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4度目の転生勇者は静かに暮らしたい ~もう魔王討伐は新入り(勇者)に任せたので、俺は美少女たちと諸国漫遊グルメ旅に出ます~  作者: のびろう。
第五章 森の姫と、運命の勘違い

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鼻垂れ長老との再会

「……行った、か」


嵐のようにエルフの戦士団が去った後。

俺はこのカオスな状況の中心で深いため息をついた。

俺の背中では、まだエルフの少女――アリアが服をぎゅっと掴んで震えている。

いや、これは恐怖ではなく興奮か……。


(ああ、そうだ。いかんいかん)


俺はこの面倒事のせいですっかり忘れていた、本来の目的を思い出した。


(ミミの故郷の手がかりを探すのが先決だった)


あのエルフの戦士団の様子を見るに、この森の奥には彼らの「里」が間違いなく存在する。

千年前の記憶ではエルフは知識の宝庫だ。

獣人族の古い伝承くらい何か知っているかもしれない。


「よし」


俺は、アリアに向き直る。


「アリアさん、だったな」

「は、はい!騎士様!」


アリアは頬を真っ赤にしたまま、熱っぽい視線で俺を見つめてくる。


(その『騎士様』って呼び方、やめてほしいんだが……)


「ちょうどよかった。俺たち獣人族の国について調べていて、この先の『エルフの集落』に行きたいんだが」

「!」

「案内を、頼めるか?」


俺の言葉を聞いた瞬間、アリアの翡翠色の瞳がこれ以上ないというほど輝いた。


「は、はい!はいですわ!喜んで!」


彼女はまるで天啓を受けたかのようにぶんぶんと首を縦に振る。


「(ああ!なんてこと!騎士様が、わたくしを必要としてくださっている!これが『運命』でなくて何でしょう!)」


アリアは、俺には聞こえないはずの(だが、表情で丸わかりの)心の声を叫ぶとぱっと笑顔になった。


「さあ、騎士様!こちらですわ!わたくしが責任を持ってお連れします!」

「お、おう。助かる」 俺が頷いた次の瞬間。


ギュッ。


アリアは、当然のように俺の右腕に自分の両腕を絡めてきた。


(え)


「さあ、参りましょう!」

「あ、いや、近い、近いから!」

「ふふふ……!禁書にあった『恋人腕組』ですわ!これで、わたくしと騎士様は、名実ともに『恋』の始まりですわ!」


(だから、その思考回路はどこから来るんだ!)


俺の腕にエルフの少女特有の、華奢だが確かに存在する柔らかい感触が密着する。

清浄な森の香りと、ほんのり甘い少女の匂いが俺の理性を刺激する。


(……まずい。これは非常にまずい)


そして案の定。

俺の背後と左側から、絶対零度の視線が三本突き刺さった。


「…………」


クロエがじとーっとした目(というか、殺意を隠さない目)で、俺の腕に絡みつくアリアの腕を睨んでいる。


「……あのニワトリエルフ、さっきボクが引き剥がしたのに、また……。ユートもユートだ!なんでデレデレしてる!」


(してない!不可抗力だ!)


「むうううううう!」


ララが頬をこれでもかと膨らませ虎耳をぺたんと伏せている。


「ずるい!ずるいんだにゃ!あいつばっかり、お兄ちゃんにくっついて!ララだってお兄ちゃんと腕組したいのに!」


(いやお前がやると腕がちぎれそうだから遠慮したい)


「ぴ、ぴょん……」


ミミはもはや涙目だ。


「あ、あ、あ……ユートさんが知らないエルフさんに取られちゃうですぴょん……。わ、わたくしたちが先だったのに……!」


(取られるとか取られないとか、そういう話じゃ……)


俺がこの「三方向からの無言の圧力」と「右腕の柔らかい地獄」にどう対処すべきか、【並列思考】で最適解を探しているとついに堪忍袋の緒が切れたクロエが動いた。


「おい、てめえ!」

「きゃっ!?」


クロエがアリアと俺の間に強引に割り込み、アリアの腕を俺から引き剥がしにかかった。


「いつまでくっついてんだ!騎士様、騎士様ってうるさいぞ!」

「な、何をなさるんですの!わたくしと騎士様の『愛』の邪魔をしないでください!」

「愛!?どっからそんなもんが湧いて出た!」


二人が俺の右腕を巡って、ぎゃあぎゃあと引っ張り合いを始める。


「やめてくださいまし!」

「そっちが離せ!」


「あー!二人だけずるい!」


それを見たララが、反対側の俺の左腕にガシッと抱きついてきた。


「お兄ちゃんの左はララのだにゃ!」

「うおっ!?ララ、お前、力が強……!」

「ふふん!これでお兄ちゃんはララのものだにゃ!」


「あ、あ、あ!」


ララが抱きついたのを見て、パニックになったミミが慌てて俺の背中に回り込み服の裾(というか、ほぼ腰)にしがみついてきた。


「ゆ、ユートさん!わたくしもはぐれないようにしますぴょん!」

「ミミまで!前が見えない!」


右腕はクロエとアリアの綱引き状態。

左腕はララが抱きつき固定。

背中にはミミがしがみつき。

俺は完全に身動きが取れなくなった。


(……ああ、まただ。またこの美少女まみれ状態だ。なんで俺のスローライフはこうも『密着』イベントが多いんだ)


