イケメンに告白されたけど縦ロール
新しい朝が来た。希望は別にない。
昨日はあの後写真だけ撮影することになったのだが、パソコン部の一言が問題だった。
「どうせなら背景が一色の方が加工しやすいんだけど」
結果、何故か駅の白い壁をバックに撮影開始。当然学校帰りの学生さんや、帰宅中のサラリーマンやOLさんまで大注目。
……どんだけ俺を追い詰めれば気がすむの!?
「古雅さ……古雅くんおはよう」
「おはよう」
校門で鉢合わせしたクラスメートの女子に挨拶を返す。
というか何故言い直したし。まさか女装中とノーマル時で呼び方変えるルールでもあるのか。
「うーん。普段は古雅くんて呼んでるんだけど、あの美少女をくん呼びは無理」
「なら普段からさん付けで……なんぞ!?」
靴箱を通過し、廊下に出たところで異様な光景に遭遇した。
廊下に膝をつき、両手で体を支えながら項垂れる女子の群れ。
所謂orzがある一点に向けて並んでいた。
「……メッカか」
「古雅くん。その例えはどうなの」
「いや、この並びっぷりはそうとしか。一体何に向かって……」
言いながらorz集団の中心点を見て、俺は声もなく崩れ落ちorzの仲間入りをはたした。
「……何で完成してんねん」
一人の美少女がそこに居た。
目は少し眠たげに伏せられ、銀色の巻き髪と白い肌は人を惹き付ける艶やかさ。
足を組んだその姿は尊大ですらあり、しかし少女自身には守りたくなるような儚さがある。軽く握った手を口元にあて微笑むその仕種は、まるで聖母の笑みのよう。
強さと儚さと妖艶なあどけなさ。アンバランスな魅力を詰め込んだ少女が君臨していた。
「……なんという自画自賛」
廊下の掲示板に貼られたポスター。それを見て称賛の言葉を並べる俺に、いつの間にか現れた委員長があきれたように言う。
うん。俺のポスターですね。
覚悟はしてた。周囲の女子の反応にも納得した。
でも何で昨日の今日で完成してあまつさえ掲示板に貼られてんねん!?
「パソコン部が一晩でやってくれました」
「ェパンニ!?」
いや無理だろ。徹夜しても無理だろ。
百歩譲ってデータは完成しても、いつ印刷して掲示板に貼り付けた。
「というか古雅くん、もしかしてナルシスト?」
「自信もないのに女装晒してるわけないだろ」
「断言した!?」
自信というよりはプライドか。
女装というのは楽じゃない。男は女と比べ、どうしても肌などのきめ細やかさで劣る。体格だってごまかすのには限度がある。
それを日頃の手入れと、熟練のメイク、そして衣装によってフォローするのだ。
女装子が美しくなるには、女子が美しくなる何倍も努力が必要になる。その努力に裏打ちされた美しさに自信が無いはずがない。
「じゃあ何で女装嫌がるの?」
「むしろ何でみんな女装でひかないの!?」
わりと真面目に思う。
いや、日本は比較的そういうのに寛容な文化ですけどね。
色々複雑な思春期の子供なのに、こいつらの順応性の高さは何なんだ。
「可哀想な古雅くん。いつ自分が糾弾されるかと怯えていたのね」
「おはようございますアオイ先輩。あと一応つっこみますがどっからわいた?」
いつの間にか背後に居たアオイ先輩に抱きつかれる俺。
なんか慣れてきた。というか最近調教されてる気がしてきた。
「良いポスターね。古雅くんの魅力がつまってるわ。でも少し色気が足りないかしら」
「スルーですか。あとあんたは選挙ポスターに何を求めてるんですか」
選挙ポスターにセックスアピールはいらん。というか今の時点でやりすぎだろう。
「まったくですわ!」
「はい?」
聞き覚えの無い声がして、辺りが急にざわめきだした。
見れば数人の女子の集団が、周囲の人間を押し退けながらこちらへと向かってきていた。
その集団の中心を見て、俺は思わず息を飲んだ。
「……縦ロール」
お嬢様の代名詞。金髪縦ロールをひっさげた女子生徒がそこに居た。
俺もウィッグは巻き髪を使っているが、軽くうねってるだけのあれとは比べ物になら無い。
一房一房が捩れ狂い、重力に逆らいながらドリルのように渦巻いている。
見事だ。見事すぎる。だからこそ言わなければならない。
……あんたは居る世界を間違えていると!
「……それは私も自覚していますが」
「してるの!?」
してるのにその髪型なの!?
何? 綾月先輩といい、この世界いろいろ間違ってない?
どっかに好感度教えてくれるお助けキャラとか転がってないだろうな。
「それはともかく。はじめましてかしら古雅さん。私は貴方と同じく生徒会長に立候補しました、藤絵レイカと申します」
「ご丁寧にどうも。知ってるみたいだけど俺が古雅リョウです」
どうやら対立候補だったらしい藤絵さんとやら(金髪縦ロールお嬢)
……勝てる気がしない!?
「私も美しさという点では勝てるとは言い難いですわね。……まさか同じ学年に貴方のような方(変態)がいらっしゃるとは」
うん、まさかだよね。
俺もまさか同じ学年に金髪縦ロールが居るとは思わなかった。
「ともかく! 健全な学園を維持するためにも、貴方のような方を生徒会長にするわけにはまいりません」
ビシィッと俺に手先を向けながら言い放つ藤絵さん。
どうしよう。正論過ぎて返す言葉がない。
「私の誇りをかけて、貴方の生徒会長就任は阻止させてもらいます。……では、ごきげんよう」
そう一方的に宣言すると、反転して歩き出す藤絵さん。その先に居たギャラリーが、モーゼのように割れる。
無言で見送る俺。というか存在がネタなのに、中身まともな藤絵さんにどう対応したらいいのか分からない。
「……どうしてこうなった」
思わず言ってしまった呟きは、騒ぎだしたギャラリーにまぎれて消えた。