結婚初日、旦那様に「君を愛するつもりはない」と言わました。……ところで旦那様。そのジェスチャーはなんですか?
「エレオノール! 私は、君を愛するつもりはない!」
ローラン・ド・ヴァレンヌ公爵——わたくしの旦那様となった人は、いきなりそう言い放ちました。
わたくしたちは結婚式さえもせずに、夫婦となりました。
そうして迎えた、初めての夜。
ローラン様は寝台に入ることさえせず、わたくしを拒絶しました。
ああ、でも……そういうものですわよね。
わたくし、エレオノール・ラファイエットは侯爵家の前妻の娘ですもの。
国の命令があったという名目で、わたくしは『女嫌い』で有名なヴァレンヌ公爵に嫁がされて……って、あら?
「……! ……っ!!」
どうしてかしら。
ローラン様が必死に、わたくしに何かを訴えかけてるように見えますわね。
首を横に振り、両手を顔の前で合わせて、公爵とは思えない勢いで小さく頭を下げました。
それはまるで、「ごめんなさい」と全力で主張しているかのようで……って、もしかして。
間違ってたらごめんなさいと思いつつ、わたくしは軽く息を吸いました。
「どっ、どうして!? どうして、そのようなことをおっしゃるのですか……!?」
叫んでから、首を傾げてみました。
いまいち伝わっていないような気がしたので、口を「合ってますか?」と動かしてみましょう。
「……!」
ローラン様は驚いた顔をした後、うんうんと勢いよく頷いてくださいました。
随分と、嬉しそうですわね……。
「最初に言っておけば、君も期待せずに済むだろう? 国王の命で、君のことは仕方なく迎え入れただけだ。悪く思うな」
あ、はい。
分かっております。分かりましたので。
大丈夫です。
そんなに謝らなくて、大丈夫です。
「ひどい……っ、あんまりです……っ」
「!?」
ローラン様、安心してください。
あまり上手じゃないと思いますけど、貴族のたしなみとして泣く真似くらいは普通にできます。
え、えっと、あの、真似です。
なので、悲しそうな顔をしないでくださいまし。
「……!」
ローラン様、罪悪感で死んでしまいそうですわ。
だからわたくし、『嘘泣きをしながら親指を立てる』という全力で意味が分からないことをする羽目になりました。
一瞬だけ悲壮感の化身のようになっていたローラン様ですが、わたくしの動作を見て吹き出しそうになって……から、何故か辺りをキョロキョロし始めました。
「ふん、せめてもの情けだ。この広い寝室は、君ひとりで使うと良い」
音もなくテーブル横に移動したローラン様は、上に置いてあった紙にペンを走らせて、書いたものをわたくしに見せてくれました。
『すまない、絶対にこの後、性格が悪そうなメイドがやってくるはずだ』
せ、『性格が悪そうなメイド』ってなんですの……?
どうせ、すぐに分かりますわね。
つまり今は、気にしなくてもいいことです。
わたくしは分かりやすいようにと、大きく頷きました。
それを見て、安心されたのかもしれません。
ローラン様は器用にも、喋りながら続きを書き始めました。
「余計なことをするなと言ったのだが、屋敷の者が話を聞いていなかったようだ。寝室が共用では、話にならない」
『本当に申し訳ないんだが、適当に相手をしてやってくれ』
「明日には新しい部屋を用意させる」
『そして、その性格が悪そうなメイドが帰ったら、重ね重ね申し訳ないが、左(←)の窓を開けてくれ』
あ、はい。
私から見て左の窓ですね、分かりました。
指示が大変分かりやすくて助かります。
とりあえず、そろそろ相槌入れときますね。
「ろ、ローラン様、は……」
「やかましい!」
わたくしの言葉を聞いたローラン様は、わざとらしく、とにかくわざとらしく机をバンと叩きました。
大きな物音にちょっとびっくりしてしまいましたが、同時に引き出しを開けて紙を隠されました。
ですので、意図は大いに分かります。
引き出しを開ける音を隠すために机を叩いたのですね。
安心してくださいまし。
まったく怖くありませんわ。
ただ……その、色々と気にされていて、大変ですわね……?
