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4度目の転生勇者は静かに暮らしたい ~もう魔王討伐は新入り(勇者)に任せたので、俺は美少女たちと諸国漫遊グルメ旅に出ます~  作者: のびろう。
第十章 海風香る街の、光と闇

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盗賊の誇りと居場所

四天王ラミアとの激闘から一夜が明けた。

商業都市ベルカントは昨夜の騒動が嘘のようにいつもの活気を取り戻しつつあった。

カジノ船での事件は「魔物の襲撃による事故」として処理され、ラミアの支配下にあったギルドや商会の面々も憑き物が落ちたように正気を取り戻していた。


そして今。

俺たちが宿泊している宿屋の一室ではこの世の終わりみたいな顔をした二人が床に額を擦り付けていた。


「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁッ!」

「こ、この通りですわ……!一生かけて償います……!」


勇者・佐藤健太と聖女セレスティーナによる見事なジャンピング土下座だった。

二人はラミアとの戦いで負った傷よりも精神的なダメージの方が深いらしく顔面蒼白で震えている。


「俺……調子に乗ってました。自分たちは強くなったって最強だって……」


健太が床に涙の染みを作りながら懺悔する。


「でも違ったっす。ユートさんの言う通り……俺の心が弱かったからあんな奴に付け込まれて……!」


「わたくしもです……。聖女などとおだてられ自分を見失っていました。……あろうことかユート様に魔法を向けるなんて……!」


セレスティーナも嗚咽を漏らしている。


俺は、そんな二人を見下ろしやれやれとため息をついた。


「顔を上げろよ、二人とも」


「で、でも……!」

「合わせる顔がありません……!」


「いいから。……ほら、食え」


俺は二人の前にドンッ!と丼を置いた。

湯気と共に醤油と出汁の甘辛い香り、そして揚げたての豚肉の香ばしさが立ち昇る。


「こ、これは……?」


健太が顔を上げる。


「『カツ丼』だ」


俺はニヤリと笑った。


「俺の故郷じゃ、勝負事の前や自分に勝ちたい時に食う縁起物なんだよ。『カツ』は『勝つ』に通じるからな」


「自分に……勝つ……」


「ああ。失敗したなら次は勝てばいい。弱い自分に慢心する自分に打ち勝て。……お前らは勇者と聖女なんだろ?」


俺の言葉に二人はハッとして、そしてボロボロと大粒の涙を流した。


「うぅ……っ!はい……!いただきますっ!」

「ありがとうございます……ユート様ぁ……!」


二人は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながらカツ丼をかき込んだ。

サクサクの衣、ジューシーな肉、そしてそれらを優しく包み込む半熟卵と出汁の味。

その温かさが傷ついた彼らの心に染み渡っていく。


「美味い……!美味いっす……!」

「こんなに優しい味が……ううっ……」


完食した後二人の顔には以前のような浮ついた自信ではなく地に足の着いた決意が宿っていた。


「ユートさん。俺たち、行きます」


健太が立ち上がり拳を握りしめた。


「今のままじゃ四天王には勝てない。……もっと修行して心も体も鍛え直してきます。別のルートで魔王城を目指すっす!」


「ええ。次は絶対に操られたりしませんわ。……今度お会いする時は胸を張って『仲間』と呼んでいただけるように」


セレスティーナも凛とした表情で誓う。


「ああ。期待してるぞ」


俺は二人と握手を交わした。

彼らは、騎士団と共に新たな修行の旅へと出発していった。

その背中は昨日よりも少しだけ大きく見えた。


***


勇者たちを見送った後俺たちは港へと足を運んだ。

そこには今回の事件のもう一人の主役、クロエの姿があった。


「よう、クロエ。話は終わったのか?」


クロエは桟橋に腰掛け海を眺めていた。

その背後にはガストンをはじめとするかつての盗賊ギルドの仲間たちがバツの悪そうな顔で立っていた。


「ああ。……全部な」


ラミアの洗脳が解けた彼らは自分たちがクロエにした仕打ちを思い出し涙ながらに謝罪したらしい。

