最強師匠の装備選びと、焼きもち狐の溜息
あの夜。
焚き火の前で三人の少女たちの覚悟(と、俺の面倒な未来)が確定した、その翌日。
「……で」
「「「……」」」
俺は、アークライトのメインストリートのど真ん中で、腕を組んでいた。
目の前には、俺の(いつの間にか)弟子兼護衛となった、三人の少女が緊張した面持ちで直立不動している。
快活なボクっ娘盗賊、クロエ。
天真爛漫な虎獣人格闘家(予定)、ララ。
気弱な兎獣人ヒーラー(予定)、ミミ。
「……うん。ダメだ。話にならん」
俺は、三人の服装を見て、深く深いため息をついた。
クロエは、例の『闇蛇の牙』に切り裂かれた、ボロボロの革鎧(俺が【裁縫】スキルで適当に繕った)。 ララとミミは、昨日クロエが(俺の金で)買ってきた、街娘のワンピース。
「ええ!? ダメって何がだよ、ユート!」
クロエが抗議の声を上げる。
「当たり前だろ。これから『誰にも負けないくらい強く』なる奴らが、そんな『村人A』みたいな格好でどうする。森に入った瞬間にゴブリンの餌食だぞ」
「う…! そ、それはそうだけど…」
「ララは、お洋服、可愛いから好きなのにゃ…」
「わ、わたくしたち、お金、ないですウサ…」
ララとミミが、不安そうにワンピースの裾を握りしめる。
俺は、そんな三人に、ニヤリと笑いかけてみせた。
(ふっふっふ。待ってました)
(3度の人生で、俺が戦闘より情熱を注いできたのは、何か?)
(そう、『料理』と『最強装備の収集・研究』だ!)
俺は【無限収納】から、例の(奴隷商人に投げつけたモノとは別の)ずっしりと重い金袋を取り出し、チャリン、と鳴らしてみせる。
「安心しろ。金なら『有り余ってる』。お前たちの師匠(仮)として、まずは『見た目』から入るのは基本中の基本だと、俺の知ってるラノベにも書いてあった」
「「「(((ラノベ?)))」」」
三人の(クロエは声に出てた)ツッコミを華麗にスルーし、俺は高らかに宣言した。
「育成計画、第一弾! 『最強装備(初期)を買い揃えよう』ツアー、開始だ!」
俺たちが最初に向かったのは、街一番の品揃えを誇る、老舗の武具店『ドワーフの髭』だった。
(クロエが昨日、行きたがってた店だな)
カランカラン、とドアベルが鳴る。
店内には、武骨な武器や防具が、所狭しと並べられていた。
いかにも頑固そうなドワーフの店主が、カウンターの奥で「ふん」と鼻を鳴らす。
「いらっしゃい。……なんだ、ヒヨッコのガキどもか。冷やかしなら帰んな」
「(うわ、テンプレな頑固オヤジだ)」
俺が苦笑いしていると、クロエがムッとして前に出た。
「おいオヤジ! 客に向かってその態度はねえだろ!」
「うるせえ。武器は、使い手を選ぶんだ。お前らみてえな、ナマクラな目をした連中に売るもんはねえよ」
(あー、面倒くさい。こういう手合いは、黙らせるのが一番早い)
俺は、カウンターに金袋を(わざとらしく)ドン、と置いた。
金貨が数枚こぼれ落ち、店主の目が、初めてこちらを向く。
「……まずは、そこの赤毛の武器だ」
俺は、店主の言葉を完全に無視し、壁にかかった無数の短剣を品定めし始める。
「おい、ガキ、勝手に触ん…」
「ふむ。こっちの『鋼鉄製』は重すぎる。こっちの『風切り』は、悪くないが耐久性がゴミだ。……ああ、店主」
俺は、ショーケースの奥、埃をかぶった一振りの短剣を指差した。
「そこの『ミスリル製の短剣』、見せてもらえます?」
「……!」
店主の、髭に覆われた顔が、ピクリと動いた。
「……ほう。小僧、目が利くじゃねえか。そいつは、しがない行商人が『ただの綺麗な鉄クズ』だと言って置いていったもんだが…」
「鉄クズ? 馬鹿言え」
俺は、店主に渡された短剣を、指で軽く弾く。
キィン、と澄んだ金属音が響いた。
「(完璧だ。3周目(剣聖)時代に見た、エルフの名工が打った『魔力通し』の試作品。間違いない)」
俺は、クロエにその短剣を手渡す。
「クロエ、持ってみろ」
「え? あ、おう」
クロエが受け取った瞬間、彼女の目が、カッと見開かれた。
