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4度目の転生勇者は静かに暮らしたい ~もう魔王討伐は新入り(勇者)に任せたので、俺は美少女たちと諸国漫遊グルメ旅に出ます~  作者: のびろう。
第四章 束の間の平穏と、忍び寄る混沌

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旅立ち前夜の『お荷物』チェック

「さて、と」


Dランクへの昇格と、稼いだ資金を元手に、俺たち『スローライフ希望ウィッシュ』の旅立ちに向けた最終準備が始まって数日が経った。

場所は、アークライトの宿屋『旅人の羽』の、すっかり俺たちの「巣」と化した一番広い大部屋(結局俺が借り直した)。


「いいか、お前たち。俺は、お前たちの『師匠』であって『父親』でも『保護者』でもない(つもりだ)」


俺は、床に広げられた荷物の山を前に仁王立ちで三人の弟子(?)に言い渡す。


「今回の『諸国漫遊しょこくまんゆう』は、お前たちの『育成計画』の総仕上げでもある。自分の荷物は自分で管理しろ。旅に必要な物は、自分で考えて自分で揃えろ」


「「「はーい!(にゃ!)(ウサ!)」」」


(……返事だけは、いっちょまえだな)


俺の(一応は)教育的指導を受け、三人はこの数日間、真剣に(?)市場を駆けずり回っていた。


「ユート! 見てくれ!」


クロエが、得意げに自分のバックパック(もちろん最高級の軽量素材)の中身を見せてくる。


「新しい『投げナイフ』と、ミスリル短剣用の『手入れ油』だぜ! あと、解毒薬ポイズンリムーバーと、長距離用の『斥候地図』も買った!」


「……うん。まあ、及第点だな、クロエ」


(((よし、師匠に褒められた!)))


クロエの耳が(生えてないのに)嬉しそうに動くのが見えた。


「お兄ちゃん! ララもだにゃ!」


ララが、背負うのがやっとなほど、パンパンに膨れたバックパックを

ドン!と床に置く。


「ララは、お肉! これ全部、お肉だにゃ!」

「……全部、干し肉かよ」


中身の九割が、市場で買い占めた『ワイルド・ボアの干し肉』だった。


「だって! 旅の途中で、お兄ちゃんのご飯が食べられなかったらララ、餓え死んじゃう!」

「(……俺のメシ、前提かよ)はぁ。まあ、モンク(格闘家)は燃費が悪い。高カロリー食は必須だ。……だが、それだけじゃ偏るぞ」

「大丈夫! ミミお姉ちゃんが『栄養バランス』の薬草も買ったから!」


「は、はい!」


ミミがおずおずと、自分の(一番小さい)バックパックを開けて見せる。


「わたくしは、ポーションの『空き瓶』と、『魔力触媒しょくばい用のハーブ』、それと『聖水』ですウサ。あと……」


「あと?」

「……ララちゃんの、好きな、『甘い干し果実』もこっそり…」

「にゃー! お姉ちゃん、大好き!」


ララがミミに抱きつき、ミミが「あはは」と幸せそうに笑う。


(……うん。お前らはもう、何も言うことないな)


俺が姉妹の(尊い)姿に目を細めていると、クロエが俺の荷物を見て、首をかしげた。

俺の荷物。

それは、ララのバックパックの倍はあろうかという、巨大な山のような「何か」だった。


「……なあ、ユート」

「ん?」


「なんでアンタの荷物、『調理器具』ばっかりなんだ?」


クロエが俺の荷物の山から、無骨な『鉄鍋』をコンコンと叩く。

その横には、『鉄鍋(中)』『鉄鍋(小)』『ダッチオーブン(新品)』『燻製器(組み立て式)』『ミスリル包丁セット(なぜか三セット目)』『謎の香辛料の瓶(五十本以上)』……。


「……バカか、クロエ」


俺は、心底呆れた、という顔で彼女に説教を垂れる。


「旅の基本は『食』だぞ。現地で、どんな食材(魔物)に出会うか分からない。猪と出会ったら? 煮込む(角煮)用の鍋がいるだろ。鳥と出会ったら? 燻製にする器もいる。もし、万が一、『小麦粉』の原種を発見したら? ピザ窯が無いと、話にならんだろうが!」


