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カオル21歳 ~風と旅する頃~  作者: あやの ちゆ
<第9章> ~めぐり合う魂~
9/10

世の中に騙されないで生きる、「本当に生きている」と言い切れるように。 今週も、誰かと優しい共感が生まれるかもしれない。 第9章を公開 ※いよいよ最終章10章へ!物語は風に乗って時を超えるー

誰かのために生きることを拒み、自分という世界の真実を探すー

静かで確かな心の軌跡。

世の中に騙されないで生きる、「本当に生きている」と言い切れるように。

今週も、誰かとそっと優しい共感が生まれるかもしれない。

「カオル21歳~風と旅する頃~」第9章を公開いたします。

※いよいよ最終章10章へ向かって、物語は風に乗って時を超えるー

 第9章

 ~めぐり合う魂~


 暑い夏が過ぎ、朝晩の風が心地よくなった頃、実家から宅急便が届いた。

 食材や日用品がぎっしり。


 今日はオフ。予定なし。

 学校は行っていない。

 英会話とヒロシの家は明後日。

 朝から何もしない日。

 そんな日もいい。

 21歳のあたしはそう思った。




 ダンボールを開けると、封筒が入っていた。

 あたし宛てのダイレクトトメールばかり。

 ざっと見て床に放り投げ、大の字になった。


 ──2秒後。


 大脳に百万ボルトの電流。

 ガバッと起き上がり、ダイレクトメールの塊を凝視。


 心臓が破裂しそう。


「見まちがえじゃないよね?」


 深呼吸3回。

 ドキドキしながら、一枚ずつめくる。



 コンタクトレンズのセール、デパートの案内、

 そして一番下に、ボロボロの絵葉書。

 ペルー、マチュピチュの写真。


「こんなことってある?」


 裏返せない。

 どうしよう。


 パジャマのまま部屋をウロウロ。

 白クマみたいに。

 歩けば歩くほど鼓動が激しくなる。

 息苦しさは増すばかり。




 髪を掻きむしって、床にあぐらをかいた。

 目を閉じて、また深呼吸3回。


「スーハー、スーハー、スーハー」


 葉書きをひっくり返した。

 青いボールペンの文字は小さかった。


「カオルへ

 今ペルーにいる。

 ヨーロッパまで行って南米に戻ってきたら2年も経ってた。

 旅はまだまだ続きそうだ。

 来月15日、日本に2日間だけ戻る。


 会いに行くよ。 Nao」



 葉書きが手から滑り落ちた。


「今日って何日?」


 冷蔵庫のカレンダーを見る。


 ──9月15日


 どうしよう。

 こんなことが起きるなんて。

 また白クマみたいに部屋をぐるぐる。


 口ばっかりで、まだ300万円たまっていない。

 旅に出られない。

 情けない。

 2年前に先を越されたまま、何も変わっていない。


 会ったら何を話そう。

 心臓の鼓動がどんどん激しくなる。


 ──


 インターフォンが鳴った。


「また宅急便?」


 受話器を取る。


「はい」


「カオル?」


「……」


「俺だよ」


 硬直した手で、オートロックを解除ー。



 2年ぶりに尚樹君が戻ってきた。

 突然、ふらりと。



 あたしたちは、もう21歳。

 少しだけ、大人になっている。



 ドアを開けると、真っ黒に日焼けした尚樹君が立っていた。

 騙されているような気がした。


「久しぶり」


「びっくりした」


 尚樹君は部屋に入ると、ぐるりと見回し、カーペットに座った。

 玄関で茫然と立つあたしに、静かに言った。


「元気だった?」


「うん」


「突然でごめん」


「葉書きをさっき見たの。今日が15日って知らなかった」


 寝起きの姿だったことを思い出した。


「2年前に急にいなくなってごめん」


「あの時も急だったよね」


「ごめん」


 玄関から走って尚樹君の前に座った。

 ボサボサの髪、寝起きの顔のまま。


「ごめんなんて言わないで」



 真っ黒に日焼けして、身体は引き締まり、18歳の頃とは別人みたいだった。

 でも瞳は変わらない。


「手紙とDVDが届いた日、悔しかった」


 あの頃と同じ瞳が、あたしを見つめる。


「出し抜かれたって感じ。捨てられたなんて平凡な感情じゃない」


 日焼けしたゴツゴツの手を握る。


「後悔していないなら、謝らないで」


 あたしたちは見つめ合った。

 ベランダの窓は開け放たれ、秋の始まりの風が吹いてきた。




 外から、廃品回収の放送。


「廃品回収だってさ」


「え?」


「ゴミ出すの手伝うよ」


「ありがとう」


「俺が持つよ。一緒に行こう」



 あたしたちは、空き缶とペットボトル、雑誌とチラシの束を公園の近くまで運んだ。重くて汗をかいた。回収車に間に合った。




「のど乾いたね」


 またゴミが出るのに、ペットボトルのお茶を買った。グビグビ飲んだ。尚樹君も、喉をゴクンゴクン鳴らして飲んだ。


 もう夏は終わり、乾いた風に髪が揺れた、ゆっくりと。

 空には、まだらな雲が静かに流れていた。




「また行くんでしょ?」


「うん」


「いつ?」


「明後日」


「どうして突然戻ってきたの?」


「ペルーで知り合った人が山梨に行くから、案内を頼まれた。旅費もバイト料もはずむって」


「じゃあ、明日は山梨なのね」


