九話 反逆の堕天使~⑤~
あたしは、最後のニードルのカートリッジを左右の腕に装着したニードルガンにセットす
ると、全弾撃ち果たす勢いで、彼、谷崎圭吾に狙いを定めると、彼をその部屋の壁に十字架状に打ちつけるのだった。
「お…お前等ちょっと待て……俺を殺してお前等に何の得があるって言うんだ……俺を殺せばお前等には無期懲役か死刑の二択しか無くなるんだぞ…それでもいいなら…さぁ!殺せ!!」
他人の生き死には何とも思わないだろうこの男が、自分の生き死にに関しては、やや怯えた様相を呈したものの、最後は気でも狂ったのか、抵抗するのをやめ、あたし達二人のなすがままになっていた。
「……あたし達二人の命なんて…あんたの出世の道具にされた人達の命に比べたら安い物よ!あたしも彼も…無期か死刑かって言われたら迷わず死刑を選択するわ!それに価するだけの事をしてきたんだから!!」
あたしはそう言うと、留めの一射にと、左右のニードルガンに一本ずつ残して置いた、銀色のニードルを一本ずつ彼の左右の胸辺りを狙って撃ち込むのだった。
そしてさらに、彼が谷崎の頚椎に小太刀の一撃を見舞った事で、彼、谷崎圭吾は完全に絶命したかのように思えたんだけど、ここにきてあたし達は、致命的なミスを犯していることに気づくのだった。
それは、彼の常人離れした身辺警護だった。常に着ているスーツから、インナーに至る全てを防弾防刃素材で造られた、特注品にその身を包んでいた事だった。
あたしの撃ち込んだニードルは、効果無くバラバラとその部屋の床に落ち、最後のとどめにと、彼の頚椎に浩行が見舞った小太刀の一撃も、彼には何のダメージも与えていなかったことに加えて、ここまでずっとあたし達の見方だと信じていた、県警本部長の一馬さんと監察官の真理子さんにも裏切られ、あたし達二人は、信じられる者の誰もいない最悪の状況に置かれていた。
「本部長…監察官…やっと本性を表しましたね……私は最初から気づいてましたよ……あなた方お二人が大の公安嫌いで…機会あらば私達特殊公安をこの神奈川県警から排除しようと画策していた事をねぇ……それから監察官…貴女はこの二人を大恩ある上官のご子息だと言われましたね……むしろその逆だ!この二人のご両親に大恩を受けたのは私の方であなた方お二人には気をつけろとしか聞いていない!むしろ私はこの日を待ち望んでいたし二人に伐たれる覚悟も決めていた……しかし…お二人に一矢報いない限り…死んでも死にきれないし何よりもそうしなければあの世へ逝った時…この二人のご両親やお二人の策略に嵌まり命を落とした捜査官達に顔向けできないじゃありませんか?この二人に指一本触れさせないのは私の方だ!!」
彼、谷崎圭吾のまさかの発言に一瞬動揺の色が隠せないでいたあたし達二人だったけど、あたしと彼にも思い当たる節があったし、彼がこの後に及んで嘘を言っているようにも見えなかった。
「……谷崎さん…貴方は何もわかってない!そこの二人の父親がどれだけ我々県警の信頼を失墜させていたのかを……内部調査を肩書きにどれだけの捜査官達が迷惑を被った事か……それを苦に自殺した捜査官までいたほどだ……その二人は言わば大罪人の子孫!罰せられて当然なのだよ!」
彼、谷崎圭吾の核心を突く発言に、神奈川県警本部長の瀬戸内一馬は、完全に善人の仮面が剥がれ、欲と権力の亡者と化していた。
「……また…それですか?本部長貴方は私達特殊公安をこの県警から排除したいという思惑と…自分達の闇献金問題が発覚するのを恐れ…私達と関わりのあった捜査官達をヤミ金業者と結託して借金の重石で自殺に追い込みあまつさえそれを私のフィアンセだった舞原直子が善意から立ち上げた組織の人間がそれを知るやいなや自分が手駒にしていた捜査官達をさらに殺害してそれを私達特殊公安の仕業だとでっち上げようとした!本部長辞任を問われるのは貴方達二人の方じゃないんですか?!」