「「「(((全部、メシの心配じゃねえか!!!)))」」」


三人の心のツッコミが、完璧にハモった。


「だ、だけどよ!」


クロエが、俺の(ある意味、狂気じみた)情熱に一歩引きながらも正論で反論する。


「アンタ、『無限収納インベントリ』、持ってんだろ!? こんなの全部、そっちに入れときゃいいじゃんか! なんで、わざわざ『荷物』として外に出してんだよ!」


「「「(((それな!!!)))」」」


ララとミミも、コクコクと激しく頷いている。


「(……ぐっ!)」


痛いところを突かれた。

そう。


俺の【無限収納インベントリ】(時間停止機能付き)にはもちろん、3周分の冒険で集めた、神々の調理器具一式(『ドワーフの帝王が鍛えたミスリル包V包丁』とか、『世界樹をくり抜いた祝福の鍋』とか)が、完璧に揃っている。


(だが! それを、ここで、ホイホイと出して、どうする!)

(『なんで、Fランク(Dランクに上がったけど)のお前が、そんな国宝級のアイテム持ってるんだ』って、なるだろ!)

(俺のスローライフ(人目を忍ぶ生活)が崩壊する!)


俺は、咳払せきばらいを一つ。

そして、師匠(仮)として、できるだけ「それっぽい」顔で三人に言い聞かせた。


「……いいか、お前たち。俺の【無限収納】は、確かに便利だ。だがな、アレも万能じゃない」


「「「(((?)))」」」


「……その、なんだ。『容量』とか、『重量制限』とか、色々あるんだよ(大嘘)」


「え!? マジで!?」


クロエが、素で、驚いている。


「師匠のインベントリ、ほぼ無限だと思ってたぜ!?」


「(ふっ。かかったな)」


俺は心の中でガッツポーズを取る。


「無限なわけないだろ。3周分のアイテムも、全部詰まってるんだぞ(こっちは本当)。もう、パンパンなんだよ。限界なんだ」


「にゃー! だからお兄ちゃん、こんなに鍋を買ってるのか!」

「(そういうことにしておいてくれ!)」


「というわけで!」


俺は、完璧な『言い訳)』を構築し、三人に(俺が買った)一番デカいバックパックをドン!と渡す。


「これらの『最低限の』調理器具(カモフラージュ用)は、俺たち『スローライフ希望』の共有財産だ。お前たちも、しっかり分担して背負ってもらうぞ」


「「「えええええええええええ!?」」」

「重い! 絶対重いぜ、これ!」

「ララ、お肉持てなくなる!」

「わ、わたくし、杖で手がふさがってますウサ…!」


「問答無用! これも訓練だ!」 俺の鶴の一声で、俺たちのパーティーの荷物(主に俺の『趣味カモフラージュ』)は、無事三人の美少女の(可憐な)背中に分配されることが決定した。


(ふぅ。これでよし。万が一、インベントリから『神の鍋』を出しても『ああ、ユートさん、荷物がいっぱいで、予備の鍋を出したんだな』って思ってくれるだろ)


俺の、完璧な(しょうもない)偽装工作は、今ここに完了した。


そしてその夜。 アークライトで過ごす最後の夜。


俺たちの部屋は、明日の旅立ちに備え、完璧にパッキングされた荷物(主に鍋と肉と干し肉)の山で、足の踏み場もなくなっていた。


「「「(((そわそわ、そわそわ)))」」」


ベッドの上(ララとミミの定位置)と、椅子の上(クロエの定位置)で、三人の少女が、奇妙なほど落ち着きなく目を輝かせていた。


「(……なんだ、こいつら。まるで、遠足前の、子供だな)」


俺が、最後の晩餐(今夜は、質素しっそに『アークライト産・野菜と豆のスープ(俺のインベントリのベーコン入り)』だ)の皿を片付けながら、苦笑いしていると、ついにクロエが、我慢しきれない!というように口火を切った。


