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4度目の転生勇者は静かに暮らしたい ~もう魔王討伐は新入り(勇者)に任せたので、俺は美少女たちと諸国漫遊グルメ旅に出ます~  作者: のびろう。
第八章 兎の村の、スタンピード

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難攻不落の、要塞化計画

眼下に広がる、絶望的な光景。

数千、いや万に届こうかという魔物の大群が、黒い濁流となってミミの故郷である隠れ里に迫っていた。 里の入り口では、わずかな戦力で必死の抵抗が続けられているが決壊は時間の問題だ。


震えるミミの肩を抱きながら、俺、ユートの思考は冷徹にそして高速で回転していた。

三度の転生で培った戦術眼と現代日本の知識、そして何より俺の趣味である「効率化」への情熱がこの絶体絶命の盤面を瞬時に解析していく。


(……地形だ)


俺は里の構造を俯瞰した。

この隠れ里は切り立った断崖に囲まれた谷の最奥部にある。


外部からの侵入ルートは今まさに魔物たちが押し寄せている一本の狭い谷底の道のみ。

いわゆる「隘路」だ。


(幅は最大でも十メートル。狭いところなら五メートルほどか。それが三百メートルほど続いて、里の入り口で開けている)


俺の目が怪しく光った。


(……なるほど。あそこがキルゾーンだ)


防衛戦においてこれほど恵まれた地形はない。

隘路は大軍の利点を殺す。


どんなに数が多くても一度に通れる数は限られるからだ。

だが、今の里の防衛ラインは隘路を抜けた先の広場に展開されている。

あれでは、隘路から溢れ出した魔物に包囲され数で押し潰されるだけだ。


(戦う場所が違う。……もっと手前だ)


俺は迫りくるスタンピードの先頭集団と、村の防衛ラインまでの距離を目測する。

魔物の足ならあと数時間で本隊が突入するだろう。

だが、先行している小規模な先遣隊はすでに防衛ラインに取り付いている。


「(……よし、間に合う!)」


俺は確信を持って頷いた。

そして、絶望に押しつぶされそうになっているミミの肩をギュッと強く掴んだ。


「ミミ」

「……ユート、さん……」


涙でぐしゃぐしゃになった顔が俺を見上げる。


「もう……ダメです……。あんな数……」


「泣くのはまだ早い」


俺はニヤリと不敵に笑ってみせた。

それはただの慰めじゃない。

勝算のある男だけができる最強の約束だ。


「ミミの故郷だろ? 守るぞ」

「……え?」

「俺に任せろ。今からここを……魔物どもが二度と近づきたくないと思うような難攻不落の要塞に変えてやる」


俺の言葉に宿る絶対的な自信に、ミミの瞳から絶望の色が薄れ微かな希望の光が宿った。


「……はい!信じます、ぴょん!」

「いい返事だ。行くぞ!」


俺は仲間たちに振り返る。


「まずは村に突入する!裏の崖道を使うぞ!遅れるなよ!」

「おう! 任せとけ!」

「ララ、準備運動はバッチリだにゃ!」

「騎士様のお導きのままに!」


俺たちは崖沿いの獣道を滑り降りるように駆け下りた。


***


「うわあああああ!」

「怯むな!退いたら家族が食われるぞ!」

「でも、もう限界だ!武器が……!」


里の入り口。

そこは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


獣人の戦士たちが粗末な槍や弓で必死に応戦しているが、先遣隊のオークやゴブリンの波状攻撃に押され防衛ラインは今にも崩壊寸前だった。


「ギャハハハ!肉だ!柔らかい肉だァ!」


一体の巨大なオークが傷ついた犬獣人の若者を棍棒で殴り飛ばし、里の中へと踏み込もうとした。

その先には逃げ遅れた老人や子供たちが身を寄せ合っている。


「や、やめろぉぉぉ!」


若者が絶叫する。

オークが醜悪な笑みを浮かべて棍棒を振り上げた、その瞬間。


「――させないにゃ!」


ズドオオオオオオン!