「私は客間を使う。広い部屋を明け渡してやるんだ、文句は言うなよ。……鬱陶しい」
「そ、そんな! ローラン様! ローラン様!!」
ローラン様が、わたくしに向かって握り拳を突き出してきました。
わたくしも同じようにしてみると、コツン、と軽くぶつけてくれました。
なんでしょう、仲間感がありますね?
ありとあらゆる意味で謎の協定が結ばれてしまいましたが、間違いなく後で事情は聞かせてくれそうです。
だから、今は言うことを聞いておきましょう。
……悪いようにはならないでしょうし。
ローラン様は苛立った様子でドアを乱暴に開けて、部屋を出ていってしまいました。
これは恐らく、悲しそうにベッドに腰かけておくのが正解でしょうね。
立ったままなのもどうかと思いますし、座っておきましょう。しょんぼり、という感じで。
——そうして、5分ほど経ったでしょうか。
廊下から、人の気配がしました。
ヴァレンヌ公爵家の紋章が入った制服を纏った、年若いメイドの方が勢いよく部屋の中に入ってきました。
「奥様ぁ!」
あらあらあら、なんということでしょう。
ノックすらしないなんて。マナーがなっておりませんわね。
わたくし、流石に驚いてしまいましたわ。
「あたし、びっくりしちゃいましたぁ! 優しい旦那様が、あんなことを言うなんてぇ!」
そのメイドは愉悦の表情を隠すことなく、わたくしの側に歩み寄ってきました。
「君を愛することはない、ですってぇ? 旦那様ったらぁ、酷いことをおっしゃいますねぇ~?」
そうだろうとは思いましたが、間違いないですわね。
彼女のことですわね、性格が悪そうなメイドというのは。
ただ、わたくしには分かりますの。
これは悪そうじゃなくて悪いが正解だと思いますわ、ローラン様。
とりあえず、適当にあしらっておきましょう。
「わ、わたくし……っ、わたくし、何か、間違ってしまったのでしょうか……?」
そう言いながら、わたくしは顔を下げてみました。
……もう顔は上げません。
しおらしい感じの表情を作り切れるか、怪しいですもの。
なんと言いますか、ちょっと笑ってしまいそうですもの。
そうですわね……わたくしが顔を下げているせいで分かりませんが、性格の悪いメイドさんが楽しそうにキャッキャしてることだけは感じ取れましたわ。
「仕方ないと思いますよぉ? ローラン様ったらぁ、女嫌いなんですもの。幼馴染のあたし以外、受け付けてくれないというかぁ」
「そう、なんですね……ということは、わたくし、おふたりの、間に……」
「いえいえ! そんなことはぁ、無いですぅ! お気になさらないでくださぁい!」
こ、困りましたわ。
あまりにも馴れ馴れしすぎて、今は手に持っていない扇でパシンと手を叩きたくなってしまいました。
恐らくローラン様はお外にいらっしゃいますし、お待たせするのも申し訳ないので早く帰っていただけないかしら。
「でも、奥様もぉ、大変ですよねぇ……お可哀想に」
……なんなのでしょうか。この満ち溢れた自信は。
ローラン様は、あなたのことを『性格が悪そうなメイド』と言っておりましたよ?
