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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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地縛霊の初恋

作者: すもも
掲載日:2026/10/14

それはどうしようもなかった。

それは辛かった。

僕は1番愛してる人に愛されなかった。

僕が言うことを聞かない悪い子だったから。

何日ご飯を食べていないんだろう?

もう、お腹は空いていない。

ママが出かけている時に水道の水を飲んで我慢している。


ママは時々家に帰ってきてくれる。

でも僕の顔を見てくれはしない。

少しくらいはママと遊びたいんだけど、ママと遊ぶのはあの知らないお兄さんみたい。


僕の楽しみはベランダに来るカラスと遊ぶこと。

僕が話しかけてもきっとわからないだろうけど、静かに僕の話を聞いてくれる。それだけでも良いんだ。

カラスが遊びに来てくれるのは週に数日。

僕の少ない楽しみ。


セミが鳴いて、すっかり暑くなった。

今日もベランダに出てカラスとお話。

いつもの通り、少し首を傾げながら僕の話を聞いてくれる。

すると玄関の扉が開きママとお兄さんが入ってきた。

「お前の息子、カラスと友達じゃん!」

「うえ、気味が悪い」

久しぶりに聞いたママの声は、とっても冷たかった。

「そんなに友達といたいなら、ずっといな」

そう言ってお兄さんが窓の鍵を閉めた。

「開けて!開けてよ!」

僕はママに必死に言ったが、そのまま出かけてしまった。


もう、どれくらいベランダにいるんだろう?

暑くて目を開けるのも辛い。

泣いたらママに怒られるのに涙が出てしまう。

カラスたちは僕の周りでたくさん鳴いていた。

僕はきっと死んでしまうんだな。


目を開けると、何となくいつもと違う感じがした。

少しフワフワとした感じがあって、昼なのに薄暗くて見えにくかった。

それに、さっきまであんなに暑かったのに、今は少し寒い。


窓を開けようとすると、僕の手は窓をすり抜けた。

不思議に思いながら窓をすり抜けて部屋に入ってみると、テレビも机も何も無く、からっぽだった。

ママはどこに行ったんだろう?

ここで待っていればママが戻ってきてくれるかな?


もうどれくらい待ったんだろう?

いつまで経ってもママは来てくれない。

それでも寂しくはなかった。

カラスがいたから。

窓からどんなに人に呼びかけても聞こえないみたいなのに、カラスには僕の声も聞こえるし姿も見えるみたい。

これまで過ごしてきて、お腹も空かないし、眠くもならない。何となく僕は死んじゃったんだなと思った。


ある日、突然玄関の扉が開いた。

ママかな?と思ったがそこには知らない家族がいた。

お父さん、お母さん、あとは僕と同じくらいの女の子だ。

その家族はとても幸せそうだった。

お父さんもお母さんも女の子もみんな笑っていた。

女の子が一生懸命話しているのをお父さんとお母さんは目を見て聞いていた。

こんな風に笑えるって良いな。


見ていると、次々と家の中に机や椅子、テレビ等が運ばれていく。

からっぽの部屋が違う部屋みたいに変わった。

でも大丈夫。ママはきっと僕を思い出して帰ってきてくれるはず。

一生懸命、そう考えた。


しばらくすると女の子と目が合った。

女の子のお父さんお母さんには見えていないのに、女の子は不思議そうな顔で僕を見る。

見えているのかな?

試しに手を振ってみた。

すると女の子も手を振り返してきた。

「ねえねえ!パパ!ママ!このお家男の子が住んでるよ!」

女の子はそう言ったが、お父さんとお母さんには、やはり見えないみたいだ。


夜になり、ご飯の時間みたい。

「今日は引越しだから時間なくてインスタントでも良い?」

「ラーメン?やったー!」

女の子が喜ぶ。

小さな机にみんなで座ってインスタントラーメンを食べている。

僕にはご馳走に見えた。

「パパ!机運んで凄かったね!」

「そうだろう?パパは力持ちだからな!」

一つ一つの言葉がとても暖かくて、落ち着く。

僕は知らない世界だった。

「ねえねえ!あの子もお腹すいてるかな?」

僕の方を見て女の子が言った。

「あの子?」

お父さんお母さんにはわからない。

「大丈夫。僕はきっと食べられないから。ありがとう」

女の子にそう言ってみると

「え?そうなの?おなか、空いてないの?」

「えっ!?僕の声が聞こえるの?」

「うん!」

「そっか」

嬉しかった。僕の言ったことが聞こえて、返してくれるのが。

「ねえねえ!あなたはだあれ?」

「え?僕?」

「きっと妖精さんじゃないか?」

女の子のお父さんが言った。

「妖精さーん!」

僕は妖精さんということになった。

「君のお名前は?」

「私はチカ!よろしくね!妖精さん!」

チカちゃんのお父さんもお母さんも、気味悪がらずニコニコとチカちゃんを見守っている。

優しいなぁ。


次の日、お母さんが朝ごはんの準備をしている。

するとチカちゃんが眠そうな目を擦りながらリビングへ歩いてきた。

「おはよぉママ」

「おはよう」

おはようか・・・どれくらい聞いていないかわからないや。

「チカ、パパのこと起こしてきてくれる?」

「うん!パパー!お寝坊さんだよー!」

なんて、キラキラした朝なんだろう。僕には眩しすぎた。


目玉焼き、ウインナー、食パン、スープ、野菜・・・

豪華な朝ごはんだ。これを食べたら朝から楽しいだろうなぁ。

チカちゃんはその豪華な朝ごはんをモリモリ食べている。

お父さんは大あくびをしながらパンを食べている。

それを見てお母さんは優しそうに笑っている。


「そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ!」

「わっ!やべやべ!」

「やべやべー!」

朝の、のんびりとバタバタが一緒になっている時間。これも素敵な時間なんだなぁ。

「あっ!」

チカちゃんは振り返り

「妖精さんも一緒に行こうよ!」

「ごめんねチカちゃん。僕はここで待っている人がいるから」

「そうなんだ・・・早く来ると良いね!」

うん・・・早く来てくれると良いな・・・。


チカちゃんがいない家の中はとっても静かで、さっきまでが嘘みたいだった。

それでも家の中は何だか暖かくて心地良い。

僕はベランダに出てカラスと話すことにした。

「チカちゃんといると、いつもより明るくて、暖かくて不思議な気持ちなんだ。チカちゃんに触れられたらもっと暖かいのかな?」


夕方になってカラスは少し鳴いて帰っていく。

すると玄関の扉が開きチカちゃんが元気に帰ってくる。

「ねえねえ、ママ!今日ね・・・」

そう言いかけると僕をちらっと見て

「妖精さんも聞いて!」

とお母さんと僕に今日あったことを一生懸命話してくれる。

話を聞くのってこんなにも楽しかったんだな。


その日の夜、チカちゃんに触れてみることにした。

寝ているチカちゃんの手をとろうとすると、スっとすり抜けた。

でもとても暖かく、ずっとこうしていたかった。

すると、ズズズっと少しずつ手がチカちゃんの中に入っていくのがわかる。

それが心地良くて、つい入っていこうとしてしまった。

チカちゃんがうなされている顔を見て、ハッとした。

急いで手を離し、これはいけない事だと思った。

チカちゃんの幸せを壊してしまう気がしたから。


次の日チカちゃんは僕を見てこう言った。

「昨日、妖精さんの夢を見てたんだけど、妖精さんすごく怖い顔をしてた。妖精さんって悪い妖精さん?」

何も答えられなかった。


それから僕はチカちゃんの顔を上手く見れなかった。

チカちゃんがいる時もベランダで過ごした。

僕はもう、チカちゃんに会ってはいけない気がしたから。


チカちゃんを避けるようになって何日か経った。

「妖精さん、今日も来てくれない・・・」

「大丈夫!きっとまた来てくれるよ!」

チカちゃんの悲しそうな顔を見て、胸がぎゅーっとなった。

僕もチカちゃんに会いたい・・・触れたい・・・


数日経った。チカちゃんはもう僕の事を話さなくなった。

僕はチカちゃんに謝ることにした。

チカちゃんはテレビでアニメを観ている。

「あっ・・・あの・・・チカちゃん」

「・・・」

聞こえなかったかな?

「チカちゃん!ごめん!僕、君の幸せを壊したくなくて!でも僕がいると壊れてしまいそうで!」

チカちゃんからの返事はない。

嫌われてしまったんだな・・・そう思っていると

「あっ。そういえば妖精さん、まだ来てない・・・」

あぁ・・・もうチカちゃんに僕の声は聞こえないんだね・・・。

力が抜ける気がした。周りがもっと暗くなり、チカちゃんだけが明るい。

僕はこんなにもチカちゃんと会いたかったんだな・・・。


しばらく経ってチカちゃんはもう「妖精さん」とは口にしなくなった。

チカちゃんのランドセルはだんだん小さくなっていき、新しい学校に行くみたい。

チカちゃんはお母さんの手伝いもするようになって料理も上手だ。


チカちゃんはすっかり大きくなって、僕なんかより背が高くなっていた。

「いってきまーす!」

チカちゃんの元気な声が部屋の中に響く。

僕はベランダからチカちゃんを眺めていた。

もう、忘れられてしまったのかな・・・?

寂しくて、チカちゃんの事ばかり考えてしまう。

僕の中でチカちゃんの存在はママより大きくなっていたんだ。


夜、チカちゃんは自分の部屋で勉強している。

キッチンではお母さんが料理を作っている。

お父さんはまだ帰ってきていない。

すると突然お母さんが倒れた。

僕はチカちゃんに教えてあげなきゃと思ってチカちゃんの部屋に行った。

「チカちゃん!大変!」

僕の声は聞こえていない。

何とか知らせようと物を叩いてみたり、電気を消そうとしてみたりした。でもすり抜けてしまう。

何度もやっているとチカちゃんのコップにぶつかれた。

触れられた!

コップは机から落ち、割れた。

「うわあ!もー!」

チカちゃんは部屋を出た。

「お母さーん、コップが・・・え!お母さん!大丈夫?」

チカちゃんはすぐに救急車を呼び病院へ行った。

僕は心配だった・・・。

お母さんがいなくなったらきっとチカちゃんは悲しくなってしまう・・・。

慌ただしかった部屋が、今はしーんとしている。

僕は待つことしか出来なかった。


しばらくするとチカちゃんとお父さんが家に帰ってきた。

「とりあえず少し入院したら平気だって」

「焦ったよぉ・・・でも、大きい病気とかじゃなくて良かったぁ」

チカちゃんはほっとした顔でお父さんと話していた。

僕もほっとした。

だけど二人は夜ご飯を食べる時も楽しそうじゃなかった。

お父さんが頑張って話していたけれど、いつもとは何か違った。

チカちゃんは部屋で静かに泣いていた。

泣かないで・・・きっと大丈夫だから・・・。


何日か経ってお母さんも帰ってきた。

「お母さん!今日は私がご飯作ってあげる!」

チカちゃんは嬉しそうだった。

「良いの?じゃあ甘えちゃおうかな!」

「今日はハンバーグにしちゃおうかなー!」

明るい声が部屋に響く。

そうそう、僕はこれを聞くのが好きだった。

ご飯ができてみんなニコニコと話している。

チカちゃんは大笑いしている。

ずっとこれが好きだった。

ここは僕の暗い世界の中でとっても明るく、暖かい。

チカちゃんが笑うと触れなくても胸がポカポカしてくる。

あぁ。僕はずっとチカちゃんが笑顔ならそれで良かったんだなぁ。

そう気づいた時、僕の体は少しずつ薄くなっていった。

僕は消えちゃうのかな・・・?

チカちゃんに会えなくなるかもしれないけど不思議と悲しくない。

だってチカちゃんは今も笑っているから。

「チカちゃん、大好きだよ」


「妖精さん・・・?」

彼女は窓の方を見ると、一羽のカラスが遠くに飛び立った。

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