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4度目の転生勇者は静かに暮らしたい ~もう魔王討伐は新入り(勇者)に任せたので、俺は美少女たちと諸国漫遊グルメ旅に出ます~  作者: のびろう。
第六章 大山脈の試練と、覚醒する精霊使い

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焚き火と、乙女の夜語

極上の熊肉シチューで腹を満たし、即席の露天風呂で体の芯まで温まった俺たちは、ガリアン大山脈の冷たい夜風の中でしばしの安らぎを得ていた。

だが、ここは魔境の只中だ。


全員で熟睡するわけにはいかない。

俺は、安全確保のために二人一組の「交代制夜番」を提案した。


もちろん、全シフトに俺が入る。

俺の【並列思考】と【自動回復】があれば、睡眠時間は短くても問題ないし、何より彼女たちだけで夜の番をさせるのは不安だったからだ。


最初の相棒はクロエだった。


パチパチと、焚き火が静かに爆ぜる音だけが響く。

他の三人はテントの中で既に寝息を立てているようだ。

俺とクロエは火を挟んで向かい合うように座っていた。


「…………」 「…………」


沈黙。

だが、気まずい沈黙ではない。


背中を預けられる相棒との、心地よい静寂だ。

クロエは膝を抱え、揺れる炎をじっと見つめている。

湯上がりの髪は乾いているが、炎に照らされた横顔はどこか艶っぽく見えた。


「……なあ、ユート」


不意に、クロエが口を開いた。


「ん?どうした」

「……あのアリアって奴、どう思う?」


唐突な問いかけに、俺は薪をくべる手を止めた。

クロエの視線は炎に向けられたままだ。


俺は、今日の戦闘――巨岩熊との戦いを思い返しながら、正直な感想を口にした。


「どうって……。優秀なデバッファーだな」


俺は頷く。


「精霊の声で敵の行動を予知し、地形を変えて拘束する。火力はないが、戦場をコントロールする能力はずば抜けている。正直、予想以上の拾い物だったよ」


俺が真面目に分析して答えると、クロエはガクリと肩を落とした。

そして、ジトッとした目で俺を睨みつけてくる。


「(チッ)……そういう意味じゃねーよ」

「え?」

「はあ……。お前さ、たまに鋭いくせに、肝心なとこで鈍感だよな。わざとか?わざとなのか?」


クロエはブツブツと文句を言いながら、小石を拾って焚き火に投げ込んだ。


「なんでもねーよ!ふん!」


クロエは拗ねたように顔を背けた。

その耳が炎の赤さ以上に赤くなっていることに、俺は気づかないふりをした。


(……嫉妬、か?いや、まさかな)


俺はめんどくさい展開を避けるため、とりあえず彼女の強さを褒めておくことにした。


「ま、俺はクロエの短剣捌きの方が、背中を任せるには安心だけどな」

「……ふ、ふん!当たり前だろ!ボクが一番古株なんだからな!」


クロエの機嫌は一瞬で直った。

チョロい。

いや、素直でいい奴だ。


***


次の夜番はララだ。


「ふあぁ……。お兄ちゃん、眠くないのかにゃ?」


ララは眠い目をこすりながら、俺の隣にぴったりとくっついて座っている。

虎の耳が眠気でぺたんと伏せられているのが愛らしい。


「俺は大丈夫だ。ララこそ無理しなくていいぞ。膝枕でもしてやるから、寝てていい」

「ううん!ララ、夜番する!お兄ちゃんとお話するんだにゃ!」


ララは頑張って目を見開き俺を見上げた。


「お兄ちゃん。ララ、今日、強かったかにゃ?」

「ああ。強かったぞ」


俺は彼女の頭を撫でてやる。


「あの一撃、見事だった。拳聖の動き、完全に様になってきたな。あの硬い岩熊の額を割るなんて俺でも素手じゃ骨が折れる」

「えへへ……」


ララは褒められて嬉しそうに喉を鳴らした。

そして自分の小さな拳をじっと見つめ、ぎゅっと握りしめる。


「もっと……もっと強くならなきゃ、だにゃ」

「ん?十分強いぞ?」

「ううん。もっとだにゃ」


ララの瞳に真剣な光が宿る。


「ララね、もっと強くなって、お兄ちゃんと、お姉ちゃんと、クロエと、アリアと……みんなを守るんだにゃ!もう、誰もいなくならないように……ララがみんなの盾になるにゃ!」


