復興のバーベキューと王国の友
獣人王国の内乱が終息し王都ガレリアは復興の槌音に包まれていた。
瓦礫の撤去、建物の修復、そして傷ついた人々の心のケア。
やることは山積みだ。
だが、俺には一つだけ気になっていることがあった。
「(……活気はある。だがスタミナが足りてない)」
俺は修復作業に汗を流す獣人たちを眺めながら腕組みをした。
病み上がりということもあるが、これまでの食料不足の影響でみんな痩せ細っている。
これではいい仕事はできない。
「(復興には爆発的なエネルギーが必要だ)」
俺の料理人としての魂がメラメラと燃え上がった。
ここ獣人王国は肉食文化の国だ。
ちまちました料理じゃ足りない。
本能に訴えかける、暴力的でかつ至福のメニューが必要だ。
「よし、やるか」
俺はパンと手を叩き仲間たちを招集した。
「全員集合!これより『復興支援・大バーベキュー大会』を開催する!」
「「「「おおおおーっ!」」」」
俺の号令に四人の美少女たちが歓声を上げる。
「バーベキュー!お肉だにゃ!お肉祭りだにゃ!」
ララがその場で垂直跳びを繰り返している。
「へっ。ユートの飯なら一肌脱ぐぜ」
クロエがニカっと笑う。
「まあ!野外での愛の饗宴……ワイルドですわ!」
アリアが頬を染める。
「お手伝いします、ぴょん!」
ミミが袖をまくる。
「役割分担だ!ララとクロエは『狩猟班』!近場の森で食えそうな魔獣を片っ端から狩ってこい!質より量だ!」
「任せるにゃ!根こそぎ狩ってくるにゃ!」
「了解!」
「アリアとミミは『採集班』!キノコ、山菜、香草!特に肉の臭みを消すハーブを重点的に頼む!」 「はいですわ!精霊たちに『美味しい草』を聞いてきますわ!」
「わかりました、ぴょん!」
「そして俺は……」
俺は無限収納から秘蔵の『あるもの』を取り出した。
それは、俺がこの異世界に来てからコツコツと増やし続けてきた黄金の穀物。
「――米を炊く」
「こめ……?」
獣人たちが不思議そうな顔をする中俺は不敵に笑った。
「肉には米。これは宇宙の真理だ。……見せてやるよ。獣人王国の常識を覆す最強の『定食』をな」
***
数時間後。
王都の中央広場は巨大な野外レストランと化していた。
「獲ったどー!」
ララとクロエが巨大なバイソン(に似た魔獣)や、大猪を何頭も引きずって戻ってきた。
「すごい量だ……」
「これ、全部食うのか?」
村人たちがどよめく。
俺はそれらを瞬時に解体し各部位に切り分けた。
カルビ、ロース、ハラミ、タン。
それぞれの特徴に合わせて包丁を入れる。
そして特製のタレ――醤油、酒、ニンニク、ショウガ、すりおろした果実を煮詰めた「ユート特製・極旨焼肉のタレ」に漬け込む。
「(……くくく。この匂いだけでご飯三杯はいける)」
広場には俺が土魔法で作った即席のコンロが数十台並べられ、炭火が赤々と燃えている。
その上で分厚い肉がジューッと音を立てて焼かれ始めた。
「匂いが……!」
「なんだこの香ばしい匂いは……!」
「腹が……腹が減って死にそうだ!」
作業をしていた獣人たちが工具を放り出して集まってくる。
王城からも良い匂いに釣られた兵士や文官たちがぞろぞろと出てきた。
「さあ、食え!遠慮はいらん!復興のエネルギーだ!」
俺が叫ぶと同時に大宴会が始まった。
「うおおおお!うめええええ!」
「肉が!肉が溶けるぞ!」
「このタレ!この黒い汁が魔性だ!舐めるだけで力が湧いてくる!」
そして俺は炊きたての「銀シャリ」を丼に山盛りにして配った。
「肉と一緒にこの白い穀物を食ってみろ」
半信半疑の獣人たちがタレのついた肉を米にバウンドさせ一緒にかき込む。
「!?」
「な、なんだこれは……!」
「肉の脂とタレを、この白いのが受け止めて……口の中で爆発したぞ!?」
「うめえ!うめええええ!」
米の魔力に、獣人たちが次々と陥落していく。 そこへ、野菜たっぷりのコンソメスープが、脂っこくなった口の中をさっぱりと洗い流す。 完璧な布陣だ。
「お兄ちゃん!ララ、おかわりだにゃ!大盛りだにゃ!」
ララが顔中タレまみれにして丼を突き出す。
「はいよ」
「ボクも!このタン塩ってやつ最高だぜ!」
「わたくしは、このハラミという部位に大人の愛を感じますわ……」
「野菜も焼けてますよ、ぴょん!」
ミミが甲斐甲斐しく野菜を配り、アリアが風魔法で煙を調整し、クロエとララが食う。
見事な連携だ。
その時人垣が割れ、一人の巨躯が現れた。
国王レオンハルトだ。
隣には第二王子ルカとガルフもいる。
「……騒がしいと思えば。また其の方か」
王が呆れたように、しかし嬉しそうに笑う。
「城の中まで匂いが届いておるぞ。余にも一つ所望できるか?」
「もちろん。王様用には特上のサーロインを用意してますよ」
俺が焼きたてのステーキを差し出すと、王はそれを豪快に頬張った。
