表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九十九経営コンサルティング、今度は『異世界転生課』を承ります  作者: 神楽坂 湊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/26

File13.天邪鬼の炎上と、裏腹な愛の伝え方について

「ううっ、酷いです。死ねばいいのに、だなんて……」


朝の事務所で、咲耶がタブレットを抱きしめて泣いていた。 彼女は最近、業務の一環で人間界のSNSを始めたらしい。天界のスイーツ事情をアップして、「いいね」をもらうのが生き甲斐だそうだが、どうやら手痛い洗礼を受けたようだ。


「見てくださいよ、九十九さん! 私が昨日アップした『限定マカロン』の写真に、こんなコメントが!」


彼女が突き出した画面には、辛辣な言葉が並んでいた。 『まずそう。毒々しい色。こんなの食ってる奴の気が知れねぇ。消えろ』


「ひどくないですか!? 私、ただ美味しかったって伝えたかっただけなのに……!」


「SNSとはそういう場所です。便所の落書きに一喜一憂するのは時間の無駄ですよ」


私は冷たく言い放ち、新聞をめくった。 だが、その平穏はすぐに破られた。


「おい、そこの貧乳女神。泣いてんじゃねぇよ、うっとうしい」


入り口に立っていたのは、フードを目深に被った一人の少年だった。 ポケットに手を突っ込み、ガムを噛みながら汚物を見るような目で咲耶を見下ろしている。 今回のクライアント、天邪鬼のアマノ氏だ。


咲耶の涙がピタリと止まり、額に青筋が浮かんだ。


「貧乳? 誰のことですか? 天界標準サイズですけど?」


「ケッ。事実を言われて逆ギレかよ。その服もダサいな。どこの古着屋で拾ってきたんだ?」


「九十九さん! この依頼人、お断りしましょう! 私の精神衛生上、非常によくありません!」


「待ちなさい」


私は少年の「足元」を見た。 彼のスニーカーのつま先は緊張したように内側を向き、小刻みに震えている。 そして、彼が咲耶を罵倒した瞬間、彼自身の手が自分の太ももを強くつねっているのを私は見逃さなかった。


「座りなさい、アマノ君。素直になれないのは、種族の性ですか」


「はぁ? 誰が素直じゃないって? 俺はいつだって本音しか……ッ!」


少年はソファにドカッと座ると、苦しそうに顔を歪めた。 彼の口は本人の意思とは裏腹に動き続ける。


「こんなボロい事務所、早く潰れちまえ! お前らみたいな詐欺師に相談するなんて、俺も焼きが回ったな!」


口から出るのは罵詈雑言。 だが、その目からはポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちていた。


「助けて、くれ……。俺は、もう、誰も傷つけたくないんだ……」


声は震えていた。 言葉はナイフのように尖っているのに、心は血を流して泣いている。 典型的な「天邪鬼」の症状だ。 心で思ったことと、正反対の言葉しか出てこない呪い。


彼は涙を流しながら語り(罵倒し)始めた。


「俺は、あるアイドルのファンだったんだ! 大っ嫌いだったけどな!(大好きだった)」


「彼女の笑顔を見ると、吐き気がした!(救われた)」


「だから俺は、毎日彼女のSNSにコメントしたんだ。『ブス』『歌が下手』『引退しろ』ってな!(『可愛い』『応援してる』『ずっと続けて』)」


少年は髪をかきむしった。


「そうしたら、彼女……本当に引退しちまったんだよ! 俺のせいだ! 俺が殺したようなもんだ!」


悲劇だ。 彼のコメントはアンチの執拗な攻撃として受け取られた。 本当は誰よりも彼女を愛していたのに、彼の言葉は彼女の心を折る凶器にしかならなかった。


「俺は自分が嫌いだ! 生きてる価値なんてねぇ! だから誰もいない世界に行きたい! 言葉が通じない、魔物だらけの世界でいい! そこで野垂れ死ぬのが、俺にはお似合いなんだよ!」


「ううっ、ややこしいですけど、切ないですぅ……」


咲耶がティッシュで鼻をかむ。


「本当は『大好き』って言いたかっただけなんですね……」


「うるせぇブス!(ありがとう)」


私は腕を組んで考え込んだ。 現代社会において、コミュニケーションの不全は致命的だ。 特に文字情報のみでやり取りされるSNSでは、行間やニュアンスは伝わらない。彼の「天邪鬼」という特性は、現代では「荒らし」や「誹謗中傷」として処理され、彼自身を孤立させる。


だが、コンサルタントとして言わせてもらえば、彼のその「強制的な否定」はある種の強力なフィルター機能でもある。


「アマノ君。君にお勧めの世界があります」


私はオサキに合図を送った。 オサキが空中に投影したのは、極彩色の光が乱舞する、美しくも妖しい世界の映像だった。


「世界名『ファンタズマ・ラビリンス』。 ここは強力な幻術使いの魔王が支配する世界です。 人々は魔王が見せる『甘い夢』に囚われ、現実を見失っています。 腐った泥水が美酒に見え、崩れかけた廃屋が宮殿に見える。 誰もが幸福な夢を見ながら衰弱死していく世界です」


