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4度目の転生勇者は静かに暮らしたい ~もう魔王討伐は新入り(勇者)に任せたので、俺は美少女たちと諸国漫遊グルメ旅に出ます~  作者: のびろう。
第五章 森の姫と、運命の勘違い

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カレーは、乙女の心も溶かす ☆

アークライトの門をくぐり、街道を外れて森に入ってから数時間。

太陽が西の空を茜色に染め始めた頃、俺たちは開けた川のほとりを見つけ、そこを今夜の野営地と決めた。


「よーし、着いた!川だ、川だー!お兄ちゃん、ララ、魚獲ってくるにゃ!」


ララがさっそく服を脱ごうとするのを、ミミが慌てて止める。


「ら、ララちゃん!まだですぴょん!ちゃんと準備してから!」

「ちぇー」

「ララは力仕事担当。そこの太い枝、集めてきてくれ。ミミは頼めるか?」

「はいですぴょん!ララちゃん、行きましょう!」

「おー!」


虎と兎の獣人姉妹が、仲良く森の奥へ消えていく。


「……ユート」


俺が荷物を下ろしていると、いつの間にか周囲の索敵から戻ってきたクロエが、木の上から逆さまになって顔を覗かせてきた。


「うおっ!びっくりした。どうだった、クロエ」

「半径五百メートル以内に、魔物の気配なし。水場も近いし、見通しもいい。野営地としては七十点ってとこだな」

「辛口だな。まあ、安全なら何よりだ」

「当然。ボクの索敵スキルも、ユートの訓練のおかげで上がってるからな。……で、今日の晩ごはんは?」


逆さまのまま、クロエの尻尾(のように結んだ赤髪)がぱたぱたと揺れる。

腹が、減っているらしい。


(さて、と)


ララたちが集めた薪で火を起こし、拠点設営も完了。

いよいよ、俺の出番だ。


「今日は、旅の初日だからな。少し奮発しよう」


俺は【無限収納】から、次々と食材を取り出していく。

まずは、アークライトの市場で仕入れた新鮮な野菜。

玉ねぎ、人参、そしてこの世界では珍しいジャガイモ。


次に、今朝、森に入ってから俺の【万物鑑定】が捉えた、極上の「オオヒラタケ」と「ハナビラタケ」。 そして、メインディッシュ。

数日前に仕留めて、ストレージで完璧に熟成させておいた、ワイルドボアの分厚いロース肉。


「お、お兄ちゃん、お肉!おっきいお肉だにゃ!」


ララが目を輝かせて、肉の塊に飛びつこうとする。


「こら、待て。今からこれを最高のご馳走に変えてやる」


俺は手際よく野菜の皮を剥き、キノコを裂き、肉を一口大にカットしていく。

三度の転生でカンストした『料理』スキルは、もはや芸術の域だ。


「ユート、手際良すぎだろ。どこの料理人だよ」

「ミミもお手伝いします、ぴょん!」

「ありがとう。じゃあミミは、この野菜を洗ってくれるか?クロエはそっちの薪、もう少し細くしてくれ」


三人が手伝ってくれる中、俺は大きな鍋に油をひき、まずは大量の玉ねぎを炒め始めた。


ジュウウウゥ……。


香ばしい音と共に、玉ねぎの甘い香りが一気に立ち込める。


「(ああ、この匂いだ。これだけでご飯が食える)」


透明あめいろになるまでじっくりと火を通し、次に肉と残りの野菜、キノコを投入。

肉の表面に焼き色がついたところで、水を注ぎ、煮込み始める。


「うわぁ……いい匂いがしてきたにゃ」


ララの虎耳が、期待を込めてぴこぴこ動いている。


だが、本番はここからだ。

俺は【無限収納】の奥深くから、この瞬間のために用意しておいた、一袋の「粉」を取り出した。


これは、三度目の人生で、ありとあらゆるスパイスを研究し、記憶を頼りに再現した奇跡の調合スパイス。

俺が「カレー粉」と呼んでいる、故郷の味だ。


(異世界の食材でも、これさえあれば……!)


野菜が柔らかくなったのを見計らい、俺は火を弱め、別の小鍋で調合しておいた特製の「ルー」……小麦粉とスパイス、脂を合わせたものを、大鍋に溶かしていく。


すると、どうだろう。

それまで食欲をそそる「スープ」だった鍋の中身が、みるみるうちに、とろみを帯びた「茶色い液体」へと変貌していく。


グツグツと煮立つ鍋から、先ほどまでの甘い香りとは全く違う、何とも言えない、刺激的で、複雑で、強烈な匂いが辺りに漂い始めた。


「「「…………」」」


さっきまで「お腹すいた!」と騒いでいた三人が、ぴたりと動きを止めた。


「……お、お兄ちゃん?」


ララが、不安そうに俺の袖を引く。


「これ、どうしたにゃ?さっきまでのいい匂いはどこいったの?なんか、すごく……変な匂いがする」 「変な匂いって言うな。スパイシーな匂いと言え」


「ユート……」


クロエが、鍋の中身と俺の顔を交互に見ながら、警戒心を露わにする。


「ボク、ギルドで『失敗したポーションは茶色い泥みたいになる』って聞いたことあるぜ。これ、もしかして……」

「違う。断じて違う」


「ゆ、ユートさん……」


一番深刻な顔をしているのはミミだった。

彼女は、大きな兎の耳をしおしおに垂らし、目にうっすらと涙を浮かべている。


「ご、ごめんなさい、ぴょん……。わたくしが、水加減を間違えたせいで……こ、こんな、泥水みたいな……」

「ミミのせいじゃない!これはこういう料理だ!」


(くそっ、やっぱりこの反応か!)


