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#32クリティカルヒット

「なんか二人きりの時間がやけに久しぶりに感じるな…」


城下町デートから1週間たってないにも関わらず、内容が濃かったせいかソファーでひかるが天を見上げながらボソッと呟いてる。


「えー寂しかった?」

「いや、別に寂しくはないぞ?」

「…あっそ」

こちらを見てにたーっと笑ったと思えばプイッとそっぽをむく月に何一人で睨めっこしてんのか?とひかるは相変わらず微妙にズレていた。


「ふっ…」

「な、何よ…」

「いや、お前学校では誰が相手でもおっはよー!とか言ってすごいきらきらしててるのにさ、昨日の母さんの前ではあんなにおどおどして押されっぱなしだから思い出したら笑えてきちゃって…」

「っ…!もう!うるさいわね!緊張してたのよ!」


恥ずかしそうな表情をして肩を押してくる月を受け止めようと手首を握るのだが、すでに押されたあとで、力強い一撃に自分が倒れ込むと同時に月も一緒に巻き添えにしてしまう。


「わ、わりい…」

「あ、ううん…」


(この状況はさすがにまずい…)


ひかるは一刻も早くこの状況から脱出がしたかった。

と言うのもあれが無駄に反応して更にはポジショニングがかなり悪い。

それ以上に月のいる位置が一番最悪。


見上げれば跨っているのだ、少し腰を浮かした状態で。

後ほんの数センチでもどちらかが動いたら一番当ててはいけない所に当ててしまう。そうなったら必ずばれて幻滅されてしまう。


 

八方塞がりのこの状況では相手にどいてもらうしかないのだが肝心の月はその場から動く気配が全くない。


「あの月さんや…どいてくれませんかね」

「やだ」

「ちょっとでいいから」

「絶対どかない」

「いや、なんでだよ」

「昨日は本当に苦労したし恥ずかしい思いしたんだからね…」


頬を赤いが目力が強くこちらを見下ろして断固として拒否してくる。


昨日親に煽られて少し自覚したのだろうか、妙に積極的になっている。

ただひかるはそんなことに気づかない。と言うよりもこの状況で他ごとを考えてる余裕などない。


いい匂いがする、可愛い、このまま起き上がって抱きしめたい。

本能が支配し始めて理性のライフポイントが0に近くなっていて一刻も早く脱出したくて仕方なかった。


「……」

「わかってくれないひかる君にはくすぐりの系だ!おりゃ!」


黙り込んでつい目を逸らしてしまう。

だがそれは良くなかった。月をムッとさせてしまった。

月に器用に片手を使われ脇腹目掛けて思いっきり突っつかれてしまう。

くすぐり耐性がないひかるは「うぉぉい!」と変な声出しながら思い切って反応してしまいつい腰が浮いてしまった。


「ひゃん!?」


やらかしてしまった。不可抗力とは言えこれ以上ないくらい当ててしまった。



確実にクリティカルヒットしてる。

部屋中に響き渡る艶かしい声を出して浮いていた腰が完全に力が抜けて、月の身体がひかるの太ももやや下から胸あたりまで密着している。

最悪の事態はまぬがれたが、今度はたわわな胸の感触が身体全体通してひかるに襲いかかる。


「…ひかる君のエッチ…」

「い、いやこれは不可抗力だろ!」


月がすごい睨みつけている…つもりなのだが、トロンとした顔で顔全体が真っ赤になって更には涙目になってる。


急ながら誤解を解こうとするが依然としてひかるは動けないしそれどころかこんなことを思った。

 

(やっば…抱きしめそうになった…あの可愛さ反則だろ…くそっ…)


「ふぇっ…!?」


両手が月の背中まで行きかけるがどうにか耐えた。

でも触れること自体を我慢するのは出来なかった。気づいたら頭をポンっと優しく撫でていた。


これまた唐突な出来事で月は腑抜けた声を出しては目を大きく見開いてひかるを見つめてる。


「…な、なに?」

「い、いやこうすれば…機嫌直してくれるかなって…」

「………」

「何だよ…無言で見つめられると怖い」

「他の女の子にはしないでよ。したら怒る」

「し、しないわ!月が初めてだっての…」

「じゃあ…今日はこれで許す」


表情も笑ってなければ、声も低めのトーンで話してはいるが安堵して、唯一ひかるの身体に密着してなかった顔もそっと、ひかるの胸めがけてそっとほっぺたを密着させる。


ひかるは思っていた、ただ男女がくっついてるだけなのに、どうしてこうも安らいでそれでいてこんなにも緊張してるのか。


(俺…月のことが好きかもしれないんだ…)


やっと辿り着いた答えたが、かもしれないであった。

それでも自分の中で一つ答えが出て一歩…十歩前進した気がしてた。


考えながら撫で続けていたら猫のように心を許してへにゃってなってる月が愛おしくてもっと密着してたい。

しばらくの間互いに言葉を発しなかったが、お互い「この時間がいつまでも続くといいな…」と思いながら、いつもと少し違う一時を過ごしていた。

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