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4度目の転生勇者は静かに暮らしたい ~もう魔王討伐は新入り(勇者)に任せたので、俺は美少女たちと諸国漫遊グルメ旅に出ます~  作者: のびろう。
第八章 兎の村の、スタンピード

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さらば隠れ里、いざ獣人の王都へ

スタンピードという名の悪夢が去り、ミミの故郷である隠れ里に真の平穏が訪れていた。

里のあちこちでは、復興作業というよりは勝利を祝う祭りのような空気が続いている。


俺たちが作り上げた即席要塞……もとい、防衛ラインの撤去や平和になった森での狩猟再開など、獣人たちは活気に満ちていた。


俺たち一行もこの里で三日間の骨休めをすることになった。

ガリアン大山脈での野営、そして激戦の疲れを癒やすにはちょうどいい休息期間だ。


里の長老の家、その客間にて。

俺とミミは長老と向かい合っていた。


「……そうですか。ミミ様はやはり行かれるのですな」


長老が寂しげに、しかしどこか誇らしげに目を細めた。

ミミは俺の隣で背筋を伸ばし、膝の上で拳を握りしめている。

その表情にはかつての弱々しさは微塵もない。


「はい。長老様」


ミミの声は澄んでいた。


「わたくしはこの里に戻ってこられて本当に嬉しかったです。皆様が無事で本当に……」

「ならばこのまま里に残り、我らを導いてくださっても……」

「いいえ」


ミミは首を横に振った。

そして、隣に座る俺と部屋の外で待機している仲間たちの気配を感じながらきっぱりと言った。


「わたくしはまだ旅の途中なのです。ユートさんたちと共にもっと広い世界を見て、もっと強くなりたいのです。……それに」


ミミは少し頬を染めて微笑んだ。


「わたくしの居場所は……今は、あの方たちの隣にありますから」


長老はしばらくミミの瞳を見つめていたが、やがて深く頷いた。


「……承知いたしました。ミミ様はもう守られるだけの小さき姫君ではないようですな」


長老は俺に向き直り深々と頭を下げた。


「ユート殿。どうかこれからもミミ様を……我らの希望を、よろしく頼みます」


「ああ。任せてくれ」


俺は力強く答えた。


「この旅が終わったら必ず送り届けるよ。……ものすごく強くなった聖女様をな」


「ふふっ。期待しておりますぞ」


話し合いは円満に終わった。

部屋を出ると、聞き耳を立てていたララ、クロエ、アリアが雪崩れ込むように俺たちを取り囲んだ。


「ミミ!やっぱり一緒に行くんだにゃ!」


ララがミミに抱きつく。


「当然だろ。ミミがいないと誰がララの暴走を止めるんだよ」


クロエがニカっと笑う。


「愛の逃避行は続きますのね!素晴らしいですわ!」


アリアが手を合わせる。


ミミは仲間たちに囲まれ、涙ぐみながらも満面の笑みを浮かべた。


「はい……!みなさん、これからもよろしくお願いします、ぴょん!」


***


さて。

感動の再確認も済んだところで俺にはやるべきことがあった。

この三日間、ただ寝て過ごすなんて俺の性分じゃない。

それに、世話になった里の人々に最後にデカい礼をしておきたい。


「……やるか」


俺は腕まくりをして立ち上がった。

俺が向かったのは里一番の広さを誇る共同炊事場だ。


そこにはこの里の料理を取り仕切る料理長――熊獣人のゴズがいた。

身長二メートル越えの巨漢で顔には古傷がある強面だが、料理への情熱は人一倍熱い男だ。


「おう、英雄殿!今日は何の用だ?」


ゴズが巨大な包丁を研ぎながら声をかけてくる。


「ゴズ。厨房を借りたい」

「厨房?腹が減ったのか?なら俺が特製の猪鍋を……」

「いや、俺が作る。……里のみんなに振る舞いたい料理があるんだ」


俺の言葉にゴズの目が光った。

彼はあのスタンピード後の宴で俺が作った料理を一口食べた瞬間、雷に打たれたような顔をしていたのを覚えている。


「英雄殿の……料理……!」


ゴズがゴクリと唾を飲む。


「いいだろう!いや、ぜひ頼む!助手でも何でもさせてくれ!あんたの腕一度じっくり見たかったんだ!」


交渉成立だ。

俺は里の食材庫を確認させてもらった。


ここにあるのは豊富な獣肉、森のキノコ、山菜。

そして畑で栽培しているという質の良い小麦。

魚介類はないが、乳牛代わりの魔獣から取れるミルクとそこから作られたチーズもある。


「(……ふむ。シチュー、中華、カレーと来たからな)」


俺の脳内レシピ検索が高速回転する。

小麦粉がある。

チーズがある。

トマトに似た酸味のある野菜『赤玉実』もある。

そして、新鮮なジビエ肉。


「……よし。決まりだ」


俺はゴズに向かって不敵に笑った。


「今日は、『イタリアン』で行くぞ」

「いたりあん?なんだそれは?新しい魔術か?」

「似たようなもんだ。舌がとろける食の魔術だ」


俺はまず、広場の隅に目をつけた。 「ゴズ、あそこに粘土と石で『窯』を作りたい。手伝ってくれ」 「カマ? 煮炊きならここで……」 「いや、直火じゃダメだ。高温で一気に焼き上げる、石窯が必要なんだ」