かつて故郷を失い、姉を守るために無力さを噛み締めた少女。

その言葉の重みに俺は胸が熱くなった。


「……そうか。頼もしいな、ララ」


俺は彼女の肩を抱き寄せた。


「でも、全部一人で背負うなよ。俺もいる。みんなで守り合えばいい」

「……うん!お兄ちゃん、大好きだにゃ!」


ララは俺の腕の中で安心したように身を預けてきた。


***


三番手は、ミミだ。


「……焼けた、かな?ぴょん」


ミミは焚き火の端で、串に刺したニンジンを真剣な顔で炙っていた。

夜食というわけではないだろうが、これも彼女なりの「修行」らしい。


「いい焼き加減だ、ミミ。焦がさず中まで火を通す。火加減のコントロールも料理の基本だからな」 「はい!ユートさん!」


ミミは焼きたてのニンジンをふうふうと冷まし、半分に割って俺に差し出した。


「味見、お願いします、ぴょん」

「おう」


俺は一口かじる。

素材の甘みが凝縮され、ホクホクとした食感が口に広がる。


「……美味い。完璧だ」

「ほっ……よかったです……」


ミミは自分の分をちびちびとかじりながら、焚き火を見つめて呟いた。


「ユートさん。お料理、楽しいです、ぴょん」

「そうか。よかった。ミミは筋がいいな」

「……でも、料理だけじゃダメなんです」


ミミの声のトーンが少しだけ変わった。


「わたくし、強くなりたいです」


彼女は俺の方を向き、その大きな瞳でまっすぐに俺を見た。


「回復魔法も、防御魔法も、もっともっと練習して……。もう、ユートさんたちに背中を守られているだけじゃなくて……いつか、みんなを守れるようになりたいんです」

「ミミ……」

「今日の戦いで、わたくしの盾がララちゃんを守れた時、すごく嬉しかったんです。わたくしにもできることがあるんだって」


あんなに臆病で、いつも誰かの後ろに隠れていた兎の少女が。

今、自らの足で立ち、仲間を守ろうとしている。


「ああ。お前はもう、立派な『守護の要』だよ、ミミ」

「えへへ……。がんばります、ぴょん!」


ミミは照れくさそうに、でも誇らしげに笑った。


***


そして最後の夜番。

夜明け前の最も深い闇の中、現れたのはアリアだ。


「騎士様……」


アリアは寝起きとは思えないほどバッチリと髪を整え、優雅に俺の隣に座った。


「交代ですわ」

「ああ。よく眠れたか?」

「はい。騎士様の夢を見ましたわ」

「(聞いてない)」


アリアは焚き火に手をかざしながらしみじみと言った。


「騎士様……わたくし、今日、初めて自分の力で戦えました」

「ああ。見事な采配だったぞ」

「精霊たちの声があんなにハッキリと聞こえたのは初めてでした。これも騎士様がわたくしを信じて、背中を押してくださったからですわ」


アリアは感謝と尊敬に満ちた眼差しを俺に向けた。


「精霊使い。いいジョブじゃないか。お前には才能がある」

「はい!これも騎士様のお導きのおかげですわ!」


アリアは感極まったように胸の前で手を組んだ。

ここまではいい話だった。

だが、彼女はスッと距離を詰めてきた。


「……あの、騎士様?」

「なんだ」


アリアの上目遣いが怪しく光る。


「戦いの修行はあんなに成果が出ました。……そろそろ、『恋』の修行も、この後……」


彼女はそっと俺の手に自分の手を重ね、意味深に微笑んだ。


「静かな夜。燃える炎。二人きり。……準備は万端ですわよ?」


俺はその手をパシッと払うことなく、優しく、しかし力強く彼女の肩を掴んだ。

そして、一言。


「寝ろ」

「ぴゃっ!」


俺の簡潔にして絶対の拒絶ツッコミに、アリアは素っ頓狂な声を上げ鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。


「え?あ、あれ?ここからが、大人の時間……」

「明日は早い。寝ろ」

「そ、そんな殺生な……!本ではここからがクライマックスですのにー!」


アリアの悲痛な叫び(小声)が、夜明け前の山脈に吸い込まれていく。

俺はそんな彼女をテントに押し込み、ようやく訪れた一人の時間に深く息を吐いた。


「……まったく。どいつもこいつも」


焚き火が燃え尽きようとしている。

俺は静かになったキャンプ地を見渡し苦笑した。


騒がしくて手のかかる仲間たち。

だが、悪くない夜だ。


俺の「静かに暮らしたい」という願いとは裏腹に、この旅はどんどん賑やかになっていく。

それでも焚き火の温かさのように、胸の奥がじんわりと温かいのはきっと気のせいではないだろう。


そして夜が更けていった。

空が白み始め、ガリアン大山脈の険しい峰々が朝日に照らされようとしていた。

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