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4度目の転生勇者は静かに暮らしたい ~もう魔王討伐は新入り(勇者)に任せたので、俺は美少女たちと諸国漫遊グルメ旅に出ます~  作者: のびろう。
第九章 獣人王国と、四天王の企み

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黄金の咆哮と拳聖の覚醒

「――死ね。塵も残さず」


四天王モルゴースが放った極大呪詛、『黒き死の太陽』。

圧縮された死の塊が空間を歪めながらララへと迫る。

その圧倒的な質量と、触れれば即座に肉体が崩壊するという恐怖。

誰もが少女の死を確信した。


「ララちゃん!」


ミミが悲鳴を上げる。

アリアが杖を構えるが、魔法の射程も展開速度も間に合わない。


だが。

ララは逃げなかった。

彼女の虎の瞳は、迫りくる絶望的な黒い球体をただ真っ直ぐに見据えていた。


「(……お兄ちゃんが、見ててくれるから)」


ララは腰を深く落とし、大地を踏みしめる。

その足元の石畳が彼女の踏み込みに耐えきれず粉々に砕け散る。


「(……ララはもう逃げない。泣かない。……守るんだにゃ!)」


彼女の脳裏に浮かぶのはかつて檻の中で震えていた自分と、自分を庇って傷ついた姉ミミの姿。

そしてそんな自分たちを救い出し、温かいご飯と戦う力をくれたユートの姿。


「(行け、ララ!)」


ユートの声が頭の中に直接響いた。

それは絶対的な信頼の証。


モルゴースが勝利を確信して醜悪な笑みを浮かべる。


「無駄だ。その細腕で我が最大魔法を受け止められるものか。消え失せろ、獣風情が!」


黒い太陽がララを飲み込もうとした、その瞬間。


「――お姉ちゃんに!みんなに!手を出すなぁぁぁにゃあああ!!」


黄金の光が地下の闇を切り裂いた。


ドッゴオオオオオオオオオオオオン!!!