顔を見たいようで見たくないような謎の葛藤に苦しみながら、わたくしはしばらく性格の悪いメイドの気持ち悪い喋り方に耐え続けました。
〇
「——本当にすまない!!」
そんな気はしておりましたが、ローラン様はずっと窓の近くで待機してたようです。
ローラン様はわたくしが窓を開けると同時に這い上がってきて、土下座しそうな勢いで頭を下げました。
「と、とりあえず……落ち着きましょう……?」
わたくしたちはベッドの上で、何故かお互い正座した状態で話し合いをすることにしました。
「えーと……じ、事情をお伺いしても……?」
「そうだな、実は——」
詳しいお話を伺ってみると、かなりややこしいことになっておりました。
まず、ローラン様は何年も前から暗殺者の類を送り込まれ続けているそうです。
ローラン様は若くしてヴァレンヌ公爵家の当主となったのは良いのですが、それが問題だったようで……公爵家の財産を狙う親戚の類が、これでもかと刺客を送り込んでくるという話でした。
今は証拠を揃えて彼らを糾弾すべく、信頼できる人々と共に全力で戦っている真っ最中だそうです。
ですが屋敷内にすら疑わしい人間はまだ残っているらしく、なかなか大っぴらに動くことができず、困り果てているとのことでした。
しかし、ローラン様は公爵家の人間。
彼のご両親が早くに亡くなってしまったこともあり、後継ぎを残すために国王は彼に「嫁を取れ」と圧を掛け続けておりました。
それを回避するために、ローラン様は『女嫌い』という噂を流して、国の圧を掻い潜るべく立ち回っていたそうです。
「『愛されない』と分かっていながら大切な娘を差し出すような家はいないと思っていたのだが、まさか国王が高位貴族に依頼をして回るとは思わず……」
「応じてしまったのがラファイエット、ということですね。申し訳ありません、元々、お父様はわたくしを追い出したがっておりまして……」
ローラン様はわたくしの事情を知らないはずです。
一通りお話しすると、彼は肩を落として眉尻を下げてしまいました。
「すまない。変なことに巻き込んでしまったな。せめて、君に事前に話ができればよかったのだが」
それは仕方の無いことですわ。
わたくしは実質、問答無用で寝室に放り込まれてしまったようなものですし。
今にして思えば、あれはローラン様方と敵対している存在による策略だったのでしょうね。
だからこそ、ローラン様は罪悪感でいっぱいいっぱいになっているのでしょう。
「うふふ、驚きはしましたけれど、悪戯をしているようで楽しかったですわ」
「……そのように言ってもらえると、心が軽くなるな」
嘘は言っておりません。
何も言わずに頑張って意思疎通をするなんて、今まで経験したことのない出来事でしたもの。
そしてローラン様は、酷くげんなりとした様子で部屋の扉を見ました。
「先ほどの性格の悪そうなメイドは幼馴染の子爵令嬢だ。家同士の結びつきを強めるために、と先代からいる娘なのだが……私がいつまでも結婚しないのを見て、何を思ったか『あたしが好きだから、旦那様は誰とも結婚しないのね』と思い込んだようで」
「ああ……」
「いきなり『愛するつもりは無い』などと言った件だが、あれは変な人間に話を聞かれるわけにはいかないと判断していたのもあるが、少なくとも、間違いなく彼女は近くにいると考えていたのでね。私が君と親しく振る舞えば、後々嫌がらせのような真似をするだろうと思ったんだ」
「あの……失礼ながら、ローラン様。性格の悪そうな、ではなく性格の悪い、だと思います」
「本当に……すまない……」
「いえいえ、大丈夫です。その、つい……」
ローラン様は、疲れ切った顔で深々と息を吐き出します。
「彼女は実質、厄介な親戚繋がりでうちにいるせいで、追い出そうにも追い出せなくて困っているんだ」
性格の悪いメイド、ルチアさんは元々は居候のような形でヴァレンヌ家に入り浸る謎の存在だったとのことでした。
そして屋敷の人間が強く出られないのをいいことに、そのまま居座ってしまったそうです。とんでもないお話ですね。
ただ、妄想しがちで訳の分からない振る舞いをする厄介者ではありますが、ルチアさんは自主的にメイドとして働き始めただけでなく、仕事ができるという長所をお持ちなんだとか。