「か……軽い!? なんだこれ、羽みたいだぜ!?」
「だろうな。そいつは、普通の鉄の三分の一の軽さしかない『ミスリル銀』製だ。だが、強度は鋼鉄の五倍。そして何より…」
俺は、クロエの耳元で(わざと)囁く。
「魔力を通しやすい。お前、隠密系のスキルを持ってるだろ? そいつは、お前のスキルと抜群に相性がいい。いずれ、お前が『忍術』みたいなスキルを覚えた時、最強の相棒になる」
「し、忍術!? (ゴクリ)……」
クロエは、まるで運命の相手に出会ったかのように、そのミスリル短剣に頬ずりしている。
(よし、一人目、陥落)
店主は、俺が「ミスリル」だの「魔力通し」だの、専門用語を並べたことに、さっきまでの侮蔑の表情を消し、「こいつ、何者だ?」という驚愕の顔で俺を見ていた。
俺は、休む間を与えない。
次は、ララだ。
「ララ、お前は『格闘家』だ。武器は、己の拳と足。だから、これだ」
俺は、棚の奥から、くすんだ色の手甲と足甲のセットを引っ張り出してきた。
「うわ。なんか、地味だにゃ…」
ララが、不満そうに虎耳を垂らす。
「(ふっ。素人はこれだから)」
俺は、その手甲をララの手にはめさせる。
「いいか、ララ。そいつは『アダマンタイト(金剛石)』を革に練り込んである。見た目は地味だが、防御力はそんじょそこらの鉄鎧より上だ」
「へえー?」
「そして、何より、動きを阻害しない。お前の持ち味は、虎としての『スピード』と『パワー』だ。それを一切殺さずに、お前の拳を『必殺の凶器』に変える。…おまけに、これ、可愛い『肉球』の模様が隠し彫りされてるぞ」
「にゃ!? ほんとだ! 肉球だにゃ!」
ララは、さっきまでの不満顔はどこへやら、自分の拳に装着された「肉球ガントレット」を、キラキラした目で眺めている。
(はい、二人目、陥落)
「……おい、小僧」
店主が、ついに我慢しきれず、カウンターから出てきた。
「……お前さん、一体、何者だ? その『アダマンタイト練り込み革』は、ドワーフの王族御用達の工房で、100年前に廃れた技術のはずだ。なんで、それを知ってやがる…?」
「さあ? ラノベで読みました」
「(ラノベ…?)」
俺は、店主の混乱をよそに、最後の仕上げにかかる。
「ミミ」
「は、はいぃっ!」
ミミが、兎耳をビクッと震わせて、直立不動になる。
「お前は『ヒーラー』だ。後衛で、仲間を癒し、守るのが仕事。だが、お前自身が一番、か弱い」
俺は、店の一番隅、それこそ「杖」ではなく「ただの木の棒」として無造…作に立てかけられていた、一本の白樺の杖を手に取った。
「……これ、ですウサ? ただの、木の棒…」
ミミが、不安そうにそれを見つめる。
「(ふっ。3周目(大賢者)の俺の目をごまかせると思うなよ)」
俺は、その杖の先端(石突)を、店の床に「トン」と軽く突く。
コン、と乾いた音がした瞬間、杖に刻まれた、微弱な、しかし極めて高度な古代ルーン文字が、一瞬だけ淡く光った。
「ひゃっ!?」
「…これは『世界樹の若枝』だ。それも、『魔力増幅効果(大)』と『精神安定(小)』の祝福が付与されてる、超一級品だ」
「せ、世界樹!?」
店主が、ついに声を裏返らせた。
「馬鹿な! そんなモンが、こんなクズ同然の値段で…!?」
「店主、アンタの目は節穴か? 仕入れの時に鑑定しなかったのか?」
「う、うるせえ! 俺は鍛冶屋だ! 魔法の杖なんざ、専門外だ!」
俺は、ミミにその杖を優しく握らせる。
「ミミ。これを持てば、お前がこれから覚える『回復魔法』の効果は、最低でも3倍になる。そして、何より、お前の『臆病な心』を、この杖が守ってくれる」
「……わたくしを、守ってくれる…?」
ミミは、その白樺の杖を、まるで赤子を抱くかのように、胸にぎゅっと抱きしめた。
その兎耳が、嬉しそうに、ぴょこんと跳ねた。
(はい、三人目、完璧に陥落)
「……まいった」
会計時。
俺が(言い値の倍の)金貨をカウンターに積むと、あの頑固オヤジ(店主)は、深々と、俺に頭を下げていた。
「小僧…いや、旦那。あんた、何者か知らねえが、とんでもねえ『目利き』だ。うちの在庫の、本当の価値を見抜かれたのは、開店以来、初めてだ…」