轟音と共にオークの巨体がボールのように真横に吹き飛んだ。

そのまま後続のゴブリンたちを巻き込み、岩壁に激突して動かなくなる。


「な、なんだ!?」


獣人たちが目を剥く。

舞い上がった土煙の中から現れたのは、小さな体に膨大な闘気を纏った虎獣人の少女だった。


「と、虎……?」

「援軍だにゃ!ララの拳は岩より硬いんだにゃ!」


ララが仁王立ちし牙を剥いて威嚇する。


「敵の指揮系統、攪乱するぞ!」


続いて赤い疾風が戦場を駆け抜けた。

クロエだ。

彼女は目にも止まらぬ速さで敵陣の真っ只中に飛び込むと、魔物たちの急所だけを正確に切り裂いていく。


「なっ、速い……!?」

「影が見えねえ!」


「風の精霊たちよ!彼らを吹き飛ばして!」


さらに、上空からアリアの魔法が炸裂する。

局所的な突風が密集していた魔物たちをドミノ倒しになぎ倒していく。


「うわあああ!?」

「空からエルフが!?」


そして、最後に俺が戦場のど真ん中に着地した。


「下がれ!ここは俺たちが引き受ける!」


俺は右手に魔力を集中させる。

派手な魔法は必要ない。

ただ、効率的に、確実に数を減らすだけだ。


「【アース・スパイク】」


俺が地面に手を触れた瞬間、敵の足元から無数の土の槍が突き出した。


「ギャッ!?」

「グエッ!?」


一瞬にして最前列にいた数十体の魔物が串刺しになり絶命する。

圧倒的な蹂躙。

戦場の空気が一変した。


「す、すげえ……」

「なんだ、あいつらは……」

「とんでもなく強いぞ……!」


絶望に支配されていた獣人たちの目に、驚愕とそして歓喜の色が浮かぶ。


俺は一気に敵を押し返した隙を見て大声で叫んだ。


「ミミ!今だ!」


「は、はいですぴょん!」


俺の背後からミミが飛び出した。

彼女は傷ついて倒れている犬獣人の若者に駆け寄るとその手をかざした。


「癒やしの光よ……【ヒール】!」


温かな光が溢れ若者の傷がみるみるうちに塞がっていく。

それだけではない。

彼女を中心に広がった光の波紋は、周囲で傷ついていた戦士たちの体力をも回復させていった。


「こ、これは……」

「傷が……消えていく……?」

「あったけぇ……」


若者が信じられないものを見る目でミミを見上げた。

その長い耳。

美しい銀色の髪。

そして、この神聖な治癒の力。


「ま、まさか……」


若者の声が震える。


「その姿……『銀の兎』の一族……?」

「……王家の、生き残り……?」


ざわっ、と里の獣人たちの間に衝撃が走った。

三十年前の大崩壊で、王族である『銀の兎』の一族は全滅したと思われていたからだ。


ミミはフードを外し、真っ直ぐに里の人々を見つめた。

その瞳には、もう怯えはない。


「……わたくしは、ミミ。この里の出身の……ミミです、ぴょん!」


彼女は胸に手を当てて叫んだ。


「遅くなって、ごめんなさい!でも……もう大丈夫です! 


わたくしには……最強の仲間がいますから!」


「ミミ……様……?」

「生きて……おられたのか……!」

「うおおおおお!王女様が!王女様がお戻りになられたぞ!」


ワアアアアアッ!と里中から歓声が上がった。

絶望の淵にいた彼らにとって、ミミの帰還は、まさに奇跡そのものだったのだ。


(……よし。士気は上がった)