横領の罪も晴れクロエの名誉は完全に回復された。


「……で、どうするんだ?」


俺はクロエの隣に座り尋ねた。


「ギルドに戻るのか?あいつら、お前に戻ってきてほしいって顔してるぞ」


確かにガストンたちは期待のこもった目でこちらを見ている。

クロエの実力と今回の活躍を見れば次期ギルドマスターの座も夢ではないだろう。

故郷に戻り、誤解を解き、仲間たちとやり直す。

それは一つのハッピーエンドだ。


だが。

クロエは、フンと鼻を鳴らして立ち上がった。


「馬鹿言うなよ」


彼女はガストンたちの方を振り返りニカっと笑って手を振った。


「悪いな、おっさんたち!ボクはもうあそこには戻らねえよ!」


「なっ!?クロエ、どうしてだ!?」


ガストンが叫ぶ。


クロエは俺の方を向き少し照れくさそうにでも誇らしげに言った。


「だってよ……ボクの居場所はやっぱりここだからな」


彼女の視線の先には、俺と、そして駆け寄ってくるララ、ミミ、アリアの姿があった。


「クロエー!行くにゃー!」

「お待たせしました、ぴょん!」

「愛の船出ですわね!」


「……へっ。しょうがねえ奴らだ」


クロエは俺の肩を小突いた。


「付き合ってやるよ、ユート。あんたの作る飯が食えなくなるのは死ぬより辛いからな」


「(……素直じゃないねえ)」


俺は苦笑しつつ彼女の頭をポンと撫でた。


「ああ。これからも頼むぜ相棒」


「……ん」


クロエは嬉しそうに目を細めた。


こうして、過去との因縁を断ち切ったクロエは正式に「ユート一家」の一員として新たな旅路を選ぶことになった。


***


ベルカントを離れ次なる目的地へと向かう馬車の中。


俺たちは久々の平和な空気に包まれていた。

だが、俺たちの知らない場所で次なる脅威が動き出していた。


商業都市を見下ろす高い時計塔の上。

そこに一つの影が立っていた。

それは、これまでの四天王――ガルーダやモルゴース、ラミアとは明らかに「格」が違う異質な気配を纏っていた。


「フフフ……。ラミアも敗れましたか」


影は遠ざかる俺たちの馬車を見つめ、愉悦に満ちた声で独り言ちた。


「情けない奴らだ。だが所詮は捨て駒。……奴らが『勇者』を育てるための噛ませ犬に過ぎない」


影の手には水晶玉のようなものが握られておりそこには俺――ユートの顔が映し出されていた。


「相川悠人。……歴代最強と謳われた転生者」


影の声のトーンが変わる。

そこには、底知れぬ執着と狂気が滲んでいた。


「素晴らしい……。その魂の輝き、その経験値、その因果律。……全てが我が主の糧となる」


影は水晶玉を握り潰した。

パリンと乾いた音が響く。


「急ぎましょう。……『真の魔王』様の完全なる復活にはあの“4度目の転生者”の魂が最後のピースとして必要不可欠なのですから」


影は黒いマントを翻した。

その視線は俺たちが向かっている方角――大陸の中央に位置する学術と神秘の都へと向けられていた。


「待っていますよ。……『魔法都市ルーン』で」


フッ、と影が掻き消える。

後には凍てつくような冷気だけが残された。


***


「……ん?」


御者台で手綱を握っていた俺は、不意に背筋に悪寒が走るのを感じた。

ゾクリとするような、ねっとりとした視線。

これまでの敵とは違う、もっと根本的な「何か」に狙われているような感覚。


「ユートさん?どうしました、ぴょん?」


隣に座っていたミミが心配そうに顔を覗き込む。


「……いや、なんでもない」


俺は身震いをして上着の襟を立てた。

海風が冷たくなったせいだろうか。

それとも。


「(……なんか背筋が寒いな。風邪か?)」


俺は嫌な予感を振り払うように手綱を振るった。


「よし、急ぐぞ!次の街までは距離があるからな!」


「おー!次は魔法都市だにゃ!」

「魔法……。知的ですわね!図書室の恋、実験室の愛……妄想が捗りますわ!」

「ボクは美味いもんがあれば何でもいいけどな」


騒がしい仲間たちと共に馬車は進む。

次なる舞台は魔法都市。

そこで待つのがこの旅最大の「真実」への入り口だとは、俺はまだ知る由もなかった。

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