「なあなあ、ユート! 結局、明日は、どっちに行くんだ? 南か? 西か?」


クロエは、テーブルに(俺が買ってやった)『大陸全図(簡略版)』を広げ、興奮を隠しきれないという顔だ。


「やっぱ最初は、景気付けに近くの『ゴブリンの洞窟』でも潰していくか!?」


「(お前、完全に、戦闘狂バトルジャンキーに育ったな…)」


俺が、育成の方向性を(少しだけ)間違えたかと反省していると、今度はララが、目をキラキラさせて、俺の(空いている)腕に飛びついてきた。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 次の街には、『美味しいもの』あるかにゃ!? ララ、まだ食べたことない、『ドラゴン』とか食べたいにゃ!」

「(……ララ。ドラゴンは、普通に食えないぞ。硬くて、硫黄臭いだけだ。3周目(剣聖)の時に、食ったから知ってる)」


「あ、あの…!」


最後にミミが、おずおずと手を挙げる。


「わたくし……次の街では、可愛いお洋服とか見てみたい、ですウサ…。あと、ララちゃんが、字を覚えられるように、本も欲しいです…」

「(ミミ…! お前だけが、このパーティーの『良心』だ…!)」


三者三様(クロエ=戦闘、ララ=食欲、ミミ=常識(?)。 彼女たちの、爆発しそうな『期待』と『興奮』が、この狭い部屋に充満していた。


俺は、そんな彼女たちのはしゃぐ姿をまあ悪くないな、と思いながら眺める。

俺はパーティーの『おさ』として、そして『師匠(仮)』として、この(騒がしい)遠足をビシッと締めなければならない。


俺は咳払いを一つ。


「はいはい、全員、静かに」


「「「(((あ)))」」」


「まず、クロエ。俺たちは、Dランクに上がったばかりだ。いきなりダンジョンなんかに、突っ込まない。基本は、街道沿いの安全な旅だ」

「えー! つまんねえの!」


「次、ララ。ドラゴンは当分出ない。出たら、俺たちが(物理的に)消し炭になる。諦めろ。ただし、街道沿いの村々には、それぞれ『名物料理』があるはずだ。それはまあ、楽しみにしとけ」

「にゃは! やった! お兄ちゃん大好き!」


「そして、ミミ」

「は、はいぃ!」


俺は地図の上、アークライトのはるか南。

今はもう地図から名前が消えかかっている、『森』だった場所を指差す。


「俺たちの最初の目的地は、ここだ。……『白亜の森』の、跡地の手がかりを探す。だからまずは、南へ向かう」


「「!」」


ララとミミの顔が一瞬で真剣なものに変わる。

クロエも、神妙な顔で頷いた。


「はいはい。シリアスなのはそこまで」


俺はわざと、パン!と手を叩く。


「明日は朝が早い。ララ、お前は(興奮して)寝不足になったら、荷物(肉)を持てなくなるぞ。ミミ、お前もだ。クロエも、寝坊したら置いていく」


「なっ! 誰が寝坊するか!」

「にゃー! 大変だ! お姉ちゃん、寝るにゃ!」

「は、はい! お、おやすみなさいですウサ!」


三人は嵐のように、自分たちの(いつの間にか持ち込まれた)寝床ベッドへと潜り込んでいった。 数分後。

部屋には、三人の、規則正しい、健やかな寝息だけが響き始めた。


「…………」


俺は一人窓辺に立ち、夜空に浮かぶ『二つの月』を見上げる。


(……遠足、か)


俺が望んだ「静かで平穏なスローライフ」とは、まったく似ても似つかない。

騒がしく、手のかかる(主に食費が)『家族』が三人も増えてしまった。


(……だが)


俺は、すやすやと眠る三人の無防備な寝顔(クロエの寝言が『肉…』だったが)を振り返る。


(……まあ、悪くない)


この、穏やかで満たされた時間に、俺自身も満足していることに気づいていた。


(さて、と。俺も、寝るか)

(明日は、長くなる)


俺は、自分の(床に敷いた)寝袋に潜り込みながら、4度目の人生で初めての「本物の冒険」に少しだけ胸を躍らせている自分に気づいた。

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