爆音が轟く。

だがそれはララが押し潰された音ではない。

ララの拳が黒い太陽を正面から受け止めそして――粉砕した音だった。


「な、なにィィィッ!?」


モルゴースの目が眼窩から飛び出さんばかりに見開かれる。

彼の視線の先であり得ない光景が展開されていた。


黒い死の球体はララの黄金の闘気によって内側から食い破られ、ガラス細工のように砕け散り霧散していく。

その中心に立つララの姿は先ほどまでとは別人のように変貌していた。


全身から立ち昇る黄金のオーラは猛る虎の形を成している。

逆立った髪と鋭さを増した瞳。

その拳には神々しいまでの輝きが宿っていた。


ユートの視界に世界の理を告げるシステムメッセージが浮かび上がる。


【条件を満たしました】

【職業:格闘家 が 拳聖 にクラスチェンジしました】

【ユニークスキル:『王威ビースト・ロード』を獲得しました】


「(……来たか。拳聖)」


ユートは瓦礫の陰でニヤリと笑った。

伝説の上位職。

肉体の限界を超え魔力ではなく「気」を操り万物を砕く武の頂点。


「バ、馬鹿な……!我が魔法を、素手で……!?」


モルゴースが後ずさる。

本能的な恐怖が彼の背筋を駆け上がった。

目の前の少女はもうただの獣人ではない。

自分を殺し得る天敵だ。


「……お前」


ララがゆっくりと顔を上げた。

その瞳は獲物を狩る捕食者の冷徹さと、家族を守る守護者の優しさを同時に宿していた。

「ララの故郷を汚したこと。お姉ちゃんを泣かせたこと。……後悔させてやるにゃ」


「ひぃっ!?」


モルゴースが情けない悲鳴を上げて杖を振るう。


「く、来るな!近寄るな!毒よ!病よ!我が障壁となれ!」


彼の周りに再び濃密な瘴気の壁が展開される。

物理攻撃を無効化し触れた者を腐らせる絶対防御。


だがユートは冷静だった。


「(今のララなら、あんな紙切れ障害にすらならない)」


ユートはララの脳内に的確かつ最短の勝利へのルートをイメージとして送信する。


「(ララ。迷うな。真っ直ぐだ。今の拳は概念すら砕く)」


「(うん!見えてるにゃ、お兄ちゃん!)」


「(――今だ、懐に入れ!)」


ユートの指示と同時にララが消失した。

あまりの速さにモルゴースの動体視力が追いつかない。


「ど、どこだ!?」


「ここだにゃ」


声はモルゴースの懐――絶対防御の内側から聞こえた。


「なっ――!?」


ララは障壁を力技で破ったのではない。

障壁の魔力の「流れ」を見切りそのわずかな隙間を針の穴を通すような精度で潜り抜けたのだ。

それは、ユートの神がかった誘導と覚醒したララの野生の勘が生み出した奇跡。


「(三連撃!右、左、鳩尾!)」


ユートの思考がララの筋肉に直結する。


虎咬ここう!」


ドガッ! ララの右拳がモルゴースの再生したばかりの脇腹を抉る。


「ガハッ!?」


再生が追いつかない。

拳聖の闘気が細胞の再生能力を阻害しているのだ。


爪牙そうが!」


バキィッ! 返す左拳がモルゴースの顎を砕く。


「あ、が……ッ!」


モルゴースの体が浮き上がる。

無防備になった胴体がさらけ出される。


「(仕上げだ!全闘気を一点に集中しろ!)」


「(あいにゃああああああ!)」


ララは右拳を腰だめに構えた。

黄金の虎のオーラがその一点に収束していく。

空間がビリビリと震え、周囲の瓦礫が浮き上がる。


「お父様の国から……出ていけだにゃああああああ!」


「ひ、ひいいいいッ!や、やめろぉぉぉぉぉ!」


モルゴースの絶叫は黄金の閃光にかき消された。


「奥義・『覇王・虎咆拳はおう・こほうケン』ッッッ!!!」


ズドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!


拳がモルゴースの鳩尾に深々と突き刺さる。

衝撃波が背中を貫通し、地下空間の後方の壁を粉砕し、さらにその奥の岩盤までもくり抜いていく。


「カ、ハッ……!ば、馬鹿な……この我が……人間と……獣ごときに……!」


モルゴースの体から力が抜けていく。

自慢の再生能力も、毒の魔力も全てがララの一撃によって焼き尽くされた。

彼の体はボロボロと崩れ落ち、黒い灰へと変わっていく。


「……だが……覚えておけ……」


モルゴースは、消滅の間際呪詛のような言葉を吐き捨てた。


「我は四天王の中でも……最も陰湿で……執念深い……わけではないが……」

「(そこは『最弱』とかじゃないのかよ)」


ユートが心の中でツッコミを入れる。


「……我が王の……真の復活は近い……。この国に撒いた『種』は……我だけではないぞ……。恐怖に……震えて……眠るが……いい……」


「うるさいにゃ!何度来てもララたちが返り討ちにしてやるにゃ!」


ララが灰になりかけたモルゴースの顔面(だった部分)に向けて、最後の一喝を浴びせる。

モルゴースは悔しげな、しかしどこか満足げな不気味な笑みを残し完全に消滅した。


後に残ったのは静寂と清浄な空気。

そして、黄金の闘気を纏ったまま拳を突き上げている小さな英雄の姿だけだった。


「……やった……」


クロエが呆然と呟く。


「すげえ……。あいつ本当に一人で倒しちまった……」


「ララちゃん……!」


ミミが涙を流しながら駆け寄る。

アリアも感動で胸を押さえている。


「素晴らしいですわ!これぞ、愛と勇気の勝利!物語のクライマックスですわ!」


ララはゆっくりと振り返った。

その体の闘気は霧散しいつもの愛らしい虎耳と尻尾が揺れている。


「……お兄ちゃん」


ララはユートの方を見て、満面の笑みを浮かべた。


「ララ、勝ったにゃ! ……褒めてくれるかにゃ?」


ユートは瓦礫から飛び降りララの元へと歩み寄った。

そして彼女の頭をくしゃくしゃになるまで撫で回した。


「ああ。すごいぞ、ララ。お前は世界一強い俺たちの自慢の『拳聖』だ」


「えへへ……えへへへへ……」


ララは嬉しそうに目を細めユートの腰に抱きついた。

そのまま緊張の糸が切れたのか、スースーと寝息を立て始めた。


「(やれやれ。最後はやっぱり子供だな)」


ユートは眠ってしまったララを優しく背負い直した。

その背中は以前よりも少しだけ大きく頼もしく感じられた。


「さて、帰るか。……王都が、待ってる」


四天王モルゴースの撃破。

それは、獣人王国を覆っていた闇を払う最初の一撃だった。

だが、モルゴースが最期に残した言葉。


『種は我だけではない』


その不穏な響きをユートは決して聞き逃してはいなかった。


王城にはまだ第一王子と彼を操る更なる闇が潜んでいるかもしれない。

しかし今の俺たちには、最強のララと最強の癒やし(ミミ)そして最高の絆がある。


「(……まあ、なんとかなるだろ。腹が減ったらまた美味いもん食えばいい)」


ユートは背中のララの重みを感じながら、仲間たちと共に地下水路の出口へと歩き出した。

その足取りは、来た時よりもずっと軽く力強かった。

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