私は少年を指差した。


「この世界では誰も『真実』を認識できません。 ですが、君ならどうだ?」


「あ?」


「君の『天邪鬼』の特性は、対象を否定することだ。 もし君がその『甘い夢』を見たら、どう思う?」


少年は涙を拭いながら考えた。


「そんなの、決まってるだろ。『最高だ』って思っちまう」


「そうだ。心では『最高だ(騙されている)』と思う。 だからこそ、君の口はこう叫ぶはずだ」


私は彼の言葉を代弁した。


「『こんなもの、偽物だ! 最低のゴミだ!』とね」


少年の目が開かれた。


「君のその呪われた口は、この世界においてはあらゆる幻術や洗脳を打破する『真実の解呪ディスペル』となる。 君が『マズい!』と叫べば美酒は泥水に戻り、『汚い!』と罵れば宮殿は廃屋に戻る。 君は、その世界で唯一真実を叫び続けられる『予言者』になれるんだ」


「俺が……人助けを……?」


「ええ。君の罵倒は、あちらの世界では人々を目覚めさせる『愛の鞭』です。 思う存分世界をディスりなさい。それが感謝される唯一の場所です」


数日後。 モニターには冒険者パーティの先頭に立ち、悪態をつきまくるアマノ氏の姿があった。


「けっ! なんだこの宝箱、キラキラしてて趣味が悪ぃな! 開ける価値もねぇゴミ箱だぜ!(うわ、凄そうな宝箱! 開けたい!)」


彼がそう吐き捨てた瞬間、宝箱にかかっていた「魅了の罠」が弾け飛び、中から凶暴な人食いミミックが正体を現した。 冒険者たちが一斉に剣を抜く。


「すげぇ! アマノの言う通りだ!」


「ありがとうアマノ! お前がケチをつけてくれなきゃ、手を食いちぎられてた!」


「もっと罵ってくれ! 俺たちの目を覚ましてくれ!」


「う、うるせぇ! お前らなんか大っ嫌いだ! さっさとくたばりやがれ!(仲間に入れてくれてありがとう! 死なないでくれ!)」


パーティの仲間たちは、そんな彼の肩を叩き、信頼しきった笑顔を向けている。 彼らは知っているのだ。彼の汚い言葉の裏に、深い愛情があることを。


「ふふっ。いい居場所を見つけましたね」


咲耶が新しいマカロンの写真をSNSにアップしながら微笑んだ。


「あ、またコメントが来ましたよ」


『美味そうだな。俺にもよこせ』


「あら、素直ないい人ですね」


「咲耶さん。それはただの強欲なコメントです。ブロックしなさい」


オサキが呆れ顔で、報酬の品を持ってきた。 アマノ氏が置いていった黒いマスクだ。


「九十九さん、今回の報酬です。 クライアントより『逆説のマスク』を頂きました」


「効果は?」


「これを着けている間は、『本音と逆のこと』しか言えなくなるそうです。 使い道が難しそうですが……」


「いや、使えるな」


私はそのマスクを手に取り、ニヤリと笑った。


「交渉決裂寸前の、頑固な取引相手に着けさせればいい。 『契約なんかしないぞ!』と叫ばせながら、契約書にサインさせることができる」


「相変わらず悪どいですね」


「ビジネスには清濁併せ呑む度量が必要なのですよ」


私はマスクを引き出しにしまった。 言葉は時として真実を隠す。 だが、その裏にある想いを汲み取れる者が一人でもいれば、世界はもう少しだけ優しくなるのかもしれない。


「さて、と」


私は咲耶のタブレットを取り上げた。


「仕事に戻りなさい。君への『いいね』が増えても、私の口座残高は増えないんですよ」


「あーん! 返してください! 今、インフルエンサーとしてバズりかけてるんですからぁ!」


やれやれ。 どうやら、このポンコツ女神につける薬は、まだ見つかりそうにない。

登場人物紹介

九十九つくも

 九十九経営コンサルティング所長。『異世界転生課』の最高責任者であり、監査役。クライアント(魂)の深層心理と本当の願望を見抜き、最適な転生先キャリアパスを提示する。緑茶が好き。


◆オサキ

  九十九の有能な秘書兼調査役。九十九の指示で膨大な異世界のデータベースを検索・管理し、主人(九十九)に絶対の忠誠を誓う。稲荷寿司が好き


咲耶さくや

 天界から出向してきた『異世界転生課』の新人担当官(女神)。非常に真面目でクライアント想いだが、致命的にポンコツで泣き虫。とにかく甘いものが好き



宜しければ、ブックマーク、評価、宜しくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