鬼教官の卒業試験、VS四天王
(このままでは死ぬな、あいつら)
(……はぁ。で、どうする?俺)
(うーん、レベルも経験も足りてないな。でも、素質は悪くない)
俺の鑑定眼がボロボロの二人を分析する。
(勇者はスキル(経験値ブースト)のせいで体が仕上がってないが、魂の『器』そのものは悪くない。聖女も魔力の『質』は一級品だ。真面目すぎて、応用が効かないだけで)
(要するに、素材はいいが育成がクソ下手くそだ)
俺はガルーダが健太にとどめを刺すべく、再び翼を振りかぶったのを見て盛大にため息をついた。
(……やれやれ。しょうがないな)
ここで勇者パーティーが全滅すれば、この世界の『物語』がバッドエンドで強制終了する。
それは俺のスローライフにとっても最悪の展開だ。
(……仕方ない。少しだけ『時間稼ぎ』の手助けをしてやるか)
ガルーダが健太の頭上に狙いを定めた、その瞬間。
俺は物陰から足元に「偶然」転がっていた手頃な大きさの『瓦礫』を蹴り飛ばした。
もちろんただの『蹴り』ではない。
3周目の剣聖の時に極めた『神速』の技術と、最小限の魔力を込めた完璧な『狙撃』だ。
ヒュン!
瓦礫は音もなくガルーダの(とどめを刺そうとした)翼の軌道の、ほんの僅か寸前の空間を通過した。 「(!)」
ガルーダの本能がその『瓦礫』に込められた異常な『殺気』を察知した。
彼は健太への攻撃を咄嗟に中断し、その瓦礫を翼で弾き返す!
カアアアン!
「なっ!?」
健太は、目の前で火花が散ったことに驚く。
ガルーダは忌々しげに、瓦礫が飛んできた方向――俺が隠れている物陰――を鋭く睨みつけた。
「……チッ。まだ鼠が残っていたか」
(……やれやれ。バレたなら仕方ない)
俺はこれ以上隠れるのをやめた。
堂々と物陰から姿を現す。
カツン、と俺のブーツの音が広間に響いた。
「!」
「な、誰だ!?」
絶望の縁にいた健太とセレスティーナが、俺の乱入に目を見開く。
(あ、あれは…?ダンジョンで出会ったあの謎の男…!?)
セレスティーナが俺の顔を憶えていたらしいが、知ったことではない。
俺はボロボロの二人(勇者と聖女)の前に躍り出た。
いや面倒くさいから普通に歩いて間に立った。
「――ここで、休んでていいよ」
「「え?」」
俺は二人に振り返りもせず、ガルーダを見据えたまま言い放つ。
「戦い方をよく見ておきな。それがお前らの『追試』だ」
「なっ…!何を偉そうに…!」
健太がプライドを傷つけられたように反論しようとするが。
「うるさい。死にぞこないは黙ってろ」
俺はその『勇者』を一喝する。
「うぐっ…!」
俺の『圧』に健太が言葉を詰まらせた。
俺は負傷した彼らを手で示し、安全な場所(俺の背後、ミミたちのシールドがギリギリ届く入口付近)へと誘導する。
「(クロエ、ララ、ミミ。こいつらも、コネットさんたちと一緒に守っとけ)」
俺は仲間たちにだけ聞こえるように、小声で指示を飛ばす。
「ほう…?」 ガルーダが面白そうに新たな乱入者(俺)を観察している。 「勇者でもないただの人間がこの我の前に立つか。死に急ぐか」
「(……さて)」 俺はガルーダの言葉を完全に無視し仲間たち(クロエ、ララ、ミミ)に向き直った。 三人は俺の背後でコネットさんたちを守りながら緊張した面持ちで控えていた。
俺はニヤリと笑う。 「――クロエ、ミミ、ララ」
「「「(((ゴクリ)))」」」
「いよいよ『本番』だ。お前たちの『卒業試験』最後の三体だ」
俺は親指でガルーダを指し示す。
「連携してあの『鳥もどき』を倒しちゃおう!」
「「「(((ええええええええ!?)))」」」
(あ、あれをボク(らら・わたくし)たちが!?)
