アリア覚醒と四人の連携
「(……なるほどな)」
俺は目の前で起こった光景に満足げに頷いていた。
崖から転がり落ち全身の岩(毛皮)を強打した巨岩熊は、今、怒り心頭といった様子で再び崖をよじ登り始めていた。
「グオオオオオオオオオ!」
凄まじい咆哮が谷間に響き渡る。
「き、騎士様!また来ますわ!」
アリアはまだ自分の「予言」が的中したことが信じられないのか、呆然としながらも再び俺の背後に隠れようとする。
「(こいつ優秀なのに、メンタルがまだ姫さまだな……)」
「す、すごいにゃ!アリア!今のどうやったんだニャ!?」
「偶然だろあんなの!たまたま、あの熊がドジだったんだ!」
ララは目を輝かせクロエはまだ半信半疑といった顔だ。
俺はそんな仲間たちを見渡しニヤリと笑った。
(三度の転生で色々なパーティーを組んできたが……こいつら最高の『原石』だ)
クロエの速さ、ララのパワー、ミミの守り。
そして、アリアの『未来予知』。
(これ、完璧なパーティーが組めるじゃないか)
俺は面倒事はごめんだが、こういう「育成ゲーム」は嫌いじゃない。
血が騒ぐ、というやつだ。
「偶然じゃない。――実戦訓練の総仕上げだ」
俺の声に四人がハッと顔を上げる。
「いいか!あの熊はB+ランク。お前たち一人じゃ、絶対に勝てない相手だ」
「「「!」」」
「だが、四人なら勝てる。いや、俺の指示通りに動けば、お前たちは一切の怪我なく完璧に勝てる」
俺は指揮官の顔になる。
「行くぞ!連携訓練、開始だ!」
「グオオオ!」
巨岩熊がついに崖を登り切り、俺たちの前に立ちはだかる!
その巨体はまさに「動く岩山」だ。
「指示、第一!」
俺はまずアリアを指差した。
「アリア!さっきと同じだ!敵の動きを封じろ!」
「は、はい!騎士様!」
アリアはまだ震えながらも、俺の言葉に必死に応えようと再び目を閉じた。
(……聞こえます!聞こえますわ!)
「土の精霊たち!わたくしの声に応えて!あの方の足元をどうか!」
彼女が祈るように叫ぶと、巨岩熊の足元の岩盤がまるで意思を持ったかのように、グニャリと粘度を増していく。
「グアアア!?(ずぶずぶ)」
巨岩熊が前進しようとした足が地面(泥濘)に取られ、一気に動きが鈍る!
「お、おお!すげえ!本当に足が沈んでるぞ!」
「やったにゃ!アリア、すごい!」
クロエとララが目を見張る。
「ふ、ふふん!やりましたわ!騎士様!」
アリアが得意げに俺に振り返る。
「上出来だ。だが、よそ見するな」
「指示、第二!」
俺はクロエに向かって叫ぶ。
「クロエ!敵の注意を引きつけろ!死角から目眩ましだ!」
「言われなくても!」
クロエはアリアが作ったチャンスを逃さない。
彼女の体がふっと霞むように消える。
(【隠密】スキル、完璧に使いこなしてるな)
巨岩熊がもがく足に気を取られているまさにその瞬間。
クロエはすでに魔獣の背後(死角)に回り込んでいた。
「くらえ!」
懐から取り出した特製の「煙玉」を巨岩熊の顔面に叩きつける!
「グボアアアアア!?」
ボフン!という音と共に視界を奪う刺激臭のある煙が熊の顔を直撃する。
熊は、目と鼻をやられ、デタラメに腕を振り回し始めた。
「(よし、拘束、目眩まし、完璧だ。……次、主砲!)」
「指示、第三!」
俺は、すでに闘気を高めていたララに最大火力の合図を送る。
「ララ!眉間を狙え!最大火力、叩き込め!」
「待ってましただにゃあああああああ!」
ララの体が黄金の闘気に包まれる。
(クラスチェンジした『拳聖』の力、見せてもらうぞ!)
ララは拘束され目も見えない巨岩熊に向かって一直線に突撃する。
振りかぶった小さな拳に彼女の全魔力が収束していく。
「おらーーーーーーっだにゃあああああ!」
ゴッッッ!!!
岩と岩が激突したような鈍く重い破壊音。
ララの拳が巨岩熊の眉間――その分厚い「岩石の毛皮」を完璧に捉えた。
「(……ピシッ)」
次の瞬間。
あの、並大抵の攻撃は無効化するという岩石の毛皮に蜘蛛の巣のような「ヒビ」が入った。
「グオオオオオオオオオ!?」
巨岩熊が人生(熊生?)で初めて味わうであろう、強烈な「痛み」に絶叫する。
「うおっ!マジかよ!あの岩ヒビ入ったぞ!」
「やったにゃ!ララの勝ちだにゃ!」
クロエが驚愕し、ララが着地してガッツポーズを決める。
(……だが、まだだ!)
