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魔王の気持ち

作者: くのりおん

 ここは魔王城で 僕は魔王。僕は生まれた時から魔王で それは親が先代の魔王という理由だけではないと自他共に認めている。


 魔導を極めんと学べば3年と少しで【魔王魔法】なる新たな魔法を編み出し


 魔法を抜きにした単純な戦闘訓練では1年とかからず師であり魔王である父をして敵わぬと言わしめ


 この世に生を受け 僅か10年余りで総勢100万にも及ぶ魔王軍相手に1人で互角以上に戦えるであろう戦闘能力を得た。 いや 得てしまった というべきか。


 魔族では既に敵無しな力を得た僕は その力を持て余していた。 どこかに楽しませてくれる強者はいないかな などと魔王の実力を鑑みれば絶望的な可能性であるそれを想い 自分が敵に対して魔王らしい口上を述べているシーンまで妄想が進んだところで 不意に魔王の間に唯一ある大扉が勢い良く開かれた。 魔王の妄想をさまたげたその[ 人間 ]は二度三度と深呼吸をしたのち よく通る澄んだ声で


『魔王グラニスよ!貴様の命もここまでだ!

 くたばれぇぇぇぇ!』


 と 神々しい輝きを放つ抜き身の剣を何もないはずの空間から取り出し 魔王たる自分の心臓を貫かんと刺突を繰り出して来た。


(え なにこれ てかこれ受けたら死ねる)


 と玉座に立て掛けてあった自らの愛剣である【魔剣タルタロス】で刺突を後方へと受け流した。そして次撃に備えるべく振り向くと 彼女は既に地に膝をついていた というか転けていた。


(あれ? 彼女もしかして剣 素人?)


 どうすべきか考えあぐねていた魔王だが とりあえず起き上がるのを待とう と静観の姿勢。


 たっぷり10と数秒はうずくまっていた彼女だが 思い出したかのように勢い良く起き上がると

『おのれおのれ!おとなしく殺られろぉ!』

 と神々し(ry を今度は大上段に振りかぶり 愚直にもそのまま振り下ろしてくる。


(どうしようかなぁ...放っておくにしても あの剣なんかやばそうなんだよなぁ...)


 史上最強な今代の魔王をもってしてもやばそうと思わせるあの神々し(ry は おそらく聖剣(勇者にしか使えないとかいうあれ) の類なのであろう。ということはこの残念な女性が勇者...


 どうも勇者というのは実力ではなく天性の適性によるものらしい。にしても気になるのは彼女の剣の腕である。まるで自らが勇者であると知ってすぐにここへ訪れたかのような...


 そこまで考えて魔王は一つの仮説を立てた。


 基本的に魔族より脆弱な人間達は 僕達魔族の脅威を退けるべく 勇者を選出する神託の儀を実行 その神託に不運にも選ばれてしまったのが今ここにいる彼女で 彼女は選出されてすぐに 送り出されて来たのではないか、と。


 もしその仮説の通りだとすれば 彼女はとばっちりを受けただけの被害者とも言える。


 とりあえず話だけでも聞いてみようか と

 頭上より迫る聖剣を弾き飛ばし 【魔王魔法】を発動 次元の狭間とでも言うべき空間へと

 それを収めた。


『なっ フラガラッハが!』


 フラガラッハというのがあの剣の名前らしい。名前からしてもあの剣が聖剣だったのは間違いなさそうだ。まぁ まずは対話を試みようか。 僕は呆然としている彼女に近づきながら


