断罪の光と偽りの蛇の最期
「ギャアアアアアアアアアアッ!?」
カジノ船の最深部、黄金のホールに四天王ラミアの絶叫が木霊する。
クロエの「神速・影縫い」によって両目の『魅了の邪眼』を切り裂かれたラミアは顔を覆ってのたうち回っていた。
その指の間から、ドス黒い血液とそして制御を失った魔力が煙のように漏れ出していく。
その瞬間。
部屋の隅に転がされていた二人の身体から黒い霧が抜け出ていった。
「……う、うぅ……」
「……はっ!」
勇者・佐藤健太と、聖女セレスティーナが同時に意識を取り戻した。
虚ろだった瞳に理性の光が戻る。
「お、俺……いったい何を……?」
健太がズキズキと痛む頭(と、峰打ちされた鳩尾)を押さえて起き上がる。
「わたくしは……確か、ラミアに……」
セレスティーナも口の中に残る強烈なレモンの酸味に顔をしかめながら周囲を見回した。
そこにあるのは、ボロボロになった船内と傷ついた仲間たち。
そして、目の前で苦しむラミアの姿。
記憶が奔流となって蘇る。
心の隙を突かれたこと。
甘い言葉に惑わされ、仲間を、そして尊敬する師匠に剣を向けたこと。
殺意を込めて本気で殺そうとしたこと。
「あ……あああ……ッ!」
健太の顔が蒼白になり、次いで真っ赤に染まった。
羞恥と後悔。
そして何より、自分自身の弱さへの激しい怒りが彼の心を焦がす。
「俺は……なんてことを……!」
「ユート様を……傷つけようと……!」
セレスティーナの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
俺、ユートはそんな二人の前に歩み寄り軽く肩を叩いた。
「おはよう。いい夢は見れたか?」
「ユ、ユートさん……!」
「申し訳ありません!わたくしたちとんでもないことを……!」
二人が土下座せんばかりの勢いで頭を下げる。
俺はそれを手で制した。
「謝罪は後だ。……今はやるべきことがあるだろ」
俺は顎でラミアの方をしゃくった。
ラミアは視力を失いながらも狂乱したように魔力を撒き散らしている。
「おのれェェェ!人間ごときが!私の顔に傷をォォォ!」
ラミアの全身からどす黒い瘴気が噴出し大蛇の巨体がさらに膨れ上がる。
「許さない!全員丸呑みにしてやるわ!」
その醜悪な姿。
人の心を弄び踏みにじった悪意の権化。
「……健太。セレスティーナ」
俺は二人の背中をバンッ!と叩いた。
「最後はお前らが決めろ」
「え……?」
「俺やクロエじゃとどめは刺せても、お前らの『心の傷』までは払えない」
俺は二人の目を見て告げた。
「自分の不始末は自分でつける。……それが『勇者』ってもんだろ?」
俺の言葉に健太が顔を上げた。
その瞳から迷いが消える。
セレスティーナも涙を拭い、杖を強く握りしめた。
「……はいっ!」
「仰る通りですわ……!この過ち、聖なる光で雪いでみせます!」
二人が立ち上がる。
その体から立ち昇るのは先ほどまでの禍々しい殺気ではない。
純粋で力強い、正義の輝き。
「行くぞ、セレスティーナ!」
「はい、健太様!」
二人は疾風のごとく駆け出した。
「シャアアアアア!死ねェェェ!」
ラミアが盲目ながらも気配を察知し極太の尾を振り回す。
鉄骨すらへし折る一撃。
だが健太は逃げなかった。
「二度も……操られてたまるかぁぁぁぁッ!」
彼は聖剣を大上段に構え真っ向から突っ込んだ。
その刀身がかつてないほどの輝きを放つ。
俺のアドバイスも、レモンの酸味も、フライパンの痛みも全てを糧にして。
「これが!俺の!正義だぁぁぁぁぁ!」
「聖剣技・『聖剣・エクスカリバー(仮)』ッッッ!!!」
「(……まだ(仮)なのかよ!)」
俺のツッコミは轟音にかき消された。
ズバアアアアアアアアアン!!!
健太の渾身の一撃がラミアの尾を叩き切りそのまま胴体へと深々と食い込む。
光の奔流がラミアの体内で炸裂する。
「ギャアアアアアアアッ!?」
「今ですわ!不浄なる魂に安らぎと裁きを!」
セレスティーナが宙に舞う。
彼女の背後に天使の羽のような光の翼が出現する。
「全魔力解放!極大聖魔法――」
彼女は杖をラミアの心臓部に突きつけた。
「『聖なる裁き(ホーリー・ジャッジメント)』ッ!!!」
カッッッッッッッッ!!!
船全体を包み込むほどの極大の光柱が立ち昇る。
それはラミアの持つ全ての瘴気、毒、そして邪悪な魔力を根こそぎ蒸発させる浄化の光だった。
「グ、オォォォォ……!バ、馬鹿な……」
光の中でラミアの巨体が崩れ落ちていく。
その顔には信じられないという驚愕が張り付いていた。
「人の……絆ごときに……!この私が……四天王たる私がぁぁぁぁぁ!」
断末魔と共にラミアの体は光の粒子となって霧散した。
後に残ったのは、ただの空気と静寂だけ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
健太が聖剣を杖にして膝をつく。
セレスティーナも魔力を使い果たしてその場にへたり込む。
「……か、勝った……っすか……?」
「……ええ。……終わりましたわ……」
二人は顔を見合わせそしてボロボロの顔で笑い合った。
そこにはもう曇りはない。
「……見事だ」
俺はクロエやララたちと共に二人の元へ歩み寄った。
「いい一撃だったぞ。二人とも」
「ユートさん……!」
「ユート様……!」
二人は俺の顔を見るなり今度こそ我慢できずに泣き出した。
俺はやれやれと苦笑しながら二人の頭を撫でてやった。
「よくやった。……これでクロエの無実も証明されたな」
俺の言葉にクロエが鼻をすすりながらそっぽを向いた。
「……ふん。余計なお世話だ。……けど、まあ……サンキュな」
商業都市の夜明け。
海上のカジノ船を舞台にした激闘は、勇者たちの成長と過去との決別をもって幕を閉じたのだった。




