#31 詰まる距離
次の更新は2日後か3日後です。
「ひかるお皿洗ってきてちょうだい」
「母さん人使い荒いな…」
「そのためにご飯は黙々と食べたんだから」
三人は夕飯を食べ終え、ひかるは一息つく間もなく向かい側に座る里奈に促され、渋々立ち上がりキッチンに食器を運んでいく。
月はひかるを軽く見上げるようにしながら、二人のやり取りを見て苦笑いして、顔が引き攣っていた。
無言でニコニコしながらこちらを見て来るものだから戸惑いながらも目線を合わせたまらず「あ、あの…?」と声が漏れてしまう。
「月ちゃん、本当可愛いわねー!」
「母さん、椿にそんなに馴れ馴れしくするなよ、困ってるだろ」
「あら、嫌だった?」
「いえ、そんなことは…」
「あ、そうだわ。ひかるの小さい頃の写真見る?」
「え、見たいです!」
困惑してた月が急にいい反応をしてる。ひかるの過去に興味があるからこその反応だろう。
「おい、こらそこ二人」
ひかるにとっては謎の提案につい突っ込みを入れて視線を送るが、もちろん二人には声など届いてもいない。
笑顔の月に期待に応えましょうと言わんばかりに里奈はスマホではなくタブレットを鞄から取り出して、フォルダを開き「はいっ」と渡し月は受け取る。
「え、これ可愛い!」
アルバルフォルダをスクロールして目に止まった一枚の写真。
寝転がりながらおしゃぶりをつけてカメラを睨みつけ両手でぬいぐるみをギュッと握った、ひかるの赤ん坊の頃の一枚の写真。
じーっと見て目をキラキラ輝かせていて、とても気に入ってるのか口元緩んでる。
さっきまでの緊張の紐がするりと解けて、幼いひかるの写真を食い入るように見ている。
「おい、何の写真見せてるんだよ」
「ひかるそこっち来たらダメよ?」
皿洗いが終わり動こうとするひかるを睨む里奈につい狼狽えてしまうが、ひかるにとってはあまりに理不尽すぎて「はぁ…」とため息ついて何事もなかったのようにトイレと呟きその場を後にする。
その直後、二人きりになるのを待っていたかのように里奈は話を切り出す。
「月ちゃん、私馴れ馴れしかったかしら?」
「い、いえ!そんなことは…最初は正直緊張しましたが楽しかったです」
「そう、それならよかった。ひかる今まで女の子連れてきたことなくてね、年甲斐もなく興奮しちゃって…」
「子供に恋人が出来たら嬉しいものなのですか?うちの母にもすごいニコニコしながらいろいろ聞かれて…」
一見、単純そうに見えて深い質問を繰り出してくる。
里奈はふふっと笑って優しく見つめて月の問いに答える
「そうね、やっぱり嬉しいものよ。自分達が大事に育てた子供のこと大事に思って支えてくれるパートナーがいるのはね…」
「そう…なんですね…」
里奈は目を逸らして下を見てる月をそっと見守る。
里奈から見てしまえば高校生はまだまだ子供、その答えが分からなくて当然ではあるがそれでも優しく見守る。
1分も満たないほどだったが月は再び太ももの上に置いていた手をきゅっと握り再び口を開く。
「私今まで恋したことないですけど、天音君…いや、ひかる君のことはいい人だと思います。」
「うん、ひかるはいい子よ私が保証する」
「母さんもうそろそろ帰る時間でしょ?」
トイレから戻って来たひかるに気づかなかった月はびくんと反応し身体事、声がする方へと向ける。
里奈はそうね、そろそろ帰るわ。と言葉多く語らずささっと立ち上がる。
月と話せて満足したのだろうか足早に玄関へと向かっていた。
「じゃあ二人ともまたね」
ひかるは手を振り月はお辞儀をして里奈を見送って、そわそわしながら隣に並んでいた月に声をかける。
「なぁ椿…」
「ん?」
「いや…その…」
「何をそんなおどおどしてるのよ?」
自分から呼んでおいてオドオドしてる姿にムッとしたのか更に一歩距離を詰めて見上げながら問う。
「さっき…その…母さんと話してる時、俺のこと名前で呼んでたのが聞こえてさ…」
「はぁ!?って言うかあれ聞いてたの!?トイレにいたんじゃないの!?」
「いや…リビング行こうとした時に入るタイミング失って…聞く気はなかったんだよ?」
「信じられない!盗み聞き!最低!」
ひかるは焦りながら弁明していた。
聞く気なかったとしても現に聞かれているのだから月としては恥ずかしさから取り乱して、勢いでひかるの肩を掴み「もー!」といいながら揺らしている。
「わ、わるかった!そ、その…月。」
きっとひかるとしては名前で呼び合える仲になれたらいいなと密かに思っていたのもあるだろうし、母親が月ちゃん呼びに触発されたのもあって、照れくさそうに呼んでいた。
月もはっきりと聞こえていて恥ずかしそうにしてる。
揺らしていた手も止まる。そしてひかるとは目を合わせず震えた声で「もう一回言って…」と、可愛らしくおねだりしている。
「る…月…」
緊張しながら名前呼びしてるがはっきりと発言してる。
月はそっと目を合わせ向き合ってひかるの顔を見つめる、いろいろと思う所があったであろう。
目が合ってわずか3秒、頬が赤くなり頭をコツンとひかるの胸に当て照れているのか「もう…ひかる君のばかっ…」と月も小さな声で初めて本人の前でひかる君と囁いた。
ここ最近少し雑になってる気がするので、更新頻度は減りますが
いい小説かけるように頑張ります。




