イケメンに告白されたけど全力疾走
会議を切り上げて解散後、私は委員長命令で校内を練り歩いていた。
……女装で。
「知名度ではまだ負けてるから顔売っていこうか」
女子を殴りたくなったのは初めてだ。愉悦に満ちた顔が憎らしかった。
「……トイレ」
急にもよおしたため、手近なトイレに入る。
言うまでもないけど男子トイレ。外見的に問題かもしれないけど、女子トイレに入るのはもっと問題があるので仕方ない。
しかし男子トイレに入った瞬間、私は予想外のものを目にして崩れ落ちた。
「……orz」
「うをぅ!? 女子が男子トイレで蹲ってる!?」
個室から出てきた男子が私を見て大混乱。
お騒がせして申し訳ない。しかし立ち直るまでしばしの時間を頂きたい。
「何でトイレに選挙ポスター貼ってんねん!?」
「……ああ、古雅か」
私の正体に気付いてポンと手を打つ男子。
しかしそれどころではない。問題は、足を組んだ小悪魔風ポスターが、男子トイレ内の壁に貼られているということだ。
「駄目でしょ! これは駄目でしょ!?」
「あー、確かに見た目美少女にガン見されながら用をたすのはちょっとね」
「だよね!?」
同意をもらえたのでポスターを剥がしにかかる。というか彼が個室に入ってたのは私のポスターのせいか。
「職員用トイレにもあったらしくて、先生の髪が白くなってたけど」
「何故に!?」
生徒会選挙のポスターを教師に見せ付けてどうすんの!?
いかん。ナイスミドル担任の髪が脱色しきる前に回収せねば!
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「……まさか体育館のトイレにまで貼ってるとは」
校内を走り回り、ようやく全ての男子トイレからポスターを排除した。
女子トイレは確認できない。女装子にも越えてはならない壁があるのです。
「……これどうしよう」
手元には剥がしたポスターの束。その辺に捨てるのは何か嫌だし、貼り直すにも場所がない。
持って帰るしかないかと諦めたところで、唐突に一陣の風が吹いた。
「……あ」
手の中のポスターが一枚、風にさらわれ宙を舞った。そのままヒラヒラと、渡り廊下の向こうへと消えていく。
「拾わないと駄目だよねえ……」
面倒くさい。そう思いながらも私は渡り廊下をつっきり外へと向かった。
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「あれー、どこいったかな?」
校舎の裏の雑木林。百年も前に生徒たちによって植えられたそれは、今では昼休み等に生徒が日除けに利用する憩いの場になっている。
今は放課後なためか人気はないが、探しているポスターも無い。
「……古雅さん」
「ん?」
諦めて帰ろうか。そう思いはじめたところに、微かに自分を呼ぶ声が聞こえた。
よくよく見てみれば、林の中に幾つか置かれたベンチの一つに、一人の女子生徒が座っていた。
……後ろから見ても誰か丸わかりな金髪縦ロールが。
「……何故に?」
背を向けているということは、あちらはこちらに気付いていない可能性が高い。
なら何故私の名前を呼んだのだろう。
「……古雅さん」
「はい?」
「ひきゃああああ!?」
そのまま近付き返事をしたら、何故か悲鳴をあげられた。
……解せぬ。
「こ、こ、」
「コケコッコー?」
「古雅さん!? 違うのです!」
何がや。というか鶏スルーされたよ。
「あ、ポスター」
「ぅ……」
テンパってる藤絵さんの手元を見れば、そこには先ほど飛ばされたポスターが。
「拾ってくれたんだ。ありがとう」
「っ……ええ」
藤絵さんが何かを言いかけて飲み込む。
……どうしたのこの人。もっと苛烈な人かと思ってたのに、意外に大人しい。
「……ああ、ごめんね。ふざけたポスター作って。不愉快だったでしょう?」
「そんなことはありませんわ!」
大人しいと思ったらいきなり叫ばれたでござる。
「このポスター、古雅さんの可愛らしさがよく出ていて素晴らしいです! 今も……」
何やら力説し始めたが、我に帰り一時停止する藤絵さん。
大丈夫か。いろんな意味で。
「……」
「……」
「……お」
「……お?」
「覚えてらっしゃい!」
えー?
ズビシィッとこちらに手先を向けたと思ったら、回れ右をして陸上部もびっくりな速さで走り去る藤絵さん。
さすがアオイ先輩の後釜候補。身体能力も半端無い。
「……帰ろう」
何だかよく分からないが、綾月先輩の言ってた通り今度話してみるといいかもしれない。
というか予想より愉快な人かも。友達になれないかなー。