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八話 反逆の堕天使~④~

  そのころあたしと浩行の二人は、夜のとばりが降りかけ始めた横浜の街を、県警本部を目指し、ただひたすら走っていた。


 組織の追っ手と、並み居る警官隊を退けて。


 しかし不思議な事に、県警本部に近くなるにつれて、組織の追っ手はその人数を減らし、逆にあたしと浩行を逮捕しようとその数を増やしていった県警の捜査官達に紛れた、警察庁の捜査官達が、虎視眈々とあたし達二人の暗殺機会を狙う、県警特殊公安の捜査官達から、あたし達二人を守ろうとしてくれているようにも、そのときのあたしには、思えた。


「……あの人が動いてくれたのかも……県警トップの瀬戸内一馬本部長の妹で県警捜査官時代はあたし達姉妹の父親…葛城龍三の片腕だった人……あの人が動いてくれてるんならあたし達にしたら奴を斃すまたとないチャンス!ヒロ!一気に攻めるわよ!」


 県警捜査官から、あたし達姉妹の父親だったり彼の父親だったりからの後押しもあり、今は東京の警察庁で監察官を務める。瀬戸内真理子という女性の存在が、あたし達二人の決起をさらに激しく刺激した。


「……だな…これでやっと俺達も無駄な血を流さずに済む……ただ間違いなく俺達はムショ送りになんだろうけど……」


 彼女の事は、生前、俺の父親からよく聞かされていた。


 県警本部長の実妹で、めちゃくちゃ有能な女刑事がいると。ただ彼女には、破天荒な逸話も数多くある事を知っていた俺は、彼女の存在を手放しには喜べないでいた。


 しかし今現状、そんな事はどうでもよく、速やかに現状を打開して、長年染み付いてしまった血の匂いを早く拭い去りたかった。


「それ…間違いナシだよね……」


 ここ数ヶ月、彼と全てを共に過ごしてきたあたしには、彼の今の気持ちが手に取るようにリンクした。


 彼は優しい男性で、本来ならこんな血生臭い世界に身をおきつづけるほど気丈な人ではない事。


 そしてまた、この世界で気丈に振る舞いつづける事に、限界を感じているようにもこのときのあたしには思えた。


 そしてその頃、あたし達二人の向かっている県警本部では、未だに警察官僚二人の睨み合いがつづいていた。


「……愚行だと?…そう思いたくば思えばいい……ただ…あんたにゃ一生かかったってわかんないだろうね……人の善意を踏みにじってのし上がったただの成り上がりにはねぇ……谷崎管理官…あの二人にはもう指一本触れさせない!貴方を伐たせた後に私達警察庁の方で身柄を預からせていただく……!」


 拉致のあかない睨み合いと無駄な時間だけが刻一刻と過ぎていく、県警本部の一室。先にそう口火を切ったのは、瀬戸内真理子監察官の方だった。


「瀬戸内監察官……そのような横暴が許されるとお思いか?貴女は先ほど私が人の善意を踏みにじた成り上がり者だと言われたが見まごうことない犯罪組織を叩き潰しその力を犯罪撲滅に役立てようとして何が悪い?女風情がわかったふうな口をきくな!」


 彼女の核心を突いた言動に、感情露わに掴みかかろうとしたのは、彼、谷崎圭吾の方だった。


「……谷崎さんあんたの言いたいことはこうだよねぇ何で…何のために神奈川県警の事案に東京警察庁の人間のあたしが

 かかわってんだって話しだよね……わかった…応えるよ……あんたのこれまでの極悪非道な行為の数々……この神奈川県警の本部長してるあたしの兄から極秘に依頼を受けてたのよ……それから二つ目の応え…あんたが本気で秘密結社堕天使を犯罪撲滅に役立てようと考えてるんならあたしの出る幕じゃないって思ったよ……けどね…その応えは全く逆であんたは彼女達を自分の出世のための捨て駒にしたかっただけ……あんたも警察官僚なら…いいえ一人の男ならいい加減自分の罪を認めなよ……あたしを女だからとか罵倒すんのはてめぇの所作ぁきちんとしてからにしてもらいたいねぇ……」


