イケメンに告白されたけどごめんなさい
「思わぬ過程だったけど、うまくおさまったわね」
本家からの帰り道。行きと同じく無駄に長いリムジンに揺られながら、私はアオイ先輩に絡まれていた。
いや、比喩じゃなく物理的に。
「……何この状態!?」
「疲れた古雅くんを癒してるのよ」
「癒されねぇ!?」
憧れの先輩に膝に乗せられて体まさぐられてどう癒されろと!?
相手が綾月先輩じゃないだけマシというかご褒美だけども!?
「古雅くん。胸にも拘りを持ちましょう。弾力が足りないわ」
「無造作に揉むなし」
布をつめた私の胸元を揉みしだくアオイ先輩。
癒されては無かったけど、ちょっとドキドキしてたのに一気に冷めた。
「でも良かったの?」
「後継のことですか? 昔はともかく今は本心から継ぐつもりですよ」
「そうじゃなくて、ユミコさん」
「はい?」
「本家の誤解を煽ったのはユミコさんでしょう?」
当たり前のように言われて、私はアオイ先輩の膝の上で固まった。
「……何で見てきたように確信してるんですか」
「女の勘」
あらゆる反論を許さないリーサルウェポンきた。
「……まあ悪意からでは無いと思うので。いつも泣いていた私を、逃がそうとしたんだと思いますよ」
「それが善意だとしても、貴方は許せるの?」
「爺様にも言いましたけど、逃げたかったのは本当でしたし」
もしあのまま、負荷に耐えられるかも分からない子供のまま修行を続けていたら、私は潰れずにいられただろうか。
逃げ出したからこそ私は歌舞伎を見つめ直し、その業を継ぐ決意ができた。
「むしろ裏切られたのはユミコさんじゃないですか? 折角逃がしたやつがノコノコ戻ってくるんだから」
「……どちらにせよ、複雑な関係になりそうね貴方たち」
「ですねー」
一度よく話し合うにしても、今後どんな付き合い方になることやら。
少なくとも、昔みたいな関係には戻れないだろう。そうするにはお互いに大人になったし、大人にならなくてはならない。
「それにしてもこれから大変ね古雅くんは」
「確かにブランクがありますし、しばらくは歌舞伎修行に専ね……」
「古雅くん。貴方自分が生徒会長だって忘れてないかしら?」
「………………」
……忘れてた!?
「……一身上の都合で生徒会長を辞任」
「北条さんに殺されるわよ」
うわぁマジで? 容赦ないなぁうちの生徒会書記。
「大車輪な高校生活頑張りましょうね」
「わーい、頑張りまーす」
あまりの前途の多難さに、私はアオイ先輩に抱かれたまま現実逃避した。
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・
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「ごめんなさい」
週明けの学校。私は人気のない校舎裏の雑木林で、深く頭を下げていた。
「……どういうことかな?」
頭を下げられた相手――綾月先輩は、わけがわからないとばかりに目を丸くしていた。
まあ当然の反応か。
「しばらく……多分これから数年、私は忙しくて恋なんてする暇も無くなります。だから綾月先輩の気持ちには応えられません」
「……その断り方じゃ五十点だね」
「手厳しい!?」
相手がありえない相手とはいえ、一応誠意を見せようとしたのにまさかのダメ出し。
え、何? もっと辛辣にいくべきだった?
「どうせ応える気なんてないんだから、希望なんて持たせずにキッパリ断らないと。その断り方だと数年ストーカーばりに待たれるかもしれないよ」
「……待つ気ですか?」
「いいや。リョウちゃんの事情は知ってるしね。わざわざ重荷になるようなことはしないさ」
そう言って綾月先輩は朗らかに、見惚れるほど綺麗に笑う。
まったく。告白の相手が男でなければ、簡単に想いは実っただろうに。
「私が女だったら、綾月先輩を好きになってたかも知れないんですけどね」
「それだったら、僕はリョウちゃんを好きになって無かったね」
ああ、何だろう私たちのこの関係は。
結局の所、私たちは。
「とことん噛み合わない運命だったわけですね」
「そうだねぇ、残念だけど」
そう言って、私たちは笑った。
「ありがとうございました。告白自体は迷惑でしたけど、一連の騒動はそれなりに楽しかったです」
「こちらこそ。楽しかったよ」
差し出された手を握り返す。触れた手には、もう嫌悪感を覚えなかった。
「……私が一人前になる頃には、是非舞台を見に来てください」
「……ああ。『友人』の晴れ舞台を楽しみにしてるよ」
そう言うと、私たちは笑って手を離した。
これが最後。そして始まり。
おかしな告白から始まった関係は、ようやくまともに回り始めた。




