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第一章 第六話 リーシャ=シルヴァン

光が収まった時、俺はダンジョンの中と思わしき場所にいた。

「愚者を牢へと導け……か、ここはいったいどこなんだ?」

周りはさっきまでいたダンジョンのように光が灯されている。

「俺はなんのためにこの世界に送られてきたんだ?」

フィルは俺が望んだ事だと言っていた。それでもこんな結果になると知っていたら俺はここになんて来なかっただろう。

「そういえば、記憶を取り戻せる方法があるって言ってたな」

俺自身が何を望んでこの世界に来たのかは気になる。

「レナベルにも恨みができたからな。復讐せずに終わらせるなんて俺らしくねぇ。それに気持ちよく死ねねぇだろうがよ」

とは言ったものの、俺はまだレベルが低い。スキルも獅子の咆哮と、ライトニングソードだけだ。ここがどこだかわからない以上、脱出して誰かに助けを求めるしかない。

「ダンジョンだとしたら上に向かうか」

俺は上層で根をあげていたくらいの弱さだ。獅子の加護の能力がどれほどの力を持っているのか分からない以上迂闊に戦いたくない。

「言ってるそばから」

近くで石の転がる音が鳴った。右の道から転がる音が聞こえたが、姿が見えない。

「俺に気がついてないといいが」

このダンジョンの地形も知らない時点で逃げるという選択肢が取れないとすれば極力モンスターに出会わず上を目指す他ない。

だが無情にも足音はこちらに近づいてくる。壁から影が見えた瞬間、俺は獅子の加護を使った。

「スキル、獅子の加護!」

何も起こらない。

「獅子の加護!獅子の加護!!」

やはり何も起こらない。

「使い方が間違ってるのか!?こんなことならフィルに使い方を聞いておくべきだった!」

俺は何も起こらないことを確認した瞬間逃げる準備を始めていた。

「待て」

後ろからそう言われた気がした。影しか見ていなかった俺は正体が何なのか確認していない。

(もしかして人間か?)

そう思ったがモンスターの罠だと考え俺は走り続ける。

「待てと言っておる」

やはり待てと言われている。だが、罠だと一度考えてしまうと足を止めることは出来なかった。

「はぁ、全く。なぜこんな所に」

後ろから声が聞こえた瞬間真横に狼の姿をしたモンスターがいた。一瞬の出来事で声もあげることも出来ずに立ち尽くす俺に狼は口を開いた。

「なぜこんな所にお前のような男がいる」

そう聞かれたが状況を飲み込めない俺は立ち尽くすしか無かった。

「この姿では怯えさせてしまうか。少し待っておれ」

狼は後ろを向いたかと思うと徐々に姿が小さくなっていく。俺と同じくらいの背丈になった頃姿は止まった。

「これでどうじゃ?」

ニッコリ笑うケモ耳の彼女を確認した後、頭がパンクしそのまま意識を失ってしまった。


「お、やっと気がついたか」

俺が目を覚ますと横には可愛らしい女の子が座っていた。

「あれ、そういえば狼は?」

「人の顔を見るなり気絶して、起きた第一声がそれか、全く失礼なやつじゃ」

「もう一つ失礼なことを言うとその可愛い顔でその喋り方は少しもったいない気がするぞ」

「本当に失礼なことを言うとは、はぁ、我が一族皆がこのように喋る。誇り高き種族故、違う喋り方をするならその一族を離れ誰かに忠誠を誓う時、又は謀反を起こすときじゃな」

女の子は少し間を置いて、

「それより、お主の名前はなんじゃ?」

「俺はユウ=ヘブファルだ」

「我はリーシャ=シルヴァンじゃ」

さっきまでの恐怖心は不思議となくなっていた。

「それで、早速で悪いがここはどこなんだ?」

「それを答える前にこちらから一つ質問をさせてもらおう。お主はなぜこのような場所におるのじゃ?」

「とある女に騙されたんだ」

「と、いうと?」

俺は異世界から来たことを伏せつつレナベルに騙されて、ここに来たことを話した。

「俺はレナベルという女とレベル上げのためにダンジョンに入ったんだ。そこで俺が特殊な能力?を持ってるとか言い出してお前は脅威になるって理由でここに転送されたんだ」

「話の内容が全く掴めんのだが、なにか隠したいことでもあるのか?別に何を話されたところで殺そうとかは思ったりせんよ」

俺は一瞬戸惑った。異世界から来たことを素直に話してレナベルみたいに手の平を返して来るのではないか。だが、リーシャは今会ったばっかりだし、仮に話さずに見捨てられてもどの道死ぬだけだ。ならばさっき起こったことを全て話してもいいのではないか。そう考えた俺はさっきと違う、丁寧に、この世界に来たことから話し始めた。