(さっきの勇者さんたち、一瞬でやられてたのに!?)
三人の心の声が、完璧にシンクロした。
(ふん。無理もないか)
俺は彼女たちの不安を読み取る。
(攻略の鍵はあの『不可視の風の防護幕』をいかに突破するかと、あの得意技っぽい『暴風を伴った攻撃』だな)
(だが…)
俺は三人の戦闘準備が整ったのを確認する。
(クロエの【影移動】なら、あの防護幕の『内側』に潜り込める)
(ララの『闘気』なら、風の衝撃波も打ち消せる)
(ミミの『シールド』と『回復』があれを上回れば…)
(……よし。今の三人なら、いけるんじゃないかな?)
俺は3周分の経験からそう結論づけた。
「……フッ。フハハハハ!」
俺たちの作戦会議を黙って見ていたガルーダが、ついに腹を抱えて笑い出した。
「……あ?」
「馬鹿か貴様らは!あの勇者ですら、赤子同然だったこの我に…!」
ガルーダは俺の背後から戦闘態勢に入ったクロエ、ララ、ミミを(まるで虫けらを見るような目で)見下した。
「こんな小娘三匹で、勝てるとでも思ったか!?」
(あ、キレた)
(『小娘』『三匹』は禁句だろそれ)
俺が思った通り。
「……ピキッ」
(クロエのこめかみに青筋が浮かんだ)
「……ピキピキッ」
(ララの虎耳が怒りで逆立ってる)
「……プルプルプル…!」
(ミミが怒りと恐怖で震えている)
(……よし。モチベーションは最高だな)
俺はガルーダの『煽り』スキルに内心で感謝した。
「ガルーダとやら」
俺は一歩も動かず腕を組んだまま告げる。
「お前は、二つ間違いを犯した」
「ほう?」
「一つ。俺の大事な『スローライフ』の旅立ちの朝を台無しにしたこと」
「?」
「二つ。……俺の最高の『弟子』たちを舐めたことだ」
「「「(((ユート(おにい)ちゃん)(師匠)…!)))」」」
三人の士気がMAXを振り切った。
ガルーダの顔が嘲笑から怒りに変わる。
「……戯れ言は、そこまでにしろ。虫けら共」
戦闘が始まった。
ガルーダが姿を消す。
――あの勇者(健太)を屠った『神速』の一撃だ!
「き、消えた!?」
(ララ!ミミ!クロエ!)
(ユートの声は!?指示は!?)
三人が一瞬パニックに陥る。
だが俺の声は、ガルーダよりも早かった。
(誰にも見えない補助魔法(【思考伝達:Lv.MAX】)が三人の脳内に直接響き渡る!)
「(クロエ、真上!【影移動】で天井に跳べ!)」
「(ララ、右、三歩!【獣化】!防御!)」
「(ミミ、詠唱開始!ララに【シールド】!今すぐ!)」
「「「(((!?)))」」」
三人は俺の声に、訓練通り身体が反応する!
ガルーダがララの右側に出現し、爪を振り下ろすその0.1秒前!
「【シールド】!(にゃあああ!)」
ララの闘気をまとった腕とミミの完璧なタイミングの障壁が、ガルーダの神速の一撃を受け止めた!
ドガアアアアアアアアン!
「ぐっ…!にゃあああ!」
ララが数メートル吹き飛ばされる、が致命傷は避けた!
「――なっ!?」
戦闘が始まった瞬間、ガルーダの顔が初めて驚愕に変わった。
(……なぜだ?)
(なぜこの小娘どもは、我が神速に反応した!?)
(なぜあの男は、一歩も動いていない!?)
(……ふっ。遅いんだよ鳥もどき)
俺は物陰の勇者たちとコネットさんを守りながら、最強の『プロデューサー』として完璧な指揮を続けるのだった。




