第一章 第四話 冒険
日の出の光とともに目を覚ました俺はいつの間にか寝返りを打ってしまったのか、荷物から頭が外れてしまっていた。
「ふあーあ、なんか寝た気がしないな、今日は金を稼いでどこかの宿を借りるか」
レナベルより早く起きた俺は少しだけ外に出て軽く運動をすることにした。
腹筋、背筋、腿上げ、スクワットを三十回を二セットをこなした俺は軽く柔軟体操をして家に戻ることにした。
「日本にいた時は毎日やっていたからな、やらないと気持ち悪いんだよな」
そうは言ったが、気になることもあったので運動をした。
「筋力64、体力128はこれくらいやってもあんまり疲れが無いのか」
ギフトで貰った知の加護の影響で、体力と攻撃力の初期値が減少してしまっているので、日本にいた時よりも下がっているのかを確認したのだ。
「ステータスが下がるどころか、逆に日本にいる時よりもついてるとはな……」
そう考えるうちに俺はレナベルの家に着いた。
「ちょっと!どこ行ってたの!」
扉を開けた瞬間、どうやって付けたのか分からないほどの寝癖が付いているレナベルが立っていた。
「いや、ちょっと運動しに行ってただけだけど」
「ギルドカードを置いていかないでよ!誰かに取られたらどうするの!それに……朝起きて急にいなくなったら何かあったと思って心配するじゃない」
「あぁ、すまんすまん」
「全く、ちゃんと危機管理しなさいよ」
「レナベルは髪の管理をしっかりしろよ」
そういうとレナベルは顔を真っ赤にする。
「うるさいわね!うぅ……こんなことなら止めなければよかった……」
涙目になりながら愚痴を吐くレナベルはとてもかわいかった。
「ま、今日は宿代くらい稼ぐから明日からは気にしなくていいけどな」
「えぇ!ぜひともそうしていただきたいわね!」
そうは言っても、ギルドカードを忘れていたのは迂闊だったな。ステータスは誰にも見られないとはいえ、何かあったら困る。これからは昨日おまけでつけてもらったポーチにしまうことにした。
数十分後、支度を終え俺は初めての冒険に出かけた。
「なぁ、どこに向かっているんだ?」
レナベルについて来たはいいものの、人の気配が全くない、森の中に連れてこられてしまった。
「最近、この近くで新しくダンジョンが生まれたの。いまからそこに向かうわ」
「新しくできたって……この世界にはどれくらいのダンジョンが存在しているんだ?」
「思っているほど多くはないわよ。各ダンジョンに存在する階層主をすべて討伐すればダンジョンは自然消滅する。ただ、例外を除いてね」
「例外?」
「えぇ、普段は消滅するはずのダンジョンも、無限に階層を増やしていくダンジョンがあるの。通称、無限の牢獄と呼ばれているわ」
無限の牢獄……ダンジョンと言えば牢獄というよりも迷宮の方がイメージあるんだが......
「なんで迷宮じゃなく、牢獄って呼ばれてるんだ?」
「それはわからないわ。私たち一般人は立ち入ることが出来ずにいつの間にかそんなダンジョンができて名称も既にできていたわ」
「もちろん下の階層に行くほどモンスターは強くなっているんだよな?」
「そうね、とくに深層に入ってからは段違いに強くなっているという風に聞くわ」
無限の牢獄か、変に縁が生まれなければいいがな。
「ついたわ、ここよ」
目の前には大きな洞穴があった。まるで俺たちを吸いこもうとしているみたいに存在感が大きい。
「ここに入るのか……」
「怖い?」
「当たり前だ、昨日この世界に来たのにこんな物騒なダンジョンを見たら怖いに決まっているだろ。それに、俺は魔法も使えないのにこの剣一本で戦うんだぜ、怖いに決まっているだろ」
「ま、いざというときにはお姉さんが守ってあげるから安心しなさい!
「はいはい、俺より年下のお姉さん」
レナベルはふくれっ面をしていて、俺を睨んでいた。冗談を言ったが、実際何かあったらレナベルに頼るしかない。
「まぁいいわ、入りましょう」
「ダンジョン内は暗いものだと思っていたが、明るいのか?」
アニメとかで見るダンジョンは松明やらなにやら光の出るものが無ければ前が見えないというイメージが強かったが、このダンジョンは違った。外から見える範囲にはなかったが、床、天井、壁に至るまですべての鉱石が微弱な光を放っていたのだ。
「ダンジョンは基本的にこんな感じで光が灯っているの。でも階層によっては全く光がない階層もあるわ」
「これはどうやって光っているんだ?そういう鉱石ってだけなのか?」
「それがね、光っている原理はわからないの。レアな鉱石だと思って採掘してみたら割れた瞬間に光を失い始めたわ
この世界の人でもダンジョンのことについてわからないことがあるのか、果たして俺の今後の生活は大丈夫なのか?