「どういたしまして。いい買い物ができたよ」
「……待ちな」
店主は、店の奥に引っ込むと、何かを抱えて戻ってきた。
それは、三着の真新しい『防具』だった。
「クロエには、これだ。『闇夜の革鎧』お前さんの言う『忍術』とやらに合うかは知らねえが、隠密性と防御力は、うちで一番だ」
「ララには、これ。『虎斑の道着』伸縮性と耐久性に優れてる。お前の動きを邪魔しねえ」
「ミミには、これ。『聖職者のローブ(白)』だ。魔力抵抗が高い。その杖とも相性がいいだろう」
「「「うわあああ…!」」」
三人が、目を輝かせる。
「……店主、いくらだ?」 俺が金袋に手をやると、店主は「ふん」と鼻を鳴らした。
「いらねえよ。そいつは『お代』だ」
「お代?」
「あんたのおかげで、うちの『ガラクタ』が、本当の『主』を見つけられた。その礼だ。……持ってけ、ヒヨッコども! そいつらに見合う『使い手』に、ちゃっちゃと、なりやがれ!」
「「「……!」」」
「(……ツンデレなオヤジめ)」
俺たちは、店主の(不器用な)激励を受け、最高の装備一式をタダでゲットし、意気揚々と店を出た。
店の試着室(という名の裏部屋)で、全員が着替えて出てきた時。
俺は、思わず(4度目の人生で初めて)息を呑んだ。
「…………」
(いや、あの、これは……)
クロエ。
『闇夜の革鎧』は、彼女のスレンダーな(控えめな胸)体に完璧にフィットし、機能美と、ある種の「色気」すら醸し出していた。
太ももに装着された、ミスリル短剣の鞘が、プロの斥候(と、美少女)としてのオーラを放っている。
ララ。
『虎斑の道着』は、彼女の活発な魅力を最大限に引き出していた。
手甲と足甲を装着し、ファイティングポーズを取る姿は、まさに「小さな虎」。
その健康的なお腹(へそ出し)と、ぴんぴん動く尻尾が、眩しい。
ミミ。
『聖職者のローブ(白)』は、彼女の儚げな雰囲気と、銀髪を、まるで「聖女」のように引き立てていた。
……のだが、問題は、そのローブのデザインが、彼女の(隠しきれない)豊かな胸のラインを、逆に、完璧に、強調してしまっていることだった。
『世界樹の杖』を胸に抱きしめる姿は、守ってあげたい感と、いけない背徳感が、絶妙に同居していた。
「(……店主。絶対、分かってて選んだだろ、アレ)」
俺が、あまりの「破壊力」に呆然としていると、三人が、不安そうに、あるいは得意げに、俺の前に並んだ。
「ど、どうだ、ユート? 似合うか…?(ソワソワ)」
「にゃは! ララ、カッコイイか、にゃ?」
「あ、あの…ユートさん…。こ、これ、ちょっと胸のあたりが…きつい、ですウサ…(モジモジ)」
(……きつい、だろうな。うん)
俺は、頭痛をこらえながら、彼女たちの師匠(仮)として、完璧な答えを返す。
「……ああ。三人とも、最高に似合ってる」
「「「!」」」
「(クロエは、カッコ可愛いな)」
「!(ニヤア)」
「(ララは、元気そうで可愛い)」
「にゃは!」
「(ミミは……うん、すごく、可愛い(婉曲表現))」
「は、はいぃ!(顔真っ赤)」
(よし、完璧だ。これでモチベーションも上がっただろ)
「さて、と!」
ピカピカの(そして、超絶可愛い)装備に身を包んだ俺たち四人は、意気揚々と、再び冒険者ギルドの扉をくぐった。
「「「おお……!?」」」
「なんだ、あの子たち…!」
「めちゃくちゃ可愛い子、入ってこなかったか!?」
ギルド内の、オッサン冒険者たちの視線が、一斉に俺のパーティー(主に女子三人)に突き刺さる。 (うわ、目立つ…。スローライフが…)
俺は、そんな視線を完全無視し、いつものカウンターへと向かう。
そこには、今日も元気に尻尾を振る、コネットさんの姿があった。
「あ、ユートさん! いらっしゃい……ま……」
コネットさんは、俺の姿を認めて笑顔になりかけ……俺の後ろに続く、三人の美少女(クロエ、ララ、ミミ)の、あまりの可愛さと、そのハイスペックな(どう見ても新人用ではない)装備を見て、完璧に、固まった。
「……え?」