彼、谷崎圭吾のさらに核心を突く発言に、いくら兄妹の兄弟でも、物の受け取り方が違ったようで、全く自身の罪悪感を感じていない兄、一馬に対して妹の真理子はというと、多少の罪悪感は感じていたのだろう。
必然的に、兄の一馬に疑念を抱き、自身が何故この場に居るのかを、考え始めているようにも、この時の俺には思えた。
「……兄さん…いいえ瀬戸内一馬県警本部長!明日速やかに警察庁に出頭を要請します!……兄さん…同じ警察官僚として今までの所業と行動見逃す事はできないわ……本心から神奈川県民の安全な生活を守るためといったはずの兄さんだったけど…はっきり言って見損なったわ!!」
彼女は語気荒めにまくしたてるように言うとその部屋を退出しようとしたのだが、彼女と同性である恵梨香さんからすれば、それはあくまで自分達の保身を思慮しただけのくだらない三文芝居に見えたのだろう。
退出しようと部屋の出入り口に向かう彼女のつま先に、恵梨香さんの放った銀色のニードルが、彼女の履くパンプスを貫き、彼女の脚をその部屋に繫ぎ止めていた。
「これでやっと謎が解けたわ……直子さんが最後にあたし達に谷崎さんを伐てなんてメッセージをくれた訳がね……全てはあなた方二人の犯した大罪を白日の元に曝すため……いい加減に観念してほしいものね!瀬戸内一馬県警本部長!瀬戸内真理子監察官!彼がここに来る前にあたし達二人の全てを本部長にお話ししてるはず?ここまで言えば賢い貴女ならあたし達二人がどういう立場の人間かおわかりですよね?お兄様の方はご理解いただけてないみたいだけど……」
あたしはそう言うと、彼と谷崎さんとアイコンタクトを取ると、あたしと彼は、普段から羽織っている揃いのパーカーの下に着ていたスーツ姿になっていた。
「…まさかとは思ったけど…本当に居たんだ……あの女…舞原直子の私設監察官……けど…それがわかったからってあんた達はあくまで元私設監察官でしょ?現役監察官のあたしやこの神奈川県警を統治する県警本部長の兄を裁くことなんてできないはずよ!逆にあなた達が公務執行妨害で逮捕されるだけよ!観念するのはあなた達の方ね!」
「……確かに…あたし達二人の直下の上司である直子さんはこの世には存在しないわ……けどね真理子さん…彼女のお父様は今尚現役の警察庁長官なの…その方から依頼を受けて地固めを進めて来たといったらどうかしらね?」
彼女のこういった反撃は想定内だったのだが、どうあってもあたし達が現役復帰した事を信用しなかったため、彼女にそう言った直後、それぞれのスーツのズボンのポケットに入れていた小箱から、現役警察庁長官である、直子さんのお父さんでもある舞原龍三郎氏より拝領した監察官の最高位を示す藍色のラインが施された燦然と輝く銀色のバッジをスーツの襟に付けるのだった。
「何よそれ?あたしはそんなこと聴いても無いし…絶対認めないから!容疑対象組織の一員だったあんた達が監察官最高位のバッジ付けてるのだってあたしは全く納得できない!!いいわ!それなら…射撃のテクニックでケリを着けましょ?」
「……真理子!もうよせ!言わずもかな私達二人の完敗だ……お前程度の射撃のテクニックでは到底彼女には叶わない……彼女は現役時代県警トップレベルの射撃の名手で県警特殊部隊のエースだった人だ!そんな人と撃ち合えばお前の敗北は火を見るより明らかだ!確実に死ぬのはお前の方だとわかって言ってるのか?」
この兄妹の兄弟は、全く正反対の性格をした二人だというのが、あたし達三人の見解で、支離滅裂な事を吐きまくる二人にあたし達三人は、徐々に怒りの感情は薄れ、逆に呆れかえるだけだったというのがその時のあたし達三人の心情だった。