの対応!? 美紀はそもそもこんな対応などしないだろうしそうじゃなくても他人行儀過ぎる!! それにどもりすぎだ!! どうしてこうなった!!?
― くぅぅぅ…… ―
さらに腹の虫が駄目出しの一発!! ……何か色々終わった気がする。
「えっと、美紀……大丈夫なの?」
おばさんはこの状況に戸惑いながらもそんな風に聞いてきた。 多分言いたい事や聞きたいことは沢山あるだろうけどおばさんはそう聞いてきた。 多分いろんな意味のこもった『大丈夫なの?』だろう……
「大丈夫……です。 えっと、ごめんなさい」
何に対してなのか自分でも分からなかった……でも事故にあってからのこと諸々を謝らなければならないと思った。
「美紀、辛い事があったばかりだ余り無理するなよ」
「お腹空いてるんでしょ、すぐ準備するからちょっと待ってて」
おじさんもおばさんも言いたい事、聞きたいことも色々あるはずなのにそれ以外何も言わなかった。
多分、いつも美紀を支えてきたのだろう、今も美紀に負担をかけないようにしてくれたのだろう……そして俺はそんな中に突然入り込んでいる異物なのだろう。
二人をどうしようもなく騙している存在なのだろう……
目の前に出されたご飯を食べた。
出されたご飯は温かくおいしかった……そしてどうしようもなく泣きたくなった。
二人を騙していると思う罪悪感からなのか……美紀を守れなかった事に対してなのか。
どんな感情なのか、思いなのか自分でも分からないが泣きたくなった。
「美紀……食べ終わったら顔あらってらっしゃい」
「うん……」
いつの間にかご飯がしょっぱくなってた。
さて、食事を終えた俺は今何処にいると思う?
あ、顔はもう洗ってきた! 汗だくのままの顔はどうかと思うしな……で、問題はだ、今俺は人が恐らく一人でしか入らない個室にいる。
何してるかって? まぁ皆が皆とは言わないが大抵食べた後にする事だな……
「………………泣きたい」
割と真面目に凹んでる。
今更だけど、この体俺の体じゃないんだわ~……幻想とかとう言うの持ってるわけじゃないんだけど、こう違いを突きつけられるとなぁ……いや、こんなことで凹んでると生活なんてできないわけなんだが、むなしくなると言うかねなんってーかこれも長く続くと慣れて行っちまうのかな……何かやだなぁ。
それはそうと今日は無理をせず休めといわれた。
体は大分動くようにはなっているがそれでもまだぎこちなかったりする、それにまだ色々な不安がある。 休めるのならそれはありがたかった。
ただ、おじさんおばさんは仕事を休めないようなのでこの日は俺一人でこの家にいることになる。
感覚的には他人の家に一人でいる事になるので人と接するのとは別種の不安がある……がそれはもうどうしようもないだろう。
それに今日は確かめたい事もある。 一人でいられ自由に動けるのならそれは願ったり叶ったりだろう。
俺の確かめたい事……それは『相沢陸』についてだ、正確には俺の家族……
俺がいなくなった今の相沢家はどうなっているのかと言う事だ……
『相沢陸』に父はいない……父は7年前、俺が九歳の時に亡くなっている。
死因は……交通事故。
俺を助けるために父はトラックに引かれて死んだ。
奇しくもそのときの事故と今回の事故は同じ場所で起こっており……状況もそっくりだったりする。
同じ場所で父と……そして息子まで奪われた母がどうなっているのか。
だから、今日会いに行って見よう……どんな結果になるのか怖いけど、それでも俺は知らなくちゃいけないと思うから……
午前8時、美紀の両親は既に仕事に出ている、そして俺の母もこの時間は何時もなら既に仕事に出ている時間だ。 しかし今日は母が家から出る気配が無い。 しかし家に人がいることは確かだろう、『相沢陸』の弟である『相沢空』は少し前に小学校に向かっていったからだ。
相沢家の家族構成は本来四人、父と母、陸と弟の空だ。
しかし七年前に父を交通事故で失い昨日……いや一昨日か、に俺も失った。
そのため現在相沢家は母と弟の二人になってしまったことになる。
……『俺』は母から父を奪いさらに息子まで奪っていったのか、親不孝も大概だな。
母は、今回の事故に対してどう思っているのだろうか……『美紀』に対してどう思っているのだろうか。
俺は出かける準備をした。 ……しようとしたんだ。
そう、パジャマのまま外に出るわけにはいかない、なので着替えなければならない。
着替え……ねぇ、突然ですがここは美紀の部屋です。 女の子の部屋ですね。 今の俺の体は……美紀のものですね……着替えるとなると当然の如く美紀の服になるわけです。
……ついでに言うと着替えるというと服脱ぐ訳ですよ、現状自分の体なのに何いってるんだ? と思われるかもしれないが、俺からするとすごく背徳的な気分になってくるわけです。
ついでに言うならスカートしかないんですが……これ着るって女装してるようにしか思えないんですが?
……はぁ着るしかないか、選択肢ないしな。
こんなことを既に1時間近く部屋でグダグダやっていた……しょうがないじゃないか、悪あがきだって分かってても抵抗があったんだからさぁ……さて、準備は出来た……覚悟を決めよう。
俺は美紀の家を出て隣の相沢家に向かう玄関から出れば時間にして二分も掛からない距離。
でも踏み出した一歩はとてつもなく重く感じた。
あ……れ? この体になった直後、一番動けなかった時ですらここまで体が重く感じた事はない。
手がべたつく、口が渇く……背中が冷たい、おいおい、まだ相沢家の門すらくぐってないんだぞ、何でこんなになってるんだ? 会う前からこの状態ってどうなんだよ、いくら怖いと思っていてもこの反応は無いだろう。
二歩目……たったこれだけで今度は息が上がる。 たったの二歩で全力でマラソンを走り終わった時のような状態になってる……何の冗談だ、これわ。
― キィ…… ―
隣の家から何か音が聞こえる。
「美紀……ちゃん?」
顔を上げるとそこには母がいた。




