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【最悪仕様のチート魔法】空飛ぶ未来スマホと、【彼女】の帰還顛末記はステラ・マズルカニクル  作者: 庭廷梛和
第1部 第1章 出会いは、【2024】 マイナス26年目の年度末
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【#02】とにかく落ち着いて考えよう。(幼馴染のことは除く!)


 窓ガラスの中で、獣じみた琥珀金の両目を大きく見開いている幼女姿の「自分」に、妙にドキドキしているのを自覚しながら、俺は思った。

 

 ⋯⋯落ち着け。



 目を閉じて、最初から考えるんだ。


 えーと、俺の名前は、宮代(みやしろ)、昴。


 高校二年生で⋯⋯十七歳。


 別に秘密ってわけじゃない、代々続く魔法使いの家の生まれ。


 もちろん俺自身も魔法使い。


 今日は確か、自宅からほど近い都内のホテルでレセプションがあったんだった。


 だから朝から会場入りしていて、警備に駆り出された。

 間違えねえ。


 しかも、しかもだ。


 ここにいる理由はともかくとして、自己認識には何一つ問題がなさそう。

 

 確信した上で、俺は再び目を開けた。


「男子高校生が、見た目外国人な小学生くらいの女の子って、ありえなさすぎだっての。夢でも見てるのか、俺?」


 みっとも無くへたり込んだ姿勢のまま、独り()ち、頬をぎゅうっと抓ってみる。


 しっかり痛い。


 やっぱり夢ではなさそう。


 ああそうだ、思いだした。


 あの時咄嗟に撃った魔法のせいだ。信じたくないけど、それしか考えられない。


 ⋯⋯魔法使いが自分の魔法を疑うとか、ナンセンスにもほどがあるけど、仕方ないだろ。


 心のなかで、誰にでもなくそう(こぼ)すと、俺は、目にかかる、淡いブルネットの癖毛を子ども特有の丸っこい指で摘みあげた。


 往生際悪く信じたくない一念で、うう、と唸る。


 あんな甘い練りで補助端(ほじょたん)抜きで発動するとか、逆にやっかいな魔法じゃねーかよ。


 きちんと修練して先生と母さんの許しを得るまで、使うなって言ったのが、こういう意味なんだったら先に教えといてくれよ⋯⋯。


 レセプション会場にいるはずの二人の顔を思い浮かべ、胸の中でクレームをいれるが、なんの慰めになるワケでもない。


 大体、あの場を収めるために、魔法を使ったのは俺自身だ。


 魔法使いなら、自分の魔法の責任は自分で持つしかねえ。


 ガキのころから何十遍も聞かされた先生の口癖。


 そいつを心に思い浮かべ、唇を引き結ぶと、俺は居住まいを正す。


 俺ら、宮代家の魔法使い(「明かし」)が持つ「読み」――自らの五感を操作する魔法よりも、ずっとワーズワースなもう一つの魔法。


 親戚中を探しても、母さんと俺の二人くらいしか使い手がいない――母さんについては、正確には「元・使い手」だけど――やたらに古めかしい「(あらは)し」という名を持ったコイツは、思い描いたことを現実に反映させる、名前通りの「ひどく単純(シンプル)な」魔法だった。


 ただし。


 金銀財宝でも宝石でも作り放題な、スゲー秘術にも聞こえるこの力には一つだけ落とし穴がある。

 『魔法側で忖度しすぎてくれる』、のだ。


 それゆえに、望んだ結果を得るためには、使い手の側が細部まで面倒をみるのが必須という、至極メンドクサイ性質を持っていて⋯⋯、


 しかも。


 ありがたいことに、発動させるだけなら超・簡・単。


 俺みたいに「顕し」の魔法を生まれ持ってさえいれば、願いの中身にもよるけど、ほんのわずかな魔力消費でも発動しやがるときたもんだ。


 ――まあ、さっきの俺は、加減してる暇もなかったから、リスク覚悟で全力を込めちまったけどな!


『魔法っていうか、あんなの呪いよ、呪い! 本家の爺様方に倒れられたりでもしたら最悪に面倒だし、笙真のためにも『顕し封じ』は解いてあげるけど、お守りって意味だからね。勝手に使ったら勘当に破門ものってこと、覚えときなさい』


 腰に手をあて、本当に先生に破門を迫りかねない勢いを見せていた、今朝の母さんの姿。


 なんてこったいと、自嘲気味にそいつを思い出した俺は、心の中で詫びの言葉と言い訳を告げる。


 ごめん母さん。


 でも、仕方なかったんだ。


 だって、今晩のレセプションとスピーチ、それから調印式ってさ。


 我が家(うち)はもちろん、世界中の魔法使いにとって、おそらくは史上最も大事なイベントになるからって、先生も母さんも、大人たちはずっと前から騒いでたじゃんか。


 それに、今夜のレセプションは俺たちみたいな、成年を控えた魔法使いたちのデビュタントも兼ねているって、小鳥がやたらに張り切っていたし――じゃなくて!


 先生か母さんに連絡しないと。


 幼馴染の姿と、先生に預けてしまった彼女への言伝のせいで、熱を帯びかけた頰。


 そいつをパシンと軽く張った俺は、


 とにかく今はスマホ!


 思い直し、見知らぬこの身体へと目線を向けることにした。

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