また土曜日に、ひとつの旅をー カオルの旅は、誰しもの心にあるもの、 きっとあなたの心の中にもー 「カオル21歳~風と旅する頃~」第3章を公開いたします。
また土曜日に、ひとつの旅をー
カオルの旅は、誰しもの心にあるもの、
きっとあなたの心の中にもー
「カオル21歳~風と旅する頃~」第3章を公開いたします。
第3章
~鏡の中のユディト~
中学生の頃に男の子と付き合ったことがある。でも、あれは恋とは少し違っていた。好奇心と発情期。
明宏君は違う学校の子で、バイオリン教室でよく一緒になった。スラリとした色白の男の子。行き帰りに偶然何度も会ってから、仲良くなった。毎週一緒に帰る約束をして、川沿いを歩いて話したり。
大好きでドキドキってわけじゃないけど、その頃のあたしは思春期特有の発情期だった。
青春としか言いようがない。古臭い言葉だけれど、一番しっくりくる。青春の発情期はモヤモヤ、ムズムズ。何かしたいのに何をしていいのか分からない。だけど、危ないこと、いけないことをしてドキドキしたい。
あたしは、早く大人になって自由になりたかった。「男」という異なる生き物を知りたかった。ドラマみたいにキスしてみたい、ゴツゴツした腕を触ってみたい、そう思った。
ある日、家族みんなが寝静まったのを確認して、部屋の鍵をしっかり閉めた。そして鏡の前でスッポンポンになってみた。太ってもいないけど、痩せてもいない。全体的に体毛が薄い。大事な部分も薄くて生えかけの芝生みたい。やっぱりまだ大人じゃない。ちょっと悲しくなった。
鏡の前でモデルみたいにポーズをとったり、歩いてみた。やっぱりカッコよくない。美しくもない。大人じゃないって、カッコ悪い。
あたしはいつ頃、クリムトのユディトみたいになれるのだろうか—。
大人はずるい。
バイオリン教室の帰りが遅くなると、すぐに母親から電話がくる。だから明宏君とは長く一緒にはいられなかった。でも、あたしは虎視眈々と狙っていた。
ラッキーなことに、夏休みに入ってレッスンスケジュールが、午後早い時間になった。母親には内緒。
毎日毎日、川沿いを一緒に歩いた。そして、お盆休みに入る前に決断した、「実行すること」を。
その日は暗くなっても、夕飯時になっても一緒にいた。真夏の夜風が熱かった。
橋の下のベンチで話した、志望校、家、友達のこと。本当はそんなことどうでもよかった。
お互いにそう思っているのは分かってる。なんとなく近づいて歩いて、肩がぶつかるだけでも嬉しかった。ずっと一緒にいるのは、そろそろキスしてみたいなってこと。そんなこと分からないのは青春じゃない。
橋の下は誰も通らない。2人並んで座って、夏の熱い風に吹かれていた。なんでもない会話をしながら、タイミングを探していた。
会話がふっと途切れた時、ピタっと近づいた。「お尻痛くない?」顔を覗き込んで聞かれた。背中に汗がスーッと流れた。
「だいじょうぶ」あたしもくっついて寄りかかった。同時に引き寄せ合うように顔を近づけて、キスした。
軽く重ねただけ。ほんの一瞬。期待していたけど、それだけ。あたしはもう少し進みたかった。でも、明宏君は恥ずかしかったみたい。茹でダコみたいに耳まで赤くなっていた。あたしも恥ずかしくなった。
それが人生初めてのキス。
—第4章へ続く―
毎週土曜日の風にのせて、カオルの物語をお届けします。
旅の続きをどうぞお楽しみください。
小説家になろう&noteにて同日公開
https://note.com/ayanochiyu/m/mb90e54b0da1d