「こんにちは、コネットさん。今日は、この二人の『新人登録』と、『パーティー申請』に来ました」 俺が、事務的に告げる。
「し、新人……? ぱ、パーティー……?」
コネットさんの狐耳が、ありえない角度に、ピーン!と固まっている。
彼女は、俺と、クロエと、ララと、ミミを、順番に、何度も、何度も、見比べた。
「……あの、ユートさん? この、とんでもなく可愛い方々は、一体、どなたですか…?」
「ああ、俺の『護衛』です」
「(護衛!?)」
「(クロエは知ってるだろ? あとの二人は、ララとミミ。事情があって、俺が保護した。今日から、俺のパーティーメンバーだ)」 俺は、小声で(奴隷の件は伏せて)説明する。
「……は、はい。承知、いたしました…(震え声)」 コネットさんは、プロの受付嬢として、必死に表情を取り繕いながら、ララとミミの登録手続き(書類は俺が全部書いた)を進めていく。
「……はい、ララさん、ミミさん。これで、Fランク冒険者として登録完了です。……それで、パーティー申請、ですね。パーティー名は、お決まりですか?」
「「「あ」」」
俺たち四人は、顔を見合わせた。 ((((決めてなかった))))
「うーん……」
クロエが腕を組む。
「『ユートと三匹の弟子たち』とか?」
「却下だ。誰が師匠だ」
「『お肉大好きシスターズ!』だにゃ!」
「却下だ。俺が入ってない」
「『ふわふわ兎と虎さんチーム』…ですウサ?」
「可愛いけど、クロエが入ってない」
(あーもう! 面倒くさい!)
俺は、こういうのが一番苦手だ。
「もういい。コネットさん、パーティー名は……」
俺は、心の中で(ヤケクソで)叫んだ。
(俺の目的は、ただ一つ! 『スローライフ』だ!)
「『スローライフ希望』で、お願いします」
「「「…………」」」
「……え? ユートさん、今、なんと?」
コネットさんが、聞き返す。
「『スローライフ希望』。カタカナで」
「…………」
「(スローライフ……?)」
「(きぼう……?)」
クロエとララとミミが、その(ラノベのタイトルみたいな)単語を、頭の中で反芻している。
そして、次の瞬間。
「「「かっこいい!(にゃ!)(ウサ!)」」」
「((((なんでだよ!?))))
俺の心のツッコミが、ギルド中に響き渡った(気がした)。
クロエは「『希望』って響き、なんか強そうだぜ!」と目を輝かせている。
ララは「スロー?ってのは分かんないけど、カッコイイにゃ!」と拳を握っている。
ミミは「…素敵、ですウサ」と頬を赤らめている。
(……お前らの感性、どうなってんだ…)
俺の(半ばヤケクソの)ネーミングセンスは、何故か、三人の乙女心(?)に、クリティカルヒットしてしまったらしい。
「……か、承知いたしました」
コネットさんは、プルプルと震える手で、羊皮紙に『パーティー名:スローライフ希望』と書き込んだ。 その表情は、どこか、遠い目をしていた。
「(……ユートさん)」
コネットさんは、手続きが完了し、意気揚々と(主に女子三人が)依頼書ボードへ向かう俺たちの背中を、見つめていた。
「(いつの間に、あんな可愛い子たちを三人も……。しかも、クロエさんまで、ユートさんに懐いちゃって……。パーティー名も、なんか、意味深だし……)」
彼女の、ふわふわの狐尻尾が、力なく、パタリ、と垂れ下がる。
「(……私だって、ユートさんと『アップルパイ』、食べたかったのに……)」
ギルドの受付カウンターに、一人の乙女(狐)の、小さな溜息がこぼれ落ちた。
「さあ、お前たち!」
俺は、そんなコネットさんの乙女心には(スローライフを邪魔されるので)一切気づかず、依頼書ボードの前で、三人の(ピカピカの)新米冒険者に向き直る。
「パーティー結成、おめでとう。だが、お前たちは、まだ『ひよこ』だ」 俺は、ボードに貼られた、一枚の依頼書をひっぺがす。
『Eランク依頼:アークライト近郊の森・ゴブリンの巣の討伐(前回、調査済みの場所)』
「育成計画、第二弾!」
俺は、三人に、ニヤリと笑いかける。
「――実戦特訓、開始だ!」




