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【最悪仕様のチート魔法】空飛ぶ未来スマホと、【彼女】の帰還顛末記はステラ・マズルカニクル  作者: 庭廷梛和
第1部 第1章 出会いは、【2024】 マイナス26年目の年度末
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【#06】嘘つきはいつもこいつ(ししょー)!


 じゃなくてさ、任せた! って、そりゃあ、なくね?


 そんな文句を返す暇さえあればこそ。


 この場を打開する言葉(せつめい)を要求された俺は、反射的に思考をトップギアへ引き上げた。


 あの様子だと、知恵さんがここへ追いついてしまうまで十数秒もないはずだ。

 

 考えろ俺、考え――


「!!」

 



 目の前の先生(ししょー)のことは埓外に追いやり、言葉を探していた俺の思考が、弁慶の泣き所に突然生じた激痛に吹き飛ぶ。


 目から星が飛ぶ。まさに、そんな感じに。


 それに僅かばかり遅れて、思わず蹲ってしまった俺の体を先生が更に抑え込んだらしい。

 レベッカ嬢の体越しのくぐもった声が痛みで明滅する脳裏にガンガンと響く。


「危険だから近づかないで! レベッカ嬢に本家で施された魔法抑制AIの稼働不良だったみたいです。今、ボクのスマホから追加の処理をしてますから⋯⋯ふう、師匠、本家からは何て?」


『はなしをあわせて』


 目の前に差し出された真っ赤なスマホにはいつの間に入力していたのか、簡潔な一文。


 向こう脛を蹴飛ばされた痛みが、だんだんと和らぎ、ようやくその内容を視認できた俺は、ささやき声を返す。


了解(ラジャー)、先生。⋯⋯重いから早くどいて」


「本家からまたお客さんみたいで――って、そんな話はあとよ、あと。ペトロワさんは、もう危なくはないのよね?」


「とりあえずは、そのはずです。ポーリャさん、ボクがわかりますか?」


「わかります、宮代笙真さん」


「立てそうですか」「大丈夫です」


「じゃあ立って」「はい」


「なんだかさっきまでのポーリャちゃんと話し方違わない? ホントに大丈夫なの?」


「大丈夫ですよ。でも、少し調整は要りそうかも⋯⋯」


「調整?」


「話し方とか。さっき送ったコマンドのせいだと思うんですけど、見ます?」


「見ても分からないから()めとくわ。それより貴方たち二人とも、びしょ濡れじゃない。風邪引く前にさっさと着替えちゃいなさい」



  ◇



 着替えたらAIの調整をするので、上がってこないでくださいね。そうそう、部外秘なんでもちろん『読む』のも駄目ですよ。


 そんな弟子の言葉を素直に聞いたらしい知恵さん――どこぞの先生(お師匠さま)とは大違いである――が、スーパーへ出かけると言い出してから数分後。


 初めて目にするガソリン車が走り去っていくのをうんと背伸びして出窓越しに見送った俺は、びしょ濡れのブラウスから頭を引き抜くと、ベッドの上で胡座を組んだまま真っ赤なスマホを弄んでいる私服姿の我が師(宮代笙真)へと、声をかけた。


「で、なんです? 魔法抑制AIって」


「何って、ただのでまかせだけど?」


「どうせお得意の半分だけはってやつでしょう? うわ、やっぱりアザになってる」


 『半分だけは事実』の言説に何度かひどい目に遭わされた苦い思い出と、靴下をめくると案の定腫れ始めていた向こう脛。


 両者が相俟ったせいでなおさら険しくなる眉間は、先生の目にも止まったらしい。


 スマホを脇に放り出し、ベッドからずりずりと目の前に移動してきたかと思うと、俺の右足をとり、顔を顰めた。


「やたらしぎってるじゃんか。ごめんな、蹴ったりして。痛かったろ? なんか冷やせるもの出してくるから待ってろ」


「いいですよそんな」


「ダメダメ。お前はよくても、レベッカ嬢は女の子だろ」


 そこまで痛くはないですから。


 そう続けようとした俺を遮り、彼は足早に階段を降りていってしまった。

 その様子に、追いかけてまで止めるのも不粋だろうと思い直し、途中になっていた着替えを再開する。


 シュミーズへと手早く袖を通し、続いて知恵さんが出してくれてあった子供服を広げた俺は、思わず「ゲッ」と呻いてしまった。


 レースとリボンをこれでもかと言うほど、ふんだんにあしらった深緑色のワンピースドレスが現れたからである。


 高二の男としては、こんなものを着るのは正直御免被る(ぜってーに嫌な)のだが――


「下着や濡れ鼠よかマシだろ、昴さんよ。我慢我慢⋯⋯!」


 自らによく言い聞かせるように呟いて、俺はこれ以上ない程険しい顔のまま、豪奢なドレスを身に纏うのだった。



「ん、保冷剤。にしても似合ってるな、そのドレス。うんにゃ、ちっとも嬉しくなさそうだな?」


「ドレスが似合ってるって褒められて喜ぶ男子高校生って、そうは居いないと思いますけどね、先生。俺十七(じゅうしち)なんですけど」


 ややあって戻ってきた先生から渡されたのは、ジェルタイプの保冷剤だった。

 そのチョイスに、明らかな子供向けの気遣いを感じ取った俺は、ことさら十の位を強調しながら言ってやる。


「ふぅん。十七(じゅうなな)ってもっと大人かと思ってたけど⋯⋯」


「子供っぽく感じるのは見た目のせいですよ。ほら、目を閉じれば年相応に聞こえるはず」


「⋯⋯⋯⋯。いんや無理だわ。それよりさ、師匠が帰って来る前に『魔法抑制AIポーリャ』が嘘だってバレないように話を盛るから、付き合えよ。あとさ、昴()()が年上なんだから敬語も先生呼びもなしね」


 律儀に十秒間目を瞑ったあと、宮代笙真は言い、最後にこう付け加えてきた。


「未来から来たって知られたくないんでしょう? なら、ボクらの関係も秘密ってことで」

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