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カオル21歳 ~風と旅する頃~  作者: あやの ちゆ
<第6章> ~階段の上のヒロシ~
6/10

旅の終わりは始まりー物語はもう風に乗っている。風に乗れば、きっと心が軽くなるはず、きっと小さな勇気が芽生えるはず。風が心に届くはず。「カオル21歳~風と旅する頃~」第6章を公開いたします。

旅の終わりは始まり ー そのことにカオルはまだ気づいていなかった。

物語はもう風に乗っている。そして広がってゆく。

風に乗れば、きっと心が軽くなるはず、きっと小さな勇気が芽生えるはず。

今週もまた、カオルの物語が風のように心の奥に届きますように。

「カオル21歳~風と旅する頃~」第6章を公開いたします。

 第6章

 ~階段の上のヒロシ



 浪人生活が終わり、国立大学に合格した。見栄を張るのが好きな両親は喜んでいた。


 オサムにハガキを出した。

「無事に合格しました」


 数日後、返事が届いた。


「合格おめでとう。これからまだまだ先は長いです。

 浪人生活の一年間なんて一瞬にすぎません。でも決して無駄ではないと思います。

 貴女らしく前進してください。

 カオル女史の未来を楽しみにしています。」


 素敵だ。やっぱりオサムは最高。言葉が風のように吹き抜けていく。


 そう、あたしはあたしの人生を生きる。

 自由奔放に。

 勝手気ままに。

 ハッピーに。


 風のように。




 2年生になり、まんまと両親を騙して一人暮らしを始めた。

 全てがうまくいっていた。

 やっぱり、あたしはハッピー。


 嫌なことも、ツライこともない。

 自由気ままってサイコー。

 悩まない、心配しない。それが、あたしのアドバンテージ。


 誰にも何も言われないから、やりたい放題。しかも割のいいバイトまで見つかった。週1で5万円。月20万円。こんな楽な仕事は他にない。


 ラッキーとハッピーは、いつも連動している。

 風と波のように。



 始まりは、階段だった。


 元町商店街のウチキパン近くに山手へ続く細い木の階段がある。あたしは毎週その階段を上り、イギリス人のおばさんに英語を習っていた。


 その日も汗をにじませながら上っていると、脇で絵を描く人がいた。淡い色調の花の絵を、背の高い、癖ッ毛の男の人が描いていた。


 みっちり2時間のレッスンを終えて降りると、その人はまだ描いていた。横目で覗きながら通り過ぎると、背後から声がした。


「あの!」


 振り返る。


「もしよかったら、俺の絵を見てもらえない?」


「え?」


「君みたいな素敵な人に見てもらえたら嬉しくて」


 フフン。悪い気はしない。


「えぇ、いいですよ」


 バッグから取り出された水彩画は、椿、紫陽花、向日葵。淡い色彩に力強さが宿っていた。


 黒髪の癖ッ毛は尚樹君と似ていたけれど、もっと長くてボサボサ。瞳の色は、少し茶色がかっていた。


「この向日葵、いいですね。淡いのに力強い。この紫陽花も、雨の中で存在感があって素敵」


「なるほど。もしかして、絵を描いていた?」


「昔、ほんの少し」


「やっぱりね」



 それがヒロシとの出会いだった。




 ヒロシは、汚い格好をしていた。生成り色の変な帽子、汚れたジーンズ、ヨレヨレのTシャツ。絵の具まみれのバッグに、軍靴みたいな靴。


 不審者そのもの。でも、向日葵の絵が気に入った。それがきっかけで、あたしはヒロシのモデルになった。かなり高額のバイトだった。




 外人墓地を抜け、みなとのみえる丘公園の横を抜けると交差点がある。インターナショナルスクールを過ぎ、大きな洋館が並ぶ道を進む。韓国領事館の向かいにある白い洋館、それがヒロシの家。汚い恰好をしているけれど、金持ちだった。



 階段で出会ってから、英会話のあとに毎週ヒロシの家へ通うようになった。


 ヒロシは29歳。自称画家。2年前に両親を事故で亡くし、莫大な遺産を受け継いだ。大学卒業後は世界中を旅しながら、風のように、流れるように生きていた。


 そんな放浪者の匂いに、あたしは強く惹かれた。癖毛と褐色の肌、茶色がかった瞳に吸いこまれそうになる。


「一人で生きるのは気楽だよ。遺産はそのうちなくなるけどね。なくなったらその時はその時。野たれ死にもありだね。モンゴルの草原でもチョモランマの麓でもいい」


 そんなことを言いながら、キャンバスに向う。


 あたしは言われるままに座り、立ち上がり、腕を上げ、壁に寄りかかる。服を替え、布をまとい、一日に何度も着替える。裸で着替えても、ヒロシは何も感じない。そこが魅力。仙人のように雲の上に立っている感じ。




 毎週5万円は、ちょっぴり申し訳ない感じがする。ヒロシを喜ばせてあげたくて、色々聞いた。


「好きな食べ物は?」


「うまいもの」 


「誰だってそうでしょ」


 ヒロシは笑う。


「好きな色は?」


「白とオレンジ」


「理由は?」


「白は紙の色、ゼロの色。オレンジはオレンジが好きだから」


「好みの女性は?」


「特にない」


「男が好き?」


「そうじゃない。恋愛に興味がない」




 お礼に腕をふるって料理を作った。ルッコラとひき肉をガーリック風味で炒めて、茹でたじゃがいもにのせる。シェルマカロニにバジルとオリーブオイル、人参とドライガーリックを絡める。鶏ガラスープに春雨とシメジを入れ、オイスターソースでととのえる。


「どう?」


「うまい」


「バイト料のお礼」


「俺の金じゃないから気にするな」


「不景気なのに羨ましいな」


「学生のくせに。親に金もらってるだろ」


「自分だって遺産もらったじゃない」


「それもそうだな」


 おかしな会話。

 だけど、かなりハッピー。




 —第7章へ続く―

 毎週土曜日の風にのせて、カオルの物語をお届けします。

 旅の続きをどうぞお楽しみください。


 小説家になろう&noteにて同日公開

 https://ncode.syosetu.com/n8738lk/

—第7章へ続く―

毎週土曜日の風にのせて、カオルの物語をお届けします。

旅の続きをどうぞお楽しみください。


noteにて同日公開

https://note.com/ayanochiyu/n/na8f8c8036e2a


https://ncode.syosetu.com/n8738lk/

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