「……!」
王の動きが止まる。
そして目を見開いた。
「……美味い。……生きている実感が湧いてくる味だ」
王の目から一筋の涙がこぼれた。
病に伏せり、国が割れ、絶望の淵にいた彼にとってこの温かい肉の味は平和と再生の象徴だったのかもしれない。
「父上……」
ルカもハンカチで目頭を押さえている。
「……民よ!聞け!」
王が肉を掲げて叫んだ。
「この肉のように!我ら獣人族は、噛みしめれば噛みしめるほど、味が出る!困難を乗り越え、血となり肉となり、さらに強くなるのだ!」
「「「「ウオオオオオオオオ!」」」」
広場が揺れるほどの歓声。
それは、獣人王国ガレリアが本当の意味で一つになった瞬間だった。
俺はその光景を網焼きグリルの前から眺めながら満足げに頷いた。
「(……ま、こんなもんか)」
こうして俺の「料理テロ」はまたしても国一つを救ってしまったのだった。
***
それから一週間。
俺たちは王都に滞在し復興支援を続けた。
といっても俺は主に炊き出し担当、ララたちは力仕事や瓦礫撤去の手伝いだが。
ミミの治癒魔法とアリアの精霊魔法による土地の浄化も相まって、王都の復興は驚異的なスピードで進んだ。
街には活気が戻り、市場には商品が並び、人々の顔には笑顔が戻っていた。
そしてついに旅立ちの日がやってきた。
王都の正門前。
そこには王レオンハルトをはじめルカ、ガルフ、そして数え切れないほどの国民が見送りに集まっていた。
「ユート殿。……いや、我が友よ」
王が俺の前に進み出る。
「其の方らの尽力によりこの国は救われた。この恩、言葉では尽くせぬ」
王は従者に命じて、一つの箱を持ってこさせた。
中に入っていたのは、獅子と虎、そして兎が刻まれた美しい黄金の勲章だった。
「これを受け取ってほしい。『王国の友』の証だ。これを持っていればこの国のどこでも家族として迎え入れられるだろう」
「……ありがたく、いただきます」
俺は勲章を受け取った。
「また、美味い肉が食いたくなったら寄りますよ」
「ははは!いつでも歓迎しよう!肉ならいくらでも用意しておく!」
ルカが車椅子を進める。
「ララ。……本当に行くのかい?」
「うん。ルカ。ララは、もっと強くなるにゃ。お兄ちゃんたちと一緒に、世界中を見て回るにゃ」
「そうか。……寂しくなるね」
ルカは優しく微笑んだ。
「でも、安心したよ。君には素晴らしい『家族』がいるからね」
ララは俺の腕にギュッとしがみついた。
「うん!ララは幸せだにゃ!」
ミミも多くの獣人たちに囲まれていた。
「ミミ様!また来てくださいね!」
「聖女様、ありがとう!」
「はい……!みなさんも、お元気で!ぴょん!」
別れを惜しむ声がいつまでも続く。
だが、旅人は一箇所に留まることはできない。
俺たちは馬車に乗り込んだ。
「行くぞ!」
御者の合図とともに馬車が動き出す。
「ありがとー!また来るにゃー!」
「達者でなー!」
「愛をありがとうございまーす!」
遠ざかる王都。
手を振る人々が小さくなっていく。
俺は窓から入ってくる風を心地よく感じながら地図を広げた。
「さて。次は……」
俺の指が示したのは、大陸の東側に位置する巨大な都市。
海に面し世界中の富と物が集まると言われる場所。
「『商業都市ベルカント』か」
その名前が出た瞬間。
向かいに座っていたクロエの表情がピクリと動いた。
いつもの快活な笑顔が消え、どこか険しい、影のある表情になる。
「……クロエ?」
俺が声をかけると、クロエはハッとしてすぐにいつもの調子で笑った。
「ん?ああ、商業都市か。……飯が美味いらしいな。魚介類とか」
「ああ。新鮮な海の幸が食えるぞ。寿司に、刺身に、海鮮丼だ」
「へえ、そりゃ楽しみだ」
クロエはそう言ったが、その視線は窓の外、遥か彼方を見据えていた。
その瞳の奥に、決して消えない暗い炎が揺らめいているのを俺は見逃さなかった。
「(……因縁、か)」
かつてクロエが語っていた、盗賊ギルドでの裏切り。
濡れ衣。
そして彼女が追っている「裏切り者」たち。
その舞台が次の街なのだろう。
「(……ま、何があっても)」
俺はそっとクロエの肩に触れた。
クロエが驚いて俺を見る。
俺は何も言わずにニヤリと笑ってみせた。
「……ふん。分かってるよ」
クロエは少しだけ顔を赤くして俺の手の上に自分の手を重ねた。
「ボクには最強の仲間がいるからな」
馬車は新たな冒険の舞台へと向かって走る。
そこには、美味い魚と、そして過去との決着が待っているはずだ。
「よし!次は海鮮三昧だ!」
「お魚だにゃ!ララ、お魚も大好きだにゃ!」
「海の幸……素敵です、ぴょん!」
「海……それは母なる愛の揺りかご!水着回ですわね騎士様!」
俺たちの旅はまだまだ終わらない。
騒がしくも愛おしい、最強一家の旅路は東の空へと続いていく。