ヒビは入ったが致命傷には至っていない。
怒り狂った巨岩熊は、痛みと混乱で煙の中か、無差別にその巨大な爪を振り回した!
「ガアアアアア!」
その一撃が、着地したばかりのララを横薙ぎに襲う!
「ララちゃん!」
アリアが悲鳴を上げる。
だが、俺の指示はすでに飛んでいた。
「指示、第四!ミミ!」
「はいですぴょん!」
「ララの着地をフォロー!全員に【聖域の盾】!」
俺の言葉とミミの詠唱はほぼ同時だった。
「わたくしの『家族』に手出しはさせませんぴょん!」
ミミが杖を掲げると、金色の光がララを、クロエを、アリアを、そしてミミ自身を完璧なタイミングで包み込む。
ガギイイイイイイイイイイン!
巨岩熊の必殺の爪が、ララの目の前でミミの防御結界に阻まれ、甲高い音を立てて弾かれた。
「あ、あぶなかったにゃ……」
ララが冷や汗を拭う。
「お姉ちゃん!サンキュ!」
「ふぅ……。間に合ってよかったです、ぴょん」
ミミがほっと胸を撫で下ろす。
「(……完璧だ)」
俺はこの一連の流れに笑みを抑えきれなかった。
アリアの「拘束」。
クロエの「攪乱」。
ララの「火力」。
ミミの「防御」。
(俺が手を出すまでもない。こいつらだけでB+ランクを完封できる)
巨岩熊は、今や足は泥に取られ、目は見えず、渾身の一撃は防がれ、おまけに一番硬い「額」にヒビまで入れられている。
完全に、パニック状態だ。
「よし」
俺は仕上げの指示を出す。
「アリア、敵の動きを止め続けろ。クロエ、ララ、もう一度、額のヒビに同時に叩き込め!ミミ、回復準備!」
「「「「了解!(ですわ!)(にゃ!)(ぴょん!)」」」」
四人の声が完璧に重なった。
***
数分後。
あの巨岩熊は動く岩山からただの岩山(動かない)へと変わっていた。
「はぁ……はぁ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
「やった……やったにゃ!」
ララが魔獣の亡骸の上でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「……マジか。あたしたちだけで倒しちまった……」
クロエが短剣を鞘に収めながら、信じられないといった顔でその光景を見ている。
ミミも杖を抱きしめながら嬉しそうに頷いている。
「みんな、すごいです……ぴょん!」
そして、アリア。
彼女は戦いが終わった後も、その場にへたり込んだまま自分の両手をじっと見つめていた。
「……わたくし……」
「……」
「わたくし、やりましたのね……?騎士様のお役に立てましたのね……?」
その翡翠色の瞳にじわりと涙が浮かぶ。
里の禁書で読んだ「戦う姫君」の姿と今の自分が初めて重なった瞬間だった。
「騎士様ああああああ!」
アリアは感動のあまり、俺に向かって両手を広げて駆け寄ってきた。
(あ、これはいつもの「抱きつき(ラブ)アタック」の軌道だ)
俺はアリアが飛び込んでくる直前、流れるような動きでスッと半身をずらした。
「どわっ!?」
アリアは俺(がいた場所)を通り抜け、そのままの勢いで近くの雪解け水の水たまりに顔から突っ込んだ。
(……ナイス回避)
「(ぷはっ!)き、騎士様!?なぜ、お避けになるんですの!?今のは、感動の『愛』の抱擁の場面ですわ!」
「ああ、悪い悪い。それより、アリア」
俺は水浸しで抗議するアリアの頭に、ポンと手を置いた。
「!きゃっ!」
アリアがびくんと固まる。
「上出来だ、アリア。お前の『声』はこのパーティーに必須だ。最強の武器になるぞ」
「き、騎士様の……最強の武器……!」
アリアは俺に頭を撫でられたまま顔を真っ赤にして完全にフリーズした。
(ふふふ……これが、騎士様の……『愛』のご褒美……!)
彼女の「恋する乙女」回路がショートしている音が聞こえるようだった。
「あー!ずるい!アリアばっかり!」
「ユート!ボクも戦った!ボクも撫でろ!」
「お兄ちゃん!ララが一番ダメージ与えたんだにゃ!ララは『ぎゅー』だにゃ!」
(はいはい、始まった)
クロエとララが俺の両足にわらわらと群がってくる。
ミミが、その様子を少し羨ましそうにでも嬉しそうに見守っている。
(やれやれ。連携は完璧だったが、こっち(戦いの後)の連携は、まだまだ前途多難だな)
俺は美少女たちにわちゃわちゃにされながら、谷底に横たわる「巨岩熊」の亡骸を見つめた。
(さて。B+ランクの熊、か)
俺の【万物鑑定】が瞬時に最高の調理法を弾き出す。
(……うん。この肉質と脂。間違いない)
(今夜は、ミミの修行も兼ねて最高の「熊汁」……いや、味噌はないから「特製・岩熊のポトフ」に決定だな)
俺は、騒がしい仲間たち(と、食材)を前に静かにほくそ笑むのだった。