『ねぇ とりあえず君は神託を受けたゆ『くるなぁぁ!』


...その場に座り込みぷるぷると震えている様子を見ると かなり怯えられているみたいだ。

 魔王は少し落ち込んだ。


 警戒を解いてもらうべく【魔剣タルタロス】を後方へ投げ捨て サムズアップしながら笑顔で


『僕は君とはな『近づくなぁぁぁ!』




 あぁ だめだ 面倒になってきた。僕は彼女の制止を無視して腕を掴み 立たせるべく引き上げ、


『シンプルに問『離『黙れ』


 こほん。ではもう一度。


『シンプルに問う。君がここにいるのは誰の指示?』


『...国の兵がいきなり家に押しかけてきて

 “神がお前を選んだ。聖剣を携え魔王を討つのだ”とかいきなり言われて...何が何だか自分でもよくわからないんだ...』


『つまりは国 いや 人類の総意か?...ふぅん

  とりあえず君の国の王に話を聞きに行こうか』


 僕は彼女の手を掴んだまま【魔王魔法】を発動させる。空間転移だってできる万能魔法なのだ えっへん。


 〜〜〜王の寝室〜〜〜


『よっと』


『なっ! こんな簡単に転移魔法を...やはり魔王グラニス 恐ろしい奴だ!』


『魔王なのは認めるけどグラニスって誰だよ

 僕の名前は『魔王だと!?それに勇者!何故ここにいる!?』


『こ 国王様! 何故ここに!?』


『それは儂のセリフじゃ!いきなり転移してきたかと思えば それに魔王だと!?これはどういう『うるさい つかみんな『』だと分かりにくいんだよ 自重しろ』


『『ひどい!?』』


 ふぅ 人(魔王)の話を聞かない奴らだ。さっさとやること済ませて帰ろう。


『さて 国王さん 率直に問うが何故素人同然のこいつを僕のところへ送り込んだの?まさか勝てるとか思ってないよね?』


『い いやぁ 儂の国は内陸ゆえに魔族による被害もほとんどなく、魔王討伐に乗り気では無かったんじゃが...他の国の視線が痛くてのぅ 形だけでもと 討伐の目が0では無い勇者を送り出し、建前を保ちたかったというのが主じゃな。』


『ほぼ0に等しいけどね。つまり彼女は生贄ってわけか。』


『...言ってしまえばそういうことじゃ。本人を前にこれを言うのは心苦しいが...』


 なるほど。国のメンツを守るために仕方なく、か。国王として苦渋の決断を下さざるをえなかったんだろう。それにしてもこの王 始めこそ恐慌状態となっていたが すぐに落ち着きを取り戻している。 愚王と決めつけていたが 認識を改めておこう。さて じゃあ後は生贄となった彼女の処遇だが...


『生贄...生贄か...ふふ...私は生贄...どうも 生贄です...。』


 あぁ 壊れてるわ。 まぁそれも仕方が無いことだろう。なにせ自国に捨てられたのだ。彼女には拠り所となる家族と会うこともできないんだろう。ならば、


『国王さん? この子もう帰れないだろうし魔王が攫うけどいいよね?』


『な 魔王何を!』


『黙って聞いてて。このままじゃ君 野垂れ死ぬしかないよ? で、国王さん いいよね?』


『...いいだろう だが彼女に危害を加えないと約束してくれ。生贄にと送り出した儂が言えた義理ではないが...』


『ほんと どの口が言ってるんだって感じ。まぁそれじゃあ許可もとったし 帰るよ勇者?』


『え 帰るって は? 魔王城にか!?魔王貴様 何を考えている!?』


『だって 関わっちゃったのに見捨てるなんて 僕にはできないな。魔族がみな残虐な性格とか思ってない? 確かに気性が荒い奴は多いけど、僕まで同一視しないでよ。迷惑しちゃうなぁ。』


 さて ここで言い合うのも時間の無駄だしさっさと帰ろう。僕はまた彼女の腕を掴み 【魔王魔法】を発動させる。


 さぁ これから楽しくなるといいなぁ。



 〜〜〜???〜〜〜


『随分と今更だが、何故あの時私をここへ住まわせるなどと言ったのだ?助けるだけなら他にいくらでも方法があっただろう。』


『さぁ 今思えば一目惚れだったのかもね。魔王が勇者に恋をするなんて 笑っちゃうなぁ。』


『一目惚れ、か。あの時のあなたを思い出しても そんなそぶり一切見せなかったくせに。』


『今思えば、って言ったでしょ。あの時は無自覚だったんだろうね きっと。でも今は違う。』





 愛してるよ、勇者。あの時君を攫って良かった。


 あの時あなたに攫われて本当に良かった。私の方こそ、その、 あ 愛してるぞ魔王!



〜fin〜











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