俺はその様子を満足げに見届けた。

感動の再会だ。

涙を流して抱き合いたいところだろう。

だが。


「……喜ぶのは後だ!」


俺の鋭い一喝が歓声を断ち切った。

全員が、ビクリとして俺を見る。


「忘れるな。目の前の雑魚は片付けたが本隊はすぐそこまで来ている」


俺は谷の向こう、土煙を上げて迫りくる黒い軍勢を指差した。


「あれが到着すれば、今の戦力じゃひとたまりもない。ミミが帰ってきたのに、その十分後に全滅しましたじゃ笑い話にもならないぞ」


「うっ……」

「た、確かに……」


獣人たちが再び青ざめる。


「ど、どうすればいいんだ……!俺たちの武器じゃ、オークの上位種には歯が立たねえ……!」

「数も違いすぎる……逃げる場所もない……!」


パニックになりかけた彼らの前に、一人の老人が進み出た。

立派な角を持った、羊獣人の長老だ。


「……静まれ!」


長老の一声で場が静まる。

彼は震える足で俺の前に歩み寄ると深々と頭を下げた。


「……旅のお方。そして、ミミ様をお救いくださった恩人殿。……貴殿には、何か策がおありか?」


さすが長老。

話が早い。

俺はニヤリと笑った。


「策ならある。というか、俺の本職(スローライフのための土木)だ」


俺は自信満々に胸を張った。


「正面からぶつかり合う必要なんてない。あいつらを、一歩も村に入れずに、全滅させる方法がある」


「ぜ、全滅……!?」

「一歩も入れずにだと……?」


獣人たちがざわめく。


「長老。あんたたちの協力が必要だ。戦える者は全員、鍬とスコップを持って集まってくれ」

「鍬と……スコップ、じゃと?剣ではなく?」

「ああ。これからやるのは戦争じゃない」


俺は目をギラつかせながら宣言した。


「――大規模な『害獣駆除』だ」


俺は地面に簡単な図面を描き始めた。


「いいか、よく聞け。入り口から村までの隘路。あそこをフル活用する」

「入り口を塞ぐのか?」

「いや、塞がない。塞いだら、奴らは壁を登ってくるか、死に物狂いで突破しようとするだろう。そうじゃなくて……『通りたくなる道』を作ってそこに誘い込むんだ」


俺の口から次々と物騒な(しかしワクワクする)単語が飛び出す。


「まず、第一防衛ライン。ここには『連鎖式落とし穴』を掘る。ただの穴じゃない。底に即席の槍を設置した、串刺しトラップだ」

「ひぇっ……」

「次に、第二ライン。隘路の壁面を利用した『落石誘導システム』。俺とアリアで崖を脆くしておく。合図一つで、数百トンの岩が雪崩れ込むようにする」

「ご、合理的すぎる……」

「そして、最終ライン。ミミの結界魔法と、ララ・クロエの遊撃隊で漏れてきた奴らを各個撃破だ」


俺の説明に獣人たちはポカンと口を開けていた。

彼らにとって、戦いとは「名乗りを上げて突撃するもの」だったからだ。

こんな、相手をハメて、楽して、一方的に殲滅する戦術など思いもよらなかっただろう。


「……えげつねえ」


クロエが呆れ半分、感心半分で呟く。


「ユートお前、魔王より悪知恵働くんじゃないか?」

「人聞きが悪いな。これは『知恵』と『工夫』だ」

「騎士様……!その冷徹なまでの効率主義……痺れますわ!ゾクゾクしますわ!」


アリアがまた変なスイッチが入って身悶えている。


長老はしばらく図面を見つめていたが、やがて顔を上げ力強く頷いた。


「……分かった。我らには、もう後がない。恩人殿のその『知恵』に、この里の命運を賭けよう!」


「よし! 決まりだ!」


俺はパンと手を叩いた。


「時間は少ないぞ!急げ!男手は穴掘り!女子供は罠の偽装用の枝集めだ!俺の指示に従えば、指一本怪我させない!」


「「「「オオオオオオオッ!」」」」


里の空気が一変した。

絶望的な「死を待つ時間」が、希望に満ちた「殺る気満々の準備時間」へと変わったのだ。


「ミミ、お前は長老と一緒に村人たちの指揮と怪我人の治療だ。安心させろ」

「はい!任せてください、ユートさん!」


ミミが、頼もしい顔で敬礼する。


「ララは力自慢の獣人たちを率いて、崖の上の岩を動かせ!」

「任せるにゃ!重い岩ならララにお任せだにゃ!」


「クロエとアリアは、森のツタを集めてワイヤーを作れ!トリップワイヤーを何重にも張り巡らせるんだ!」

「へいへい、人使いが荒いねえ!」

「愛の共同作業ですわね!」


俺はスコップ(もちろん【無限収納】にあった特注品だ)を構え不敵に笑った。


「さあ、始めようか。最強勇者流・土木工事ディフェンスゲームの開幕だ!」


迫りくる魔物の大軍。

だが、今の俺にはそれらがただの「経験値」かあるいは「俺の罠の実験台」にしか見えていなかった。 この谷を奴らの墓場にしてやる。

俺の平穏なスローライフ(とミミの笑顔)を脅かしたことを地獄の底で後悔させてやるために。

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