 彼女はそう言うと、自分より肩二つ程身長差のある彼を意図も簡単にその部屋の壁へと投げ飛ばしていた。


 谷崎にしてみれば、彼女を小柄な女と侮った末の末路だったのだが、彼女に投げ飛ばされたことでまともな柔術訓練も受けないままに今の役職に就いた彼は、その部屋の分厚い防音壁に脊柱をしたたかに打ちつけて、立ち上がる事すらままならなくなっていた。


 しかしそれは、彼の姑息な演技だったようで、壁際から立ち上がった彼の手には、応戦用の拳銃が握られており、パンと乾いた発射音とともに放たれた銃弾は、大きく軌道を外れ、彼女の腕を掠めただけで、部屋の防音壁にめり込み、逆に生死の危機にたたされていたのは、彼、谷崎圭吾の方だった。


「……谷崎ぃ…あんたってぇ奴ぁどうしようもないクズだねぇ……正式な手続きを踏めば…上官反逆罪からの懲戒解雇処分が妥当なとこだろうけど…今のあんたにゃあ司法の生ぬるい処分を受ける資格すらないねぇ!」


 彼女はそう言い捨てると逆に彼の拳銃を奪い、それを彼の眉間に押し当てていた。


「真理子!そこまでだ!銃を退け!」


 それはまさに、間一髪のところだった。


 県警本部にたどり着くまでに生前の俺の父親、露木大輔から聞かされていた彼女の破天荒な逸話と行動がどうしてもぬぐいされなかった俺が、彼、瀬戸内一馬本部長に、すべての素性を明かした上で、直接連絡を取っていたのだった。


「……兄さん……」


 彼と俺達二人の、突然の入室に、激昂トランス状態にあった彼女だったが、俺達二人の存在を認識したのか、短くそう言って、谷崎に突きつけていた拳銃を退き、それを彼の手元に投げ落としたことにより、再び拳銃を手にした谷崎が、彼女から俺達に的を変え、拳銃を発砲しようとした刹那だった。


「谷崎圭吾副本部長……貴方の言動と行動には正直幻滅した……私の妹の真理子が言うように今の貴方には…司法の生ぬるい裁きを受ける資格すらないと…私も思う……谷崎圭吾副本部長……貴方も曲がりなりにも一人の警察官僚ならば…ご自身の身の所作くらいはわきまえられよ!私からは以上だ!瀬戸内監察官…跡は頼みます……今日…ここで起こった事のすべての責任は私が持つ……」


 彼、瀬戸内一馬本部長がそう言って、俺達二人と真理子さんを部屋に残し、その部屋を退出しようとした時だった。


「本部長…あんたぁ頭可笑しいんじゃねぇのかぁ?あんた達のしてきたこたぁ棚上げしてぇ俺のしたことだけ重罪人扱いかよ?巫山戯んなってんだ!」


 今の今まで、彼の話しを静聴していた彼、谷崎圭吾は激昂したようにそう吐き捨てると、事もあろうか、自分に背を向ける一馬さんに、拳銃を発砲するのだった。


 しかし、銃の弾きがねを弾いて痛手を被ったのは谷崎の方だった。


 なぜなら、彼が発砲するほんの数秒の間に、俺の隣にいた恵梨香さんが精密過ぎる射撃テクニックで彼の持つ拳銃の銃身に一本のニードルを撃ち込んでおり、銃のシリンダーがロックされた状態で彼が弾きがねを弾いたために、拳銃は暴発。彼、谷崎圭吾は瞬時に右手の指四本を失うはめになったのだ。


「……神奈川県警本部はどうなってんだぁ?副本部長の俺が完全に悪者で…容疑対象者のはずのこの二人が正義の見方ってかぁ?」


 彼が苦しまぎれに言った一言は、一瞬にしてその場の空気を凍てつかせ、俺達二人が抑えていた、怒りの感情を一気に引きあげてくれた。


「……谷崎さん…俺達二人は正義の見方なんかじゃねぇよ……地獄からあんたを迎えに来た!堕天使ルシファーにさえ見離された!反逆の堕天使だよ!!」


 俺はそう言うと、恵梨香さんと二人、谷崎圭吾に襲いかかった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  谷崎圭吾、悪い奴なんですね。  この後どうなるんでしょう❔  執筆、更新ご苦労様です。m(_ _)m
[一言] 感想の重ね書き<m(__)m> 待ってますから! 頑張って!!(^O^)/
[一言] 佳境ですね!!!(^O^)
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