俺が彼女に伝えたいこと
「仕事、何?」
「えっと・・・、多少人には言えない職業をしてい ます。」
「ヤクザ?」
「ご想像におまかせします。」
「・・・じゃあ聞かないけど、条件が一つ。
私と付き合ってることは誰にも言っちゃダメ。
あ、あと一つだけ約束してくれる?」
「何ですか?」
「もし警察に捕まるようなことがあったら。」
「あったら?」
「何より先にあなたのその携帯から、私に関係する すべてのデータを消して。」
「えっ?」
「私の迷惑になることはしないでってこと」
俺が彼女に交際を申し込んだとき、彼女から出された条件は、この関係を誰にも知られないこと、ヤバくなったら彼女との関わりを完全に絶つことだった。
今思うと、あの頃の俺はバカだったのだ。
彼女のこの言葉に愛がないと思っていた。
愛がないのであれば、最初から俺と付き合うことをしなかった。
そう気がついたときには、もうすべてが遅かった。
「そういえばおまえ最近付き合い悪いな。新しい女でもできたか?」
兄貴にそう聞かれたときも、
「女なんていませんよ」
と誤魔化した。
そんな関係を3年位続けた。
彼女は何も言わなかった。
本当に俺の仕事についても聞いてこなかった。
ある日、俺は警察に捕まった。
とっさに彼女のメールアドレスと写真を全て消した。
1年ほどたって、家に帰ったとき、ポストに彼女に渡していた合鍵が入っていた。