「ふむ。異世界からの人間か。また珍しい出来事に出会ったの」

「え、本当に殺さないのか?」

「何故、我が殺さないといけないのじゃ?」

「だって、レナベルは異世界から来たって知られたら殺されるって……」

「あぁ、それは多分嘘じゃろ」

「……はぁ!?」

「我は長い間このダンジョンにおるから今地上での考えがどうなっているのかは分からん。じゃが、我が地上にいた時は異世界の者は逆に尊敬されておったぞ」

「すまん、何が何だか理解が出来ないから詳しく説明を頼む」

「ふむ、良かろう」

リーシャが言うにはこうらしい。

かつてこの世界は神が全ての権利を有していたという。神の娯楽のために一つの国から食料を全て無くしたり、神の吹き込んだ嘘で戦争を起こさせたりなど、本当に遊びの為だけに神はこの世界を使っていた。だが、圧倒的な力を振りかざす神の前に反抗できる者はいなかったそうだ。だが、神は同じことを繰り返しているだけだと飽きてしまい、とある神が異世界から人間を召喚しようと考えた。ただ召喚するのではつまらないと考えた他の神はこの星に魔法を与えることにした。最初は魔法を扱えない異世界の人間を何も抵抗する術もなくいたぶる様を楽しんでいた。だがやはり、神々は飽きてしまい、強い刺激を求め始めた。そこで異世界の人間の召喚を提案した神はここに来る人間に力を与えてみてはどうかと提案をした。それと同時に、この星に対して、大きな不利益になるようなことはしない。神を殺せる力を有した人間が現れるまで長い年月を要すかもしれないが、神を殺せたのなら、新たな神の座を用意し、この星の権利を全てその者に譲ると。

神の予想通り数百年の年月を経て一人の、いや一つのパーティーが神々の元へたどり着いた。詳しく伝承はないが、そのパーティーは数人の神を重傷に追いやったものの、誰一人殺すことは出来なかったそうだ。パーティーは壊滅状態にあったが、死者を出すことなく帰還させられてしまった。その後の彼らを知る者は居ない。

話を聞く限り人間に与えた力ってのがギフトのことだろう。

「おいおい、俺が聞いてた話と全く違うじゃねぇか」

「そうじゃの、我も話を聞いていて、どこの世界の話をしておるのか疑問に思っていたのじゃ」

「それなら最初から教えてくれよ」

少しげんなりしつつ今度は俺が質問をした。

「んで、それと尊敬されてるってのはどう関係があるんだ?その話が本当だとして、異世界から来たけど結局神を打てずに厳しいままの世界じゃないのか?」

「そうじゃな、でも神を殺せるかもしれないと希望を与えてくれたのもそのパーティーがあったからじゃ。故に異世界からの人間には特別な力を宿している。そのもの達を無下に扱う事はご法度というのが暗黙のルールとしてあるのじゃ」

「なんか、都合のいい方に考えてくれてるんだな」

「あっはっは、そうかもしれぬな」

リーシャは、「じゃが」と続き悲しそうな表情で続ける

「神が死ぬ瞬間を我が見る事は出来ぬがな、そして、また一つ、神への道が閉ざされてしまう」

どういう事だろう。

「理解出来ぬ顔をしておるな。仕方あるまい。先の質問の答えも兼ねて我が説明しよう」

リーシャは少し間を置いてから話し始めた。

「ここは無限の牢獄じゃ」

「無限の牢獄!?」

ダンジョンに向かう最中にレナベルに少し教えてもらったところだ。

「ここは、本来お主のような者が来れるはずのない場所なんじゃ」

「と、いうと?」

「このダンジョンは無限に続く迷宮、元は無限迷宮と呼ばれていた場所でな、様々なパーティーがこの迷宮に入っていた。だがある日を境にこの迷宮はギルドの所有物になってしまったのじゃ」

「ダンジョンは元々ギルドの物じゃないのか?」

「いいや、ダンジョンはギルドが管理をしているだけでギルドの物では無いのじゃ。ギルドが権利を全て握ってしまえばダンジョンに入れる者、入れない者を選別できてしまうからの。そうなってはこの世界にいる冒険者は成長することが出来ない。つまり神を討つことが出来なくなってしまうのじゃ」

「なるほどな」

「付け加えれば無限の牢獄のみ、例外を除いて立ち入ることは出来ないのじゃ」

レナベルにもそんなようなことを言われたような気がする。

「どういう人が例外に入るんだ?」

俺は何故か少し緊張しながら聞いていた。

「それはな……」

リーシャは口を開きたくない様子でこちらを見てくる。

「最後まで話を聞いてからお主は行動して欲しい。話を聞いている途中に何かをしようとしては我はお主を殺すしか無くなってしまう」

突然殺すと言われた俺は心臓が一瞬で跳ねたのがわかった。

「あぁ、わかった」

どんな話が来るのか俺は身構えながら長いようで一瞬だった間が終わる。

「ここは大罪人、極悪人が収容される監獄なんじゃ」

俺は一瞬にして全身の血の気が引いた。

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