「ユウ、構えて、敵が来たわ」
「え?」
瞬間、俺の右側を何かが通り過ぎた。
「な、なんだ!」
「そんなに焦らないの、これはゴブリンの仕業よ」
俺は通り過ぎて行った物の正体を見るべく、後ろを確認した。その先には小さい槍が刺さっていた。
「ちなみにこれ当たったら死んでいたよな?」
「死んでいたわね」
「それで焦るなって無理な話だろ!」
「そんなこと言ったらレベルアップできないわよ!」
そうは言われても怖いものは怖いし、何より死にたくない。
「俺に戦い方を教えてくれ」
「えぇ、もちろんよ、そのためにここにきているからね」
ゴブリンの姿は見えない。だが、左右が壁になっていて槍の方向を考えると馬鹿な俺でも場所はわかる。
「真正面から来たってわけか」
「大抵のモンスターは知性がないから私たち人間を殺すことだけしか考えてないわ。だからどれだけ強くてもモンスターの特徴さえ掴んでしまえば簡単に倒せる」
俺の知っているゴブリンの象は集団で行動をしているイメージがある。
「なぁ、レナベル、この辺には何体くらいいるんだ?」
俺の中で緊張感が高まっている感覚が分かる。初めての戦闘というのもあるがゴブリンに囲まれて死にたくはない。
「え?一体よ?」
「は?」
「だから、一体だって」
俺は一瞬にして緊張感がほぐれた。
「なんだ。一体かよ、ゴブリンは集団で生活するものだと思っていたから変に緊張しちまった」
「だからさっき言ったじゃない、焦らなくていいって。それに、群れで行動してくるモンスターは中層あたりからしか出てこないわよ。上層は基本単体のモンスターしかいないの」
「それを早くいってくれ……」
「それを最初に言ったら緊張感がなくなるじゃない。モンスターに出会って今みたいになるのは正解よ。緊張感がなくなったらいつ殺されてもおかしくないと思っていいわ」
「はぁぁぁ」
俺は安堵のため息をついた後、ゴブリンが槍を投げてきた方へ足を進めた。
「ちょっと待ってちょうだい」
少し歩いた後レナベルが俺を呼び止めた。
「なんだ?」
俺がそう問いかけると、杖を取りだし、「いいからいいから」と言って目を閉じた。
「あぁ精霊よ、我が意思を受け入れこの杖を依り代に、かのものを守りし結界を生成せよ
精霊護壁」
「わ、なんだこれ」
俺の周りにはオーブみたいなものが飛んでいた。
「それは精霊よ、この杖を依り代にしてもらってあなたを守る結界になってもらったの」
「精霊って、レナベルはなんの加護持ってるんだ?」
「私?私は…精霊の加護と守の加護よ。精霊を使って防壁を張るのが一番得意なことかしらね」
やっべ、レナベルに生意気なこと言ってたけどなんかめっちゃ強そうじゃん。杖を使っているからただ単に魔法使いみたいなものかと思ってたけど、超強いじゃん!
「それは珍しい加護なのか?」
「精霊の加護は確かに珍しいかもね、加護が無くても精霊を使うことはできるけど代償が必要になるし、そもそも精霊が嫌がって代償だけ払わされるみたいなこともあるからね」
「なんだそれ、貰えるものだけもらって、あとはいやですってか?」
「ぶっちゃけそんな感じかな、でも精霊の加護があれば無条件に精霊に好かれるし、代償もなくていいんだ!」
便利な加護だな。戦闘をするときにはレナベルに結界を張ってもらおう。
「ありがとな」
「いいえ、どういたしまして」
また歩き出そうとしたその時、目の前にゴブリンが見えた。
「うわっ」
ファンタジー世界では普通の見た目なのかもしれないが、見慣れていない俺にとっては気持ち悪い見た目だった。それに加え、さっき殺されかけたことを思い出し、恐怖を植え付けてくる。
「こいつを倒さないといけないんだな」
「さっき張った結界の中には入ってこられないようになっているから安心して戦っていいわよ」
こちらから動いてしまえば簡単にゴブリンからダメージを受けてしまいそうで動くことができなかった。
「まずはこちらから動きましょう」
沈黙に見かねたレナベルが俺にそう言った。
「強いモンスターや対人なら相手の出方を待つのも一つの手だけど、相手はゴブリン。攻撃力も知性もほとんどない種族よ。まずは近寄ってみて」
俺はレナベルを信じ、恐る恐る近づいてみる。するとゴブリンが勢いよくこちらに走ってきた。
「うわあぁぁぁぁ」
走ってくるゴブリンの顔は凶悪だった。夢に出てきそうなくらいの気持ち悪い顔で俺を襲おうとしていた。
「逃げてはだめ!それでは強くならないわよ!」
「わかってる、わかってるけど、気持ち悪いし、怖いよ」
「いいから、敵を見なさい!私の結界が無ければ今頃食べられてるわよ!」
この世界は現実だ。ここにきてからすんなりと物事が進んでいたが今目の前にしているのは俺を殺すことしか考えていないモンスターだ。
「よし」
俺は逃げるのをやめ、ゴブリンに対して剣を構える。
「うおおぉぉぉ!」
ゴブリンに対して切りかかる。だがもちろんその場にとどまるほど甘くはない。左に身をかわしこちらに反撃を仕掛けてきたので咄嗟にそちらに剣を振るう。一瞬時が止まったように感じた。
「よしっ!あたった!」
カーンと甲高い音が鳴り響く。
「はじかれた?」
俺は戦い慣れていないながらも、首元に剣が入ったのを見れていた。なのにどうしてはじかれているのか。この剣の問題なのであろうか。
「なんではじかれたかって思ってる?」
俺の気持ちを見透かしたかのようにレナベルが俺に聞いてくる。
「それはね、レベルが足りないからよ」
「武器もレベルに応じて性能が変わるってことか?」
「えぇ、最初は倒せなくて当然。何度も攻撃をしてダメージを与え続ければ倒せるようになるわ」
レベルと武器が関係しているとは思ってもみなかった。
「でもね、それは逆にいいことだと思っているわ。最初のうちからバンバン敵を倒していったら戦闘技術がつかない。そして調子にのったら死んでいく。そういう風になっていったら切ないでしょう?」
確かにそうかもしれない。もともと戦闘をしたことのない俺が簡単に敵を倒してしまったら調子に乗っていただろう。
「さ、戦闘再開よ、頑張ってね」
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