それなら『仕事はするし、まあ良いか』で放置できたのでしょうが、問題は彼女の家と親しい家系にローラン様を敵視する派閥が複数存在することです。
ルチアさんに対して変な態度を取れば、それを理由に敵対派閥から責め立てられる可能性がありますし、そもそも彼女が逆恨みで余計なことをする可能性もあります。
だから強気には出られない、と——本当に、ローラン様が不憫でなりません。
「迷惑ばかりかけて、すまない」
「いえいえ、ローラン様は何も悪くありませんわ」
相変わらず、彼はわたくしを『巻き込んでしまった』とお思いのようです。
ですが正直、この件に関してはヴァレンヌ家の内情を無視して婚姻を推し進めた国王陛下に問題がありますし、これ幸いと手放しで応じてしまったラファイエット家が悪いと思いますの。
「どちらにせよ、表向きは私と不仲に見えるように振る舞って欲しい。そうすれば人質として君が利用されるような事態にはならないだろうし、ルチアに嫌がらせをされるようなこともないはずだ」
不仲な夫婦。
俗に言う白い結婚。
国王陛下もヴァレンヌ家とラファイエット家の婚姻を強引に推し進めた手前、ローラン様がわたくしを邪険に扱っていても何も言えないようですし。
何かを言えるのであれば、強制的に結婚式を挙げさせているはずですからね。体裁が悪いですし。
ヴァレンヌ家は国に対する影響力の強い、由緒正しき一族。
派閥の規模も大きく、これ以上何かを強いては王家の立場に影響が出るとお考えなのでしょう。
恐らく、国王陛下は『婚姻関係さえ結ばせれば、なし崩しで何とかなる』とお考えだったのでしょうね。……残念、何ともなりませんでしたわ。
そして形だけの結婚式さえ挙げないほどに、ローラン様はわたくしを邪険に扱っている。
そんな状況であれば、彼の親戚の方たちはわたくしを人質にして彼に何かを無理強いするような真似はできませんし、しようとも思わないでしょう——ローラン様からすれば、わたくしは助ける価値がない存在なので。
ルチアさんも同様です。
むしろ、勝ち誇ったような気持ちになっていることでしょう。
ただ、わたくし。
やはり、ローラン様が不憫でなりませんわ。
「わたくしに何か手伝えることがあれば、遠慮なくおっしゃってくださいまし」
思わず手伝いますとお伝えすると、ローラン様はパッと顔を上げました。
「いいのか!?」
「な、何かあるのですか!?」
勢いが良すぎてびっくりしましたわ。
この方は苦労をしすぎて、色々とおかしくなってるのかもしれませんね。
「その……もし良かったら、なんだが。不仲に見えるように振る舞うついでに、嘘の情報を流す協力をして欲しいんだ」
「嘘の情報?」
「例えば——」
ローラン様は、語りました。
やたらと予定を聞いてくる人間がいるはずだから、その人物に「この日は登城の日だったのに、一緒にいたくないと言われてしまった」と愚痴を語って欲しいだとか。
やたらと商売関係の話をしたがる人間がいるはずだから、その人物に「こういった商品を求めていると聞いたことがあります。わたくしが率先して動けば、愛してくださるのでしょうか?」などと呟いてみて欲しいだとか。
要は証拠を掴むために、相手がボロを出すのを狙うために、不仲とはいえ婚姻関係にあるわたくしが、ローラン様に関する嘘の情報をばら撒いて引っ掻き回して欲しい、というお話でした。
不謹慎ではありますが——これは、ちょっと面白いかもしれませんね。
「なるほど。わたくしが話す内容が間違っていても、不仲だから正しい情報が伝わっていなかった、と言えば済むだけの話ですからね。……この手を使えば、同じ相手であっても3回くらいは騙せるかもしれません」
ローラン様は、「そうだな」と頷きました。
「エレオノール嬢、君のことは、私が責任を持って守る。望みがあるなら、可能な限り叶えよう。だからどうか、協力して欲しい」
「はい、喜んで。一応はヴァレンヌ公爵家に嫁いだ身ですもの。全力でお手伝いいたしますわ」
望みを考えて……わたくしはふと、思い至りました。
「ローラン様。もしよろしければ、ラファイエット領について調べて欲しいのです。領民たちが、不自然に貧しい生活を強いられておりまして」
疎まれていたわたくしは、領地経営の類から引き離されておりました。
ですが、裕福なはずのラファイエット領に、貧しい人々が溢れかえっている状況が不思議でならなかったのです。