まあ、無理もない。

この世界にある煮込み料理といえば、シチューかポトフ。

透明なスープか、乳白色のスープが基本だ。


こんな粘度の高い、不透明な茶色い煮込み料理など彼女たちの常識には存在しない。

見た目は確かに「泥」だ。


「匂いは……匂いだけは、なんだかすごくお腹が空く匂いがするのに……」


ララが、自分の本能と目の前の光景が一致せず、混乱している。


「はあ。しょうがないな」


俺は苦笑いしながら、小さな取り皿を用意する。

鍋からその「茶色い泥」を少量すくい、炊きたての白米の横にそっとかけた。


「ほら、クロエ。味見だ」

「えっ、ボク!?」

「お前、さっき『泥』とか言っただろ。責任持って、これが『泥』か『ご馳走』か確かめてみろ」 「う……。わ、わかったよ!毒見でもなんでもしてやるぜ!」


クロエは観念したように小さなスプーンを受け取ると、恐る恐る米と茶色い液体を一緒にすくった。

じっと中身を観察し、匂いを嗅ぎ、そして意を決したようにパクッと口に運んだ。


「…………」


クロエが、固まった。


「……クロエ?」

「クロエ姉?大丈夫か、にゃ?」

「あ、あわわ、ミミ、回復魔法の準備を……!」


俺が「大丈夫だ」と言うより早く、クロエの体がぶるぶると小刻みに震え始めた。

そして、次の瞬間。


「な、な、な、な……!」


クロエは、皿とスプーンを持ったまま、カッと目を見開いた。


「なんなんだ、これええええええええええええ!」


絶叫。


「ら、ララ!ミミ!こ、これ、やばい!」

「「ぴゃっ!?」」


獣人姉妹が、クロエの剣幕に飛び上がる。


「口に入れた瞬間、なんか、こう、ピリッて、ビリビリッて、舌が!舌が踊るんだ!」

「(うん、スパイスだな)」

「そしたら、後から!肉と!野菜の!甘いのが!うわーって、洪水みたいにやってきて!」

「(うんうん、うま味だな)」

「そんで、それが全部、この茶色い『泥』に包まってて!米と!米と合わさると、止まんない!うまい!うますぎる!」


クロエは、皿に残った最後の一口をかき込むと、空になった皿を俺の目の前に突き出した。

顔は真っ赤、瞳は潤み、興奮で肩が上下している。


「ユート!おかわり!今すぐ!大盛りで!」


その姿を見て、ララとミミが、ごくりと喉を鳴らした。


「「わ、わたくしたちも、食べる(にゃ)!」」


***


挿絵(By みてみん)


その後の食卓は、凄惨……いや、壮絶の一言だった。

川のほとりに、スプーンと皿がぶつかる音だけが響き渡る。


「あふっ、ほふっ!おいしい!おいしいにゃ!お兄ちゃん!このピリピリ、癖になるにゃ!」


ララは、米も顔も茶色いソースまみれにしながら、夢中で鍋に食らいついている。


「ララちゃん、お口の周りが……あ、でも、わかりますぴょん!この辛いのに、甘い……不思議な美味しさ……!」


ミミも最初は恐る恐るだったが、今や兎の耳をぴこぴこさせながらスプーンを運ぶ手が止まらない。


「こら!ララ!それはボクの肉だ!」

「早い者勝ちなんだにゃ!」

「あ!ユート、鍋の底にまだ残ってる!それもらう!」

「クロエさんずるいですぴょん!わたくしが見つけました!」


あんなに「泥だ」と警戒していた大鍋は、ほんの十分足らずで空っぽになった。


「「「おかわり」」」

「……悪い、売り切れだ」

「「「ええええええええ!」」」


三人の美少女が、恨めしそうに空の鍋を見つめている。


(まったく、作りすぎたかと思ったのに全然足りなかったな)


「明日も、これ?」


クロエが期待に満ちた目で俺を見る。


「明日もこの『カレー』がいい!」

「明日は『カレーうどん』だにゃ!」

「わたくしは『カレーパン』というものを……」

「どこで覚えてきたその知識」


焚き火の火が、ぱちぱちと静かに爆ぜる。

騒がしかった食事を終え、今は食後の穏やかな時間が流れていた。


俺は満足そうにお腹をさする三人の顔を見ながら、静かにでも確かな手応えを感じていた。


(世界の命運も、魔王討伐ももうどうでもいい)


四度目の人生。

面倒事は全部他の奴らに任せて、こうして腹を空かせた可愛い仲間たちに美味い飯を食わせてやる。

それだけで十分すぎるくらいだ。


「……ユート、ごちそうさま。明日の『かれー』も、楽しみにしてる」


クロエが少し眠そうに、でも幸せそうに笑う。


「ああ、任せとけ」


俺の静かなスローライフは、こうしてとても騒がしくてとても美味しい匂いに包まれながら本格的に幕を開けたのだった。

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