四天王と、新米勇者
俺はボス部屋の入り口、完璧な物陰に身を隠したまま眼下の『舞台』を眺めていた。
「はぁ…はぁ…!セレスティーナ、大丈夫か!」
「はい!健太さんこそ!」
勇者・佐藤健太と聖女・セレスティーナ。
(あれが今代の『勇者パーティー』か。うん、ラノベのテンプレ通りだ)
健太は聖剣を肩に担ぎ息を整えている。
セレスティーナは即座に詠唱に入り彼と周囲の騎士団に淡い緑の回復光を拡散型で降らせている。
(聖女のくせに、回復魔法の対象指定が甘いな。魔力の無駄遣いだ。健太はあの雑魚相手に何でそんなに息が上がってるんだ。体力配分がゼロか)
(あの聖女、日本の記憶があるせいか真面目だがクソ真面目すぎる。融通が利かん)
(勇者は典型的な『主人公補正』頼みだ。スキルの『経験値ブースト』でレベルだけが先行して技術がまったく追いついていない。素人の剣だ)
俺の脳内ダメ出しが止まらないその瞬間。
雑魚の死骸から顕現した四天王――“疾風のガルーダ”が、ゆっくりとその鳥のような鋭い鉤爪の足を一歩踏み出した。
カツンと乾いた音が広間に響く。
「ほう。新米にしては、まあ及第点か。我が手下の第一陣を破るとはな」
ガルーダは不敵に笑いながら、両腕の翼をゆっくりと広げた。
その完全な『格上』の態度が勇者・佐藤健太の逆鱗に触れたらしい。
(あ、ダメだ。キレた。一番やっちゃいけないパターンだ)
「な、何を偉そうに…!」
健太が聖剣を構え直す。
「俺が勇者だ!お前みたいな魔族の幹部を倒して、この街を救うんだ!」
(うわぁ…言っちゃったよ。『俺が勇者だ』って言っちゃったよ) 俺は物陰で頭を抱えたくなった。
「(セレスティーナ!止めろ!そこで止めないと!)」
だが聖女・セレスティーナは「健太さん、素敵…!」とでも言いたげな潤んだ瞳で、彼の背中を見つめている。
(ダメだこいつら。パーティーとして機能してない)
「いくぞ魔族!俺の全力だ!【聖剣・光の一閃】!」 健太が我慢できずに駆け出した。
聖剣がまばゆい光を放つ。
Dランクダンジョンのボスくらいな、ら一撃で倒せそうな立派なスキルだ。
だが。
「――愚かな」
ガルーダは一歩も動かない。
ただ健太が振り下ろした聖剣の軌道上に、自分の右の翼をまるで『面倒くさい』とでも言いたげに差し入れただけだった。
キイイイイイイイイイイイイイン!!!!
甲高い金属音。
健太の聖剣が、ガルーダの翼に触れた瞬間。
不可視の風の防護幕に阻まれ、聖剣が激しく弾き返された。
「なっ!?ば、馬鹿な!」
健太が自分の攻撃の反動で、たたらをふむ。
(あーあ。風の障壁だ。あんなに魔力が見え見えだったのに。真正面から突っ込む馬鹿がいるか。普通横に回り込むだろ)
俺の冷静な分析は続く。
ガルーダはその最大の隙を見逃さない。
「死ね、新米が」
ガルーダの姿が消えた。
いや消えたのではない。
『疾風』の名に違わず、健太の懐に踏み込んでいた。
「嵐の一撃だ」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
ガルーダが翼を振るったのか、蹴ったのか。
俺のカンストした動体視力でも、ギリギリの神速の一撃。
凄まじい風の衝撃波が、健太の胴体に直撃した。
「ぐっ…はあああああああああ!?」
健太の体が、まるで紙クズのように吹き飛ばされる。
その余波だけで、健太の後ろにいた騎士団たちも、ドミノ倒しに巻き込まれ壁に叩きつけられた。
「健太さん!騎士団の皆さん!」
聖女・セレスティーナだけが即座に防御の呪文を張り、かろうじてその場で耐えていた。
「(あ、防ぐのだけは一人前か。さすが聖女だな)」
俺が感心していると、彼女は顔面蒼白で回復魔法を詠唱し始める。
「【ヒール】!【ヒール】!」
だが健太も騎士たちも、深手を負いすぎている。
回復がまったく追いついていない。
勝てる道筋がまったく見えてこない様子だった。
「……くそ……!」
健太が血を吐きながら、聖剣を支えに立ち上がる。
彼の目からさっきまでの『自信』が消えていた。
代わりに宿ったのは『絶望』と『焦燥』。
「(あ、やっと理解したか。自分と相手の『格』の違いを)」
ガルーダが嘲笑いながら、ゆっくりと次の一撃のため近づいてくる。
「……セレスティーナ…!」
健太が叫んだ。
「俺が時間を稼ぐ!その間に、お前だけでも逃げろ!」
(うわぁ…出たよ。『ヒロインだけでも逃がす』ムーブ。一番効率が悪い手だ)
「い、嫌です!健太さんを置いて逃げられません!」
(そしてそれに乗っかるヒロイン…)
(あー、もう。1周目の俺を見てるみたいでイライラする!)
「いいから、行けえええええ!」
健太は聖女を守ろうと決意したらしい。
折れかけた聖剣を構え直し、ガルーダの前に立ちはだかる。
ガルーダの攻撃をその一身に受け続ける。
ガキン!ドゴッ!バキッ!
(あ、骨折れたな)
(ああ、聖剣にヒビが)
ガルーダはまるで虫をいたぶるように、確実に健太の息の根を止めにかかっている。
健太の目から、光が消えかけていく。
(……ダメだこりゃ)
俺は物陰で静かに結論を下した。
(このままでは死ぬな、あいつら)
(……はぁ。で、どうする?俺)