「こら!みんな、いい加減に……!」


俺が怒鳴ろうとしたが、「離せ!」「いやです!」「ララのだ!」「ぴょん!」 四人の声にかき消される。


「……はぁ。もういい。そのまま行くぞ」

「「「「え?」」」」


俺は四人の美少女を文字通り「くっつけた」まま巨大なナメクジのようにゆっくりと森の奥へ進み始めた。


(もう知らん。これが一番早い)


こうして俺たちは、森を行く他の冒険者が見たら卒倒しそうなほどのカオスな集団(一人の男に四人の美少女が群がっている)となりながらエルフの里へと向かう羽目になった。


***


そんなドタバタ劇を繰り広げながら(主に俺が疲弊しながら)進むこと約一時間。

森の瘴気がふっと晴れ、開けた高台に出た。


「み、見えてきましたわ!騎士様!」


アリアが俺の腕に絡みついたまま、誇らしげに前方を指差す。


(お前、よくその体勢で案内できるな……)


目の前に広がっていたのはまさに幻想的な光景だった。

巨大な、それこそ千年単位で生きていそうな大樹が何本もそびえ立ち、その枝と枝の間に、

優雅な吊り橋や木と一体化した美しい家々(ツリーハウス)が連なっている。


「うわぁ……!」

「すごい!木の上にお家がいっぱいだにゃ!」

「きれいです、ぴょん……」


クロエたちも目の前の光景にさっきまでの争いを忘れて見入っている。


(ほう。思ったより、随分と発展してるみたいだな)


俺の千年前の記憶では、ここはまだ数えるほどの家しかない小さな隠れ里だったはずだ。

今やいくつものツリーハウスが連なり、水車が回り畑まで整備されている。

立派な「街」だ。


「さあ、騎士様!わたくしの家へ!」


アリアがひときわ大きく、そして立派な森で一番高い場所にあるツリーハウスを指差す。


「あそこが、わたくしの実家であり長老様の家ですわ!」


(……あそこか。相変わらず、一番高いところが好きなんだな、あいつは)


俺は懐かしさと、これから起こるであろう面倒事(長老との再会)に小さくため息をついた。


***


アリアの実家――長老の家は、外観の立派さに違わず内装も自然の素材を活かした、荘厳でそれでいて落ち着く空間だった。

俺たちはアリアに促されるまま、一番奥の広間に通される。


「長老様!ただいま戻りました!そしてお客様……いえ、わたくしの『運命の騎士様』をお連れしましたわ!」


アリアが満面の笑みで報告する。


(だからその紹介の仕方をやめろ)


広間の奥。

世界樹の枝をそのまま削り出したような玉座に一人の老エルフが静かに座っていた。

床に届くほどの真っ白な髭。

深い知性を湛えた瞳。

その身にまとう魔力は、そこらの魔物とは比較にならないほど清らかで強大だ。

アリアを追っていた、あの戦士団のリーダーとは明らかに「格」が違う。


長老はゆっくりと目を開けると、まずは娘のアリアを……いや、アリアが腕を組んでいる俺を見てピタリと動きを止めた。

その深い瞳が、驚きと困惑とそしてあり得ないものを見たかのようにカッと見開かれる。


「……ま、まさか……」


長老の威厳に満ちた声がわずかに震える。


「その……お姿……。その魂の波長は……」


(ああ、やっぱりエルロンだ。間違いない)


俺は千年前の記憶と目の前の老人の顔を照合し確信する。

あの頃の青臭くて泣き虫だった面影はさすがに皺の奥に隠れてしまっているが。


俺はアリアの腕を(強引に)振りほどくと、玉座に向かって一歩踏み出す。

クロエたちが息を呑んで見守っている。


俺は荘厳な雰囲気などお構いなしに片手をひらひらと振った。


「よお。久しぶりだな、エルロン」


「「「「えええええええっ!?」」」」


アリア、クロエ、ララ、ミミの四人分の驚愕の叫び声が長老の間に響き渡った。


「き、騎士様が!あ、あの、大陸で最も賢いと謳われる大長老エルロン様を……呼び捨て!?」


アリアが信じられないという顔で口をパクパクさせている。


俺は玉座の前で腕を組み、しみじみと長老の顔を眺めた。


「なんだ、ずいぶん老けたな」

「……あ……」

「千年前、俺が忠告した通りちゃんと野菜も食ってたか?まったく、あの頃のお前の『鼻垂れ』の面影もすっかり無くなっちまって」


「は、はな……」


長老の顔からサッと血の気が引いていく。

その威厳に満ちた体がガタガタと小刻みに震え始めた。


「……『友』、様……」


長老――エルロンは、玉座から転げ落ちるように降り立つと、千年前とまったく同じワンワン泣き出しそうな顔で俺の前にひれ伏した。


「お、お久しぶりで……ございますううううう!」


(……ああ。やっぱり、こうなるのか)


俺は千年前と同じように、泣き虫な親友との再会に盛大なため息をつくしかなかった。

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