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七話 反逆の堕天使~③~

  「……あの男が憎い…今すぐにだってブチ殺してやりたい……それはあたしも同じだよ!それにあんたは…あたしほど直情型じゃないはず……少しだけ退いて考えれば応えは出るはずよ……今…奴等の誘いに乗ってぶっこめば奴等は倍以上の人数であたし達を攻撃してくる……そうなればあの男の首を獲るどころかその前にあたし達が殺されちゃうそうなったらこの件に関わって命を落とした人達の無念はどうなるの!?」


 普段からあたしなんかよりは、数倍頭の良い彼、ただ感情に流されているだけなら、その感情に飲み込まれるのではなく、冷静さを取り戻して欲しかったため、あたしの語気にも、ついつい力が込もってしまった。


「……悪い…恵梨香さん……ちっとばっかし冷静さを欠いていたなぁ俺かもしれねぇ……ただ一つだけどうしてもわからねぇんだ……何で今になって奴は…俺達二人に自首を進めてくるかってことだ……俺達を厄介者として始末するんなら…自分の手を汚さなくてもいくらだって手はあるはずだ……なのに…何故……」


 彼女の俺を思う優しさに、徐々に冷静さを取り戻した俺は、自分の今の胸中を全て彼女に語った。


「……ていうことは…県警組織の中に誰かもう一人…彼の強行を阻止してあたし達を法の元に裁こうとしてる人物がいると…そう睨んでるのね……」


 この時の彼の、胸中の告白は、あたし自身も疑問に感じていた部分でもあり、どうしても、解せぬ部分でもあった。


「……ああ…思いあたる人物がいない訳じゃない……

 けど…悔しいかなその人物が直接関わってるっていう根拠がない……」


 今回のこの一連の騒動、特殊公安が深く関係しているのは明白な事実だった。


 それに、特殊公安と捜査一課というのは県警の中でも、犬猿の仲だと聞いた事がある。


 今は亡き俺の父親、露木大介に。


 その父親の死後、同じ捜査一課に席を置いていたはずの俺の姉、露木麗美の存在が、今の俺の思考回路を狂わせていた。


「ヒロのお父さんとお姉さんがこの件に関わってるって事?」


 彼のその、突然の告白に、あたしも最初頭が混乱しかけて、彼に三度問いかけてしまったのだけど、彼の言う事はすぐに理解できた。


 何故なら、当時の捜査一課でその指揮を取っていたのが、あたしと美奈子の父親、葛城龍三だったのだから。


 そして悲運にも、彼の家族を一家離散に追い込んでしまったのも、あたしと美奈子の父親だった。


「……ごめん…ヒロ……あんたの家族壊しちゃったの…あたしと美奈子の父親だったんだ……」


 今さら謝って見たところで、彼の家族が元に戻らないのは、わかっていた。


 けれどその時のあたしには、土下座して彼に謝るしかなかった。


「……そんな事…すんなよ!あんたの親父さんは少しも悪くないし…あの時の判断だって何一つ間違っちゃいない!俺の父親は優しいだけが取り柄みたいな男で…そんな親父が警察官になるのも…ましてや県警の捜査一課に召集されたなんて奇跡みたいなもんでさ……何の才覚もない自分を一人の警察官として認めてくれた…あんたの親父さんにゃあめちゃくちゃ感謝してたんだ!だから…そんなして謝んのは止めてくれ!!これ以上…親父に惨めになって欲しくねぇんだ……あの時親父は…自分に関わる俺達家族の未来と安全を考えて一家離散の数日後…二十年近く連れ添った母親と二人…自殺という最悪な結果になっちまったけど…俺の両親は…何一つとしてあんたの親父さんを恨まなかったよ……ただ一人