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4度目の転生勇者は静かに暮らしたい ~もう魔王討伐は新入り(勇者)に任せたので、俺は美少女たちと諸国漫遊グルメ旅に出ます~  作者: のびろう。
第五章 森の姫と、運命の勘違い

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キノコは、剣より強し

俺の背中に隠れたエルフの少女――アリアが「恋がどうこう」と叫んだことで、場の空気は完全に凍りついた。

特に、俺の仲間三人がヤバい。


「(……恋、だと?)」


クロエの目が、じとーっと据わってる。

絶対に面倒くさいやつだと勘付いている顔だ。


「(こい?お魚かにゃ?おいしいかにゃ?)」


ララは分かってない。

平和だ。


「(よ、よこどりは許さないですぴょん!この方がユートさんの『運命』です!)」


ミミは……あれ、なんか燃えている。

いつの間にかアリアに感情移入している。


(ああ、もう!なんでこうなる!)


俺の胃がキリキリと痛む。

スローライフが遠のいていく。


エルフの戦士団リーダーが俺たちを(主に俺を)冷たく一瞥した。

その目には、人間と獣人に対するあからさまな侮蔑がこもっている。


「下等な人間と獣人風情が」


低い、地を這うような声だ。


「我らの内政に干渉するつもりか。アリア様を惑わす不埒者め」


(うわ、完全に俺が悪者だ。ですよね)


「森の法に則り貴様らをここで排除する」


その殺気に、俺より先に仲間たちが反応した。


「ユートに手ぇ出すな!」

「お兄ちゃんはララが守るにゃ!」


クロエが二本の短剣を抜き、ララが構えを取る。


二人が、ダンジョンでの実戦と俺のスパルタ指導を経た、その訓練の成果を見せんと即座に臨戦態勢をとった。


「(やれやれ、あいつら……)」


俺が止める間もなく、クロエとララがエルフの戦士たちに飛びかかった。

速い! クロエは影を縫うようにリーダーの死角へ 、ララは直線的に最短距離で懐へ。

アークライトの騎士団なら、この初手で半壊しているだろう。

だが。


「甘い」


エルフの戦士たちはまるで一つの生き物のように動いた。

ララの突進を二人が盾で受け流し、クロエの奇襲を一人が剣で完璧に捌き、残りの二人が即座に弓を番え、ララとクロエの次の行動位置を正確に射抜こうとする。


「「「なっ!?」」」


完璧な連携。

一切の無駄がない。

ララとクロエの動きは、アークライトの魔物や騎士団とは比べ物にならないほど洗練されている。

だが、相手は数百年の時を生きる森の戦闘集団だ。

年季が違う。


キィン!ガギン!


「くっ!こいつら、動きが読めない!」

「硬いんだにゃ!ララの拳が通らない!」


エルフ戦士たちの連携は凄まじく、二人は完全に防戦一方に追い込まれていた 。


「ミミ、二人を援護しますぴょん!【ヒール】!」


ミミが後方から回復魔法を飛ばすが、エルフの戦士たちは深追いせずじりじりと包囲網を狭めていく。


(……うん、強い。さすがエルフのエリートだ。クロエたちの実戦訓練にはちょうどいいかもしれないが)


俺は今日採った食材が入ったカゴ(もちろん【無限収納】から取り出した)を片手に、面倒くさそうにため息を一つついた。


「……やれやれ。俺のキノコが傷んだらどうしてくれるんだ」


トッ、と。

俺は戦いの渦中に、ゆっくりと歩いて介入する。

武器は抜かない。


「邪魔だ、人間!」


包囲の一角を担っていたエルフの一人が、俺の首筋を狙って鋭い剣閃を放つ。


(遅い)


俺は、ただ一歩横にずれる。

剣は空を切り、その勢いのまま仲間であるはずのエルフの盾に激突した。


「ぐっ!?」

「な、何を!?」

「おらぁ!」


背後から別の一人が俺の胴を薙ぎ払う。

俺はただ一歩後ろに下がる。

相手は踏み込みすぎて体勢を崩し盛大に転んだ。


「うわっ!?」


俺はエルフ戦士たちの攻撃の「軌道」にただ歩いて入り込み、最小限の動きで全てをいなしていく。

ぶつかり合い、転び、同士討ちを始めるエルフたち。

ララとクロエが「「ぽかーん」」と口を開けてその光景を見ている。


「な、なんだ、あいつ……」

「ユート、歩いてるだけだぜ……?」


(ああ、いけない。早くしないとキノコが蒸れる。今夜のソテーの鮮度が落ちる)


俺はさっさと終わらせることにした。


「貴様……何者だ!」


リーダー格のエルフが、俺の不可解な動きを最大級に警戒し距離を取る。

仲間たちが次々と自滅していくのを見て、彼も冷静ではいられないようだ。

そして魔力を剣に込めた。

緑色のオーラが刀身を包む。


(お、オーラブレイドか。懐かしいな。1000年前の流行りだ。一周回ってお洒落かもしれない)


「森の怒りを、その身で知れ!秘剣・シルヴァンストライク!」


リーダー格が放った必殺の剣閃が、緑の光をまとって俺の脳天に振り下ろされる。

クロエたちが「ユート!」と叫ぶ。

背中に隠れていたアリアが「騎士様!」と悲鳴を上げる。


俺はその剣閃に対し―― カゴから取り出した今日一番の大物、「アミガサダケ(異世界産)」をそっと差し出した。


キィン!……いや、フンッ。


甲高い金属音ではなく、締まったキノコの傘が剣の腹を完璧に受け止める妙に間抜けな音が響いた。


「なっ……!?」


リーダーの目が、信じられないものを見てカッと見開かれる。


(うん、良いキノコだ。弾力が違う。これはバターソテー一択だな)


俺はキノコで剣の軌道をスッと逸らしそのまま相手の重心(鳩尾)に向かってキノコの柄の部分で軽く押し込む。


「ふぐっ!?」


リーダーは必殺の剣閃を放った勢いと、俺に重心を崩されたことで綺麗に体勢を崩した。

彼は二、三歩よろめき尻餅をついた。


シン――。 森が静まり返った。


(ここだけ、アリア視点)


ああ……ああ! なんてこと!


わたくしの『運命の騎士様』が! あれほど凶暴だった追っ手たちを、一切傷つけることなく!

まるで、森の精霊と戯れるかのように、優雅にいなしてしまいましたわ!

しかも! リーダーの必殺の一撃を、武器ですらなく……あ、あれは、森の恵み(キノコ)?


(ああ、そうでしたわ!禁書にも書いてありました!)


『真の勇者は、自然を愛し、自然と一体となり、武器すら用いず敵を制す』と!


間違いない! この方こ、わたくしを導く愛の戦士! わたくしの、騎士様!


(ユート視点に戻る)


「「「…………」」」


クロエも、ララも、ミミも。

そして、尻餅をついたリーダーも他のエルフ戦士たちも。

全員が、俺の右手に握られた「アミガサダケ」と俺の顔を呆然と交互に見ている。


(……まずい。ちょっとやりすぎたか?いや、でも加減はしたはずだ。キノコも無事だし)


俺は、アミガサダケについた土を払い、何事もなかったかのようにカゴに戻した。

あくまで偶然。

偶然キノコに当たって、偶然相手がこけただけ。

俺はただのFランク冒険者だから。


「……さて」


俺は、尻餅をついたまま動けないリーダーに向かって、人畜無害な笑顔を向ける。


「少し、冷静になって話しませんか?」

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