これは何かあるのではないか、とずっと疑っていたのです。
わたくしが進言しても、お父様は当然のように聞き入れてくださりませんでした。
もしヴァレンヌ公爵家が動いてくださるのであれば、貧困に喘ぐ領民たちを救えるかもしれない。そう思ったのです。
「……エレオノール嬢は、優しいのだな」
ローラン様は先ほどまでの様子とは打って変わって、優し気に微笑みかけてくれる。
「任せてくれ。君に悪い影響が出ないよう、細心の注意を払って動くことにするよ。他にも何かあれば、遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。では、これからよろしくお願いいたします」
わたくしはローラン様、そして彼の信頼できる側近の方々と手を結び——もうこれでもかと、これでもかと不仲な様子を演じ続けました。
とにかく会話をせず、互いのありもしない悪口を言い合い、時には即興でローラン様と夫婦喧嘩もどきをするような真似をしました。
わたくしはわたくしで、「嫌になってしまったから、困らせてやりたい」とヴァレンヌ公爵家の重大機密を怪しい人間たちに吐きだすような真似をしました。……もちろん、嘘なのですが。
わたくしが引っ掻き回しに引っ掻き回し、隙を窺っていたローラン様は見事、怪しい人間の尻尾を引っ張り出し、ヴァレンヌ公爵家の平穏を取り戻すことに成功しました。
さらに、ラファイエット家は二重帳簿の類は当然として、国費の中抜き等にも手を出していたようです。
ラファイエット家には厳罰が下されることになりましたが、ローラン様はわたくしが既にヴァレンヌ公爵家の人間であることを理由に、厳罰の対象外になるよう手続きをしてくださいました。
加えて、わたくしに関与の疑いが無いことも証明してくださいました。
そうしてローラン様に全力で守っていただき、わたくしはお咎めなしとなりました。
……ありがとうございます、ローラン様。
最後に、
「旦那様ぁ! どうして、どうしてあたしを追い出すんですかぁ!?」
ルチアさんが、ヴァレンヌ公爵家から追い出される日がやってきました。
実際のところは早い段階で暇を出されていたのですが、彼女は驚くほどに、これでもかというほどに強引に屋敷に居座り続けたのです。
ローラン様は無理矢理追い出すような真似はせず、それどころか次の就職先を決めてもいたのですがね……
「旦那様! 旦那様ぁ! あたしのこと、愛してくださってたじゃないですか!!」
「君を愛したつもりはない!!」
そうしてルチアさんは、屋敷の外に放り出されてしまいました。
ちょっと不憫には思いましたが……まあ、仕方がないですわね。頑張って生きてくださいまし。
——ヴァレンヌ公爵家に平穏をもたらすための、激動の日々。
気がつけば、わたくしが嫁いできてから4年も経っておりました。長いようで、短い年月でした。
「エレオノール」
少し落ち着いてから、ローラン様がドレスのデザイン画を大量に持ち帰ってきてくれました。
「ローラン様……?」
「今さらだが、結婚式を挙げたいと思っている。君さえ、良ければ……だけどね」
そうでした。
わたくしたち、結婚式を挙げておりませんでしたね。
ローラン様はわたくしの顔を真っ直ぐに見据えて、眉尻を下げます。
「ちゃんとした式を挙げることができず、申し訳ない。まだ、間に合うだろうか……?」
申し訳なさそうにするローラン様の顔を、この4年間に何度見たことでしょう。
この人は、ずっと耐え続ける日々を送っていたはずです。
そんなローラン様がよろこんでくださるなら、喜んで式を挙げましょう。
……いいえ、わたくし自身も。
それを望んでおります。
「ぜひ、お願いします。ローラン様」
「エレオノール……!」
ローラン様はわたくしを軽々と持ち上げ、少しだけ顔を赤らめて笑ってくださいました。
「エレオノール。私は、君を愛しているよ」
それは4年間、一度も聞いたことのない言葉。
……嬉しい。
わたくしとローラン様は、もはや戦友のような関係でした。
見えないところでお互いを称え合ったり、お互いを気遣ったりはしておりましたが、夫婦らしいことは何ひとつとしてしてきませんでした。
ですが、それでも。
それでも、わたくしは、
「わたくしもあなたをお慕いしております。ローラン様」
——あなたを、愛しております。




