道連れ
文化祭も滞りなく終わり、さて次は修学旅行だと二年生たちの落ち着きがなくなり始める時期。
俺は片想いの相手に電話する少女のごとく緊張に震えながら、高市本家の番号をプッシュしていた。
まあ幸いというべきか、電話に出たのは爺様ではなくお手伝いさんだったので、爺様にアポを頼んで即座に切ったが。
というか爺様が自分で電話にわざわざ出るわけ無いよ。何で緊張してたんだよ自分。
「頭が回るようで詰めが甘いわよね古雅くんは」
そして本家に赴く当日。無駄に縦に長いリムジンが、物理学やら力学に喧嘩売ってるとしか思えないドリフト走行で門前に現れ、出てきたメイドに車内に拉致られた謎。
うん、下手人は目の前にいるから探すまでもない。だが何だこのつっこみ所満載の展開は!?
「一応付いていこうと思ったのよ。古雅くんのお爺さん――高市鉄之助さんなら何度かお会いしたことあるし」
「何故に!?」
「お父様がファンなのよ。私は鉄之助さんは息子さんの十五代目の演目しか見たことないけど」
「世間狭!?」
え、もしかして子役で出てた俺とニアミスしてた?
というか一ファンなのに爺様と面識あるって、アオイ先輩のお父さん何者?
「というわけで古雅くん。これに着替えましょうか」
そう言ってアオイ先輩が取り出したのは、何処に出ても恥ずかしくないフォーマルなスーツ。
……ではなく黒のフリフリゴスロリ衣装。
「何処にでても恥ずかしい!?」
「どうして!? そんじょそこらの女の子ならともかく、古雅くんなら着ても恥ずかしくなんてないわよ!?」
「どうして!?」は俺のセリフだ!?
何故に爺様との真剣な話し合いに女装で向かわねばならん!?
「機先を制するためよ!」
「いや、そんな自信満々に言われても」
確かに俺が女装で現れたら、流石の爺様も度肝をぬかれるだろう。
……いや、もしかしたら「女の魅力が出とらん」と説教される可能性も。
「そういえば鉄之助さんは女形だったわね。古雅くんの女装が妙に堂に入ってるのはそのせいだったのね」
「女形と女装を一緒にしないでください」
いろんな人に怒られます。
まあ女以上に女らしいのが女形だから、まったく関係ないとは言わないけど。
「まあそんなに緊張する必要もないと思うわよ。きっとあっさり話は終わるから」
「……はい?」
軽く、あっさりとそんな事を言うアオイ先輩。
その真意を問い質すべきか悩んでるうちに、俺たちを乗せた無駄に長いリムジンは目的地に辿り着いた。