イケメンに告白されたけど生徒会立候補演説
生徒会立候補演説。選挙活動らしい活動を行えない学生にとっては、これで結果の五分が決まると言っても過言ではない重要イベントである。
そんなイベントに、私は生徒会長候補として挑んでいた。
女装で。
「……何故に!?」
「え? ポスター女装で作っちゃったから、女装で行かないと誰だか分かんないでしょ?」
不思議そうに正論に見えて根本が間違ってることをいう委員長。
演説だよ? 真剣勝負だよ? 流石に悪ふざけが許される場合じゃないよ!?
「だけど男の古雅くん地味だし」
「ぐふッ!?」
痛恨の一撃。確かに女装してない俺が藤絵さんと並んだら、お嬢様と下僕Aにしか見えないだろう。
「演説は真面目にやるんだから良いでしょう? 私も添削手伝ったし」
「……うん」
結果的に本心じゃない綺麗事のオンパレードになったけどな!
まあいいや。もう今さら私と藤絵さんの勝負でそんなの期待されてなさそうだし。
「藤絵さんが先行か……何かインパクトが必要ね」
「頼みます。普通にやらせてください」
何やら不穏なことを画策しはじめる委員長に、私は泣きそうになりながら土下座した。
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壇上に上がった藤絵さんは、まずゆっくりと眼下の生徒たちを見渡した。
その圧倒的な覇気に、この人は本当に男声恐怖症なのかと疑いたくなってくる。
「皆さんこんにちは。生徒会長に立候補しました藤絵レイカと申します。まず最初にお話しするのは、何故私が生徒会長に……」
定形句で始まった演説は、それでも藤絵さんの存在感と凛とした話し方のせいで、聴衆の関心をひき、魅せつけた。
「……伝統を受け継ぎ、発展させながら守り続ける。それは容易なことではなく、皆さんの多くの協力を必要とすることでしょう」
到底実現しそうにないお約束の絵空事も、彼女ならやってくれるという期待を抱かせる。
「……ロイヤリティという言葉があります」
不意に、藤絵さんの話す調子が変わった。
「日本人はこの精神が強く、勤めている会社に忠を尽くすため、諸外国に比べ転職やヘッドハンティングが少ない傾向があります。それは侍魂とも言える、日本人の美徳だと私は思っています」
「皆さんにも学園を愛し、よりよくしたいと思う心はあるはずです。そのためには、自分に何ができるか、何をやるべきか、そして何をやりたいかを自覚することが大切です。
ただ何かをするのではなく、皆さん一人一人が自らを知り、自らを律することにより、学園もよりよい姿へと変わっていくでしょう。皆さんが学園とともに成長し、切磋琢磨する。そんな在り方を私は目指したいと思います」
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「……さて」
藤絵さんの演説が終わり、次は私の番。無駄にでかい学園だけあり、壇上に上がった私を三千人を越える生徒たちが見上げている。
「……ハハ」
委員長と一緒に考えた演説文に目を落とし、何だが笑いがでてきた。
いい文章だと思う。藤絵さんの演説にだって負けてない。
だけどその中に『私』は居ない。だから私は、演説文の書かれた紙を懐にしまいこむと、全力の笑顔で言い放った。
「私が生徒会長になったら男子の制服をスカートにします!」
『何でだよ!?』
男子全員総つっこみ。息合ってるなこいつら、生徒会長別にいらなくない?
「冗談です。皆さん妙な騒動が原因で既にご存知かもしれませんが、私が古雅リョウです」
困惑に包まれる生徒一同に笑みを殺しながら言う。委員長の顔が般若なのは今は無視しよう。
さあ、完全アドリブの演説の開始だ。やるからには全力でやらないと、藤絵さんにも失礼だ。
「この学園をより良くするために何をできるかを考え、皆さんの協力を仰ごうと考えましたが……やめました」
再びざわつく生徒一同。おかしそうに笑っているアオイ先輩。オーラがどす黒くなっていく委員長。
……恐!?
「どんなに崇高な使命を掲げても、生徒全員が同じ場所を目指し続けることは残念ながら不可能でしょう。私たちは未熟ながら一人の人間であり、理想も思想も違って当たり前なのですから。
ならば私に何ができるのか。そう考えた末に、私は生徒全員が見つめる生徒会長になろうと決意しました」
生徒たちの顔に疑問が浮かぶ。その疑問に応えるように、私はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「先ほど藤絵さんからロイヤリティというお話がありましたが、同じく日本独特なものとして、リーダーの在り方があります。
諸外国ではリーダーは何もせず後ろで構えているものですが、日本では自ら率先して動くリーダーが好まれます。これもまた侍魂の発露なのかもしれません。
生徒全員が一つの目標を目指すのは難しい。ならば私は生徒全員が注目し、自分も頑張ろうと思えるような生徒会長を目指そうと思います。
もしかしたら空回りして滑稽な姿を晒すだけかも知れません。それでも、やるからには全力で私は空回ります。
私が全力で頑張る姿を見たいとお思いになった方は、是非とも私に一票をお願いします」
そう締めくくり、私は鳴り響く拍手を見に受けながら壇上を後にする。
「……負け、かなぁ」
言いたいことは言ったけれど、藤絵さんには及ばなかった気がする。
藤絵さんは正統派だ。邪道な私では生徒会長という正統派が必要とされる場面では勝てない。
でもきっとそれでいい。藤絵さんならアオイ先輩と同じように生徒会長としてやっていけるだろう。
ただやりきったという満足感だけを得て、私の生徒会選挙は終わった。
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「やったー! 古雅さんが僅差で勝ったよ!」
「解せぬ」