「うん」


「カオルはどう?」


「少しずつ準備してる」


「そうか」




 玄関に入るや否や、尚樹君にキスした。

 立ったまま、何度も。

 18歳の頃のキスとは違っていた。

 汗の匂いがした。




 21歳になるまで、あたしは何人かの男と付き合った。

 尚樹君も旅の途中で色々なことがあったはず。

 あの頃とは違う日焼けした腕、胸、背中の筋肉。

 2年間という時の旅が、あたしをものすごくハッピーにしてくれた。




 夜は藍色に染まり、肌寒い風が吹き始めていた。

 時間の感覚が曖昧になる。



 冷蔵庫からピッチャーを取り出し、水を飲む。

 床には缶詰や緑茶、コーヒー豆が散らばっていた。


「明日、何時に行くの?」


「7時くらい」


「一緒に朝ごはん食べてから行ってね」


「分かった」




 ずっと話した。

 言葉が堰を切って流れ出した。


 尚樹君は、18歳の頃も素敵だったけれど、今は磨きがかかっている。

 きっと、自分の中に潜む原石を見つけたのだ。

 それを磨き続けているのだ。




 アルゼンチンで引ったくりにあったこと。

 メキシコで麻薬密売に巻き込まれて拘留されたこと。

 ボリビアで農作業を手伝ったこと。


 ヒロシのモデルになっていること。


 チエコとリュウ君のこと。




 夜はそのままずっと続きそうだった。




「2年も経って変わったように見えるけど、癖毛と瞳は同じね」


「カオルの長い髪を見た時、2年も経ったんだって初めて実感した」


 あたしの髪をなでながら、尚樹君が言った。


 親に嘘をついて始めた一人暮らし。

 その部屋に尚樹君がいるなんて。

 人生は何が起きるか分からない。




 ひとつの枕に2人で頭をのせ、たくさん話した。




 ヒロシが浮世離れしていること。

 お金をはずんでくれるから、世界放浪の資金を貯めていること。

 チエコがリュウ君を養っていること。

 捨てられてもいいと言っていること。


「やっぱり、あたしはラッキーだと思う」


 尚樹君の笑顔を見ながら、話を続ける。


 あたしの人生はスムーズに進んでいる。

 嘘のおかげで「家族」から離れられた。

 お金を貯めようと思ったら、高額なバイトに巡り合った。

 ヒロシは浮世離れしていて、とてもいいひと。

 いつも感謝でいっぱい。


 チエコのリュウ君への愛は神々しい。

 報いを求めず、無条件に与える愛はカッコいい。


 理由は分からないけれど、全てが愛おしくなる時がある。


「髪が伸びて大人っぽくなったけど、中身は変わらないね」


 尚樹君が楽しそうに笑う。

 その笑顔は、クールな秀才、色白の18歳じゃなかった。




「あたしは自由に生きる。

 やりたいことはやる。

 我慢なんてしない」


「カオルと俺は共犯者なんだよ、あの時から」


「ずっとね」




 魂のつながりってあると思う。

 見には見えない。

 けれど、たしかなつながり。

 ジンジン感じる。

 そんな時に、全てが愛おしくなる。

 心の奥底から涌いてくる。




 これは宇宙の営み。

 あたしのような小さな存在に、魂のつながりを感じさせてくれる。

 チリのようにちっぽけでも、宇宙という膨大な空間で魂と魂はつながる。


 それって宇宙の営みでしょ?




「この世にあるもの全ての内側に、宇宙があるってことかな」


 瞼を閉じながら、尚樹君がつぶやいた。




「あたしたちは、やっぱり共犯者ね」




 明日の朝、尚樹君について行きたくなった。

 そのままペルーへ一緒に。

 どこでもいい。

 この人と旅したい、そう思った。




 でも、きっと無理。

 尚樹君は、あたしを連れて行かない。

 一人で行く。




 外の暗闇は、永遠に続くかのようだった。

 けれど、あたしは知っている。

 時は止まらないことを。



 時の旅に終わりはないー


 3時くらいまで話し続けた。

 そして、ふたりとも、そのまま眠った。




 6時

 目覚まし時計の音で目が覚めた。



 尚樹君は、いなかった— 。


 朝陽が金色に輝いていた。

 真正面から、太陽がまっすぐに。


 枕の上に、緑色のメモ用紙があった。


「Hasta luego.  Nao」


「また消えちゃった」




 2年前のあの日、

「バカヤロー」とつぶやいた。


 今日は違う言葉をつぶやいてみる。


 “Hasta luego.”




 —最終章 第10章へ続く―

 毎週土曜日の風にのせて、カオルの物語をお届けしてきました。

 いよいよ来週は最終章!

 風に乗ってどこへ行くのかー

 みなさんは一緒に見届けますか?

 それとも一緒に風に乗って行ってみますか?

 お楽しみに♪


 小説家になろう&noteにて同日公開


—最終章 第10章へ続く―

毎週土曜日の風にのせて、カオルの物語をお届けしてきました。

いよいよ来週は最終章!

風に乗ってどこへ行くのかー

みなさんは一緒に見届けますか?

それとも一緒に風に乗って行ってみますか?

お楽しみに♪


noteにて同日公開

https://note.com/ayanochiyu/m/mb90e54b0da1d

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