俺は【土魔法】を起動し、ゴズたちの協力も得てあっという間にドーム型の石窯を建造した。

中には薪をくべガンガンに熱していく。


「さて、まずは生地だ」


俺は小麦粉に水、塩、そして天然酵母を加え力強く練り上げていく。

三度の転生で鍛えた腕力が生地に強烈なコシを生む。


「す、すげえ手際だ……!粉が生き物みたいに……!」


ゴズがメモを取りながら驚愕している。


「これを薄く伸ばす。……こうだ!」


俺は生地を空中に放り投げ遠心力で綺麗な円形に広げてみせた。

クルクルと回る白い生地。

通りがかった村の子供たちが「おおーっ!」と歓声を上げる。


「そこにこの特製トマトソースを塗り、チーズをたっぷりと……。具材は、香草で炒めたベーコンと森のキノコだ」


ピザの完成だ。

俺はそれを熱された石窯の中に滑り込ませた。


数分後。

香ばしい小麦の焦げる匂いと、とろけたチーズの濃厚な香りが広場中に爆発的に広がった。


「な、なんだこの匂いは……!」

「パンの焼ける匂いに似ているが……もっと暴力的だ!」

「腹が……腹が鳴って止まらねえ!」


里中の獣人たちがゾンビのように吸い寄せられてくる。


「焼き上がりだ!」


俺が窯から取り出したのは、表面のチーズがグツグツと音を立て生地の縁がキツネ色に焦げた焼きたてのピザ。

ナイフを入れるとザクッという軽快な音が響く。

一切れ持ち上げれば、チーズがどこまでも糸を引いて伸びる。


「まずは試食だ。ほら、ララ、クロエ」


俺は匂いを嗅ぎつけて一番乗りしていた食いしん坊たちに差し出した。


「はふっ!あつっ!……んんんん~っ!」


ララが目を丸くする。


「なんだこれ!カリカリで、モチモチで、トロトロだにゃ!口の中がお祭りだにゃ!」

「うめえ!この生地、なんでこんなに美味いんだ!?上の具と合いすぎて反則だろ!」


クロエも夢中で齧り付く。


「(……これが、いたりあん……!未知の体験ですわ!)」


アリアも、優雅に(しかし素早く)一切れを確保しうっとりとしている。


「この丸い形……エンは、エン。つまり、永遠の愛を象徴していますのね!騎士様の愛、確かに受け取りましたわ!」

「(……まあ、ピザだしな。丸いよな)」


ピザだけではない。

俺は次々と料理を繰り出した。


猪肉を赤ワインと香草でじっくり煮込んだソースをかけた手打ちパスタ。


「ボロネーゼ」だ。


「麺なのに、スープに入ってないだと!?」


ゴズが驚くが一口食べて絶句した。


「肉の旨味が……麺に絡みついて……離れない……!」


さらに鹿肉を香草とオリーブオイルに漬け込み串焼きにした「アロスティチーニ風」。

ニンニクと唐辛子を効かせたキノコの「アヒージョ」。

新鮮な野菜に特製ドレッシングをかけた「カルパッチョ」。


獣人の里の広場は一夜にして巨大なオープンカフェ……いや、イタリアンバルと化した。


「うおおお!うめええええ!」

「酒だ!ワインを持ってこい!」

「ピザ!ピザのおかわりを頼む!」


獣人たちは初めて見る料理の数々に最初は戸惑っていたが、一口食べればその虜になった。

特に肉好きの彼らにとって、濃厚な味付けのイタリアンは相性抜群だったようだ。


「ユート殿……いや、師匠!」


ゴズが涙目で俺の手を握りしめてくる。


「こんな料理法があったとは……!俺は、今まで何をしていたんだ!焼くか煮るかしか知らなかった自分が恥ずかしい!」

「いや、素材がいいからだよ。ゴズ、お前ならもっと美味いもんが作れるはずだ」


俺はレシピと石窯の設計図をゴズに渡した。


「ここの小麦とチーズは最高だ。これを里の名物にすれば、交易の目玉になるぞ」


「し、師匠ぉぉぉぉ!一生ついていきますぅぅぅ!」


ゴズがエルロンと同じように号泣し始めた。

どうやら俺は行く先々で屈強な男を泣かせるスキルでも持っているらしい。


「お兄ちゃん、パスタおかわりだにゃ!」

「ボクはピザ!キノコたっぷりのやつ!」

「わたくしはこのアヒージョというオイルに、パンを浸して……はぁ、背徳的な味ですわ」

「ユートさん……あ~ん、です、ぴょん」


ミミがちゃっかりと俺の隣をキープし、フォークに巻いたパスタを俺の口元に差し出している。


「お、おいミミ。みんな見てるぞ」

「いいんです。ユートさんは作るのに忙しくて食べてないじゃないですか」


ミミはニコニコしながら譲らない。


「ほら、あ~ん」


俺は観念してパスタを口にした。


「……ん。美味い」

「ふふっ。よかったです!」


その光景を見てララとクロエとアリアが「ずるい!」「ボクも!」「わたくしも!」と雪崩れ込んでくるのはもはや様式美だった。


こうして獣人の里での「イタリアン祭り」は、夜更けまで笑い声と美味しい匂いと共に続いたのだった。


***


そして三日が過ぎた。

旅立ちの朝。


里の入り口にはまたしても里中の住民が集まっていた。

もはや恒例行事だが、今回は特に熱気が凄かった。


「ユート様!行かないでくれぇ!」

「ピザ神様!万歳!」

「ミミ様、必ず戻ってきてくださいね!」


特に料理長のゴズは、俺の足に縋り付いて離れようとしなかった。


「師匠!まだ教えてほしいことが!あの『リゾット』という米料理の火加減が!」

「ゴズ、お前ならできる。失敗を恐れるな」


俺はなんとか彼を引き剥がし、励ましの言葉(適当)をかけた。


ミミは長老と、そして見送りに来た両親代わりの村人たちと抱き合っていた。


「行ってきます。……必ず、また帰ってきます、ぴょん!」

「ああ。達者でな。……強くなるんだぞ」


俺たちは名残惜しむ村人たちに手を振り再び街道へと足を踏み出した。


「さて、と」


俺は地図を広げた。

ガリアン大山脈を越え隠れ里での休息も終えた。

次なる目的地は、この大陸でも有数の大国。


「次は、ララの故郷。『獣人王国ガレリア』だ」


俺の言葉に、隣を歩いていたララがピクリと虎耳を震わせた。

いつもの元気な笑顔が一瞬消え、どこか複雑な大人びた表情を見せる。


「……うん。お兄ちゃん」


ララは自分の拳をじっと見つめ、そして俺を見上げた。


「ララね、帰らなきゃいけないんだにゃ。……お父様と決着をつけるために」


その言葉の重みに、俺は少し驚いた。

ただの天真爛漫な野生児だと思っていたララ。

だが彼女にもまた、背負っている過去と向き合わなければならない運命があるのだ。


「ああ。付き合うよ」


俺はララの頭をポンポンと撫でた。


「俺たちはパーティーだ。面倒事だろうが何だろうが、全員でぶっ飛ばしに行こうぜ」


「……うん!お兄ちゃん、大好きだにゃ!」


ララはいつもの笑顔に戻り、俺の腰に抱きついた。


「おい、ララ!また抜け駆けか!」

「わたくしの定位置(右腕)は譲りませんわよ!」

「ぴょん!左腕はわたくしです!」


相変わらずの騒がしい陣取り合戦。

だが、俺たちの絆はこの旅を通じて確実に深まっていた。


目指すは獣人王国。

そこで待ち受けるのは、王位継承の争いか、それとも四天王の陰謀か。

どんな困難が待っていようと、今の俺たちなら――いや、俺の胃袋を掴む料理とこの最強の美少女たちならきっと乗り越えられる。


「行くぞ!」

「「「「おー!」」」」


俺たちは朝日が昇る街道を、賑やかに歩き出した。

スローライフへの道のりは遠いが、この旅路は決して悪くない。

俺は吹き抜ける風に、微かな予感――新たな冒険の匂いを感じながら前を見据えた。

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