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とある本屋にて

作者: 山吹弓美

 いらっしゃいませ。

 この店にいらっしゃるのは、初めてですね。ええ、まあ二度三度とおいでになる方はそう多くはありませんが。


 ご覧のとおり、ここはいわゆる本屋でございます。さまざまな物語を取り揃えておりまして、お客様がお望みの物語をお売りする店でございますね。


 どういった書物をお探しですか?

 たとえば、こちらの『復讐もの』はいかがでしょうか。意味もなく、もしくは無理やり持たされた意味をもって迫害された主人公が、迫害した相手に相応の復讐をする物語でございます。どうです、スッキリするでしょう?

 おや、だめですか。なんとお優しい。ですが、お相手様のなさったことはそれなりに罰を受けるべき罪でございますからねえ。きちんとわからせて差し上げたほうが、お相手様にとっても良いことだと存じますが。


 いえ、お客様のご要望にお答えするのが店員としての努めでございますね。失礼いたしました。

 では、こなたに揃っております『成り上がり物語』各種がお勧めでございましょうか。お相手様への対処はともかくとして、主人公は様々な新しいお相手様との出会いを通じて癒やされ、幸せになっていく物語でございますね。


 幸せになってよいのか、でございますか?

 わたくしの個人的な意見でございますが……そう思われる方こそ、幸せになってしかるべきだと考えております。そのような問題でお悩みになるほど、お客様はお優しい方でございましょうからね。


 ただただ、人様の悪意を受けるためだけの存在というのはお辛いでございましょう? そのような方は、お客様以外にも数多くおいでになります。その方々に幸せをお届けするための、ここは書店でございますから。


 お決まりになりましたか。

 ああ、『溺愛物』でございますね。ご家族から受けられなかった愛情を、恋うるお相手様に注いでいただく。

 ええ、お客様がお望みであれば、店員たるわたくしに否やはございません。どうぞ、お持ちくださいませ。


 お代は結構。お支払いいただくのは、お客様ではございません故。

 では、ご利用ありがとうございました。どうぞ、お幸せに。


 さて。

 書物のお代は、お客様に理不尽を働いた皆様の魂でございます。

 あの『溺愛物』においてお客様を愛する方は、お客様に傷をつけた者を許せないお方。

 それ故、かの方は罪人を強く罰しなさいます。そういう物語なのですからね。


 お支払いいただける日を、お待ち申し上げております。

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― 新着の感想 ―
[一言] なろうで見かけることが多いジャンルのお話を取り揃えた本屋さん、書店員さんのお話を聞くと、日常生活で満たされない部分を多くの書物が癒してくれているのだなぁと改めて気付かされますね。 支払い方法…
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