夏、夏、夏! 海だ、花火だ、夏期講習だ!
1.夏が来た!
むかしむかしあるところに、三匹の子豚が住んでいました。
長男の子豚はわがままで無鉄砲、次男の子豚は面倒くさがり屋で指示待ちタイプ、三男の子豚は慎重でしっかり者でした。
むかしむかしのあるところにも、暑い熱い夏がやってきました。
その年の春に何とかFラン大学に入った長男の子豚は、授業に出ないでバイトに勤しみ、念願の車とサーフボードを手に入れました。
「待ちに待った夏だぜーっ! 海、サーフィン、ビキニギャル、夜の砂浜に花火! ブヒー、たまんねーっ! 兄ちゃん楽しんでくるから、お前たちは勉強頑張れよ!」
長男の子豚は弟たちにそう言うと、海へと車を飛ばしていきました。
次男の子豚は高三で大学受験を控えていますから、夏休みは勉強です。両親も長男で失敗したので力が入ります。でも、面倒くさがり屋で指示待ちタイプでしたから、親が申し込んだ夏期講習に参加はしたものの……。
「ふぁああああ、眠い。今ごろ兄ちゃんはウホウホだよな。来年どこでもいいから大学に入ったら、兄ちゃんに海に連れて行ってもらおう。ここは冷房効いてて気持ちいいなぁ、だめだ、起きてられない……」
机に突っ伏して寝てしまった次男を横目に、三男の子豚は講師の話に聴き入っています。まだ高二なのですが、難関国立大を目指して勉強したいと両親に頼み込んで、次男と同じ講習に参加したのでした。
二人の兄のようにはなるまいと思っているのですが、それでも兄弟。長男の無鉄砲ぶりが気になるようで。
「大兄ちゃん、一人で大丈夫かな。よく考えずに行動するから……」
2.長男の子豚、夏!
ドーン、ドドーン、ドドーン、ドドーン、パチパチパチパチパチ……
海の上に広がる星空に、色とりどりの光の花が咲き乱れます。
「やっぱ夏は花火だな」
「ああ。今の連発で終わりじゃね? 何か腹減ったわ」
ひと気のない暗い砂浜で、いかにも悪そうな狼が二匹、ビールケースを椅子にして花火を観ていました。
「子豚くーん、俺たち腹減ったんだけどさー、丸焼きになってくれる?」
狼は笑いながら長男の子豚に話しかけます。
「ひぇ~っ、い、命だけはお助けを!!!!!」
長男の子豚はロープで縛られて砂浜に転がされていました。
いったい何が起こったのでしょう?
この日の昼間、長男の子豚は、海水浴場でサーフボードを小脇に抱え、ナンパをしてはシカトされるを繰り返していました。
やがて水平線に夕日が近づいて、現実は甘くないことを認めようとしたその時、声をかけてきた女性がいたのです。超ビキニ、超グラマラス、超美人。今晩誰もいない浜で花火を観たいけど、怖いから一緒に来てくれませんかと。
もうおわかりですね。長男の子豚がスキップして向かった待合せ場所には、極悪な狼が二匹、薄ら笑いを浮かべて待っていたのです。
「お金は全部渡したじゃないですか。解放してくださいよ……」
長男の子豚が泣いて頼んでも狼たちは聞きません。
「俺らだって解放してあげたいよ。でもさ、これっぽっちのお金じゃ一週間も持たないよ。そしたら俺たち飢え死にだぜ?」
狼は舌なめずりをしながら長男の子豚を見ています。
「わ、わかりました。お金を持ってきてもらいます!」
3.次男の子豚、夏!
夏期講習の昼休み。次男と三男の子豚がお弁当を食べています。
「小兄ちゃん、寝ても構いませんが、いびきはやめましょう。恥ずかしいですよ」
「そんなうるさかったか? あーよく寝た……あ、そうだ! 昨日の夜に来てた兄ちゃんのメール、お前どうする?」
「大兄ちゃんからメールですか? 来てないですよ」
「ほんとに?」
次男の子豚はスマホを取り出して確認します。
「……あぁ、宛先、俺だけだわ。読むぜ。『勉強頑張ってるか? 兄ちゃんは、毎日海に花火にビキニギャル。これがリア充ってやつ? 今度の週末、お前も息抜きにこっちに来いよ。そん時にこっそり家のクレジットカードを持ってきてくれよな! 絶対に誰にも言うなよ』って、しまった言っちゃったよ」
「小兄ちゃん、まさか行かないですよね?」
「え? あ、あぁ、行かない、行かない……」
4.三男の子豚、夏!
ヒュルヒュルヒュルー、ドーン……
ヒュルヒュルヒュルー、ドーン……
「……兄ちゃん、これ、どういうことだよ?」
「な、花火、きれいだろ?」
「ふざけんなよ!」
次男の子豚もロープでぐるぐる巻きにされて、長男の近くに転がされています。
「子豚くーん、クレジットカードありがとね。じゃ、暗証番号教えてくれるかなー?」
狼は手にした拳銃を次男の子豚の鼻面に押し付けます。
「さっさと言わないと、花火が終わる前に君の命が終わっちゃうよ」
「わーっ、言います、言います! だから撃たないで!」
「小兄ちゃん、言ってはいけません!」
砂浜の奥にある防砂林の暗闇から声がしました。姿を現したのは三男の子豚です。
「何だ、てめえは!」
狼が拳銃を向けますが、三男の子豚は慌てません。こちらに向かって歩いてきます。
「撃てるもんならどうぞ。モデルガンですよね? 見たらわかりますよ」
くそっと言って狼は拳銃を持つ手を降ろしますが、もう一匹の狼がナイフを取り出しました。
「それじゃ勝てませんよ。何しろ僕にはこれがあるので」
三男の子豚は背中のリュックから拳銃を取り出しました。
「けっ、どうせそれもモデルガンだろうが!」
「ええ、モデルガンです。ですが、改造して弾は出ます」
「ふん、ド素人の改造で弾がまっすぐ飛ぶかよ! 仮に飛んでもド素人の撃ち方じゃ当たんねぇ……」
ドドーン、ドドーン、パチパチ、ドドーン、パチパチパチパチ……
銃声は花火の音にかき消され、二匹の狼は砂の上に倒れてピクリとも動きません。
三男の子豚は長男の子豚のロープをほどきます。
「ありがとう、助かったぜ。あいつら死んだのか?」
「ええ。在来種なら世紀の大発見で生け捕りにしましたが、外来種だったので駆除しました。後で鍋にしましょう」
「お前、いつの間に拳銃の扱いがプロ級になったんだよ?」
「夏期講習で学びました」
それを聞いて次男の子豚が声をあげます。
「そんな馬鹿な! 受験用の講習だぞ……もしかして、俺が寝てる間にそんな話があったのか?」
「違いますよ。小兄ちゃんと一緒に受講している受験用コース以外に、僕はオプションで特殊技能コースもとってたんです」
三男の子豚は次男の子豚をロープから解放します。
「そんなのがあったのか……」
「ええ。火器講習です。備えあれば憂いなしですよ、兄さんたち」
三男の子豚が満足そうな笑みで見上げると、フィナーレを飾るスターマインの色とりどりの花が、夏の夜空いっぱいに咲き誇っていました。
(了)
初稿はエブリスタで、その改修版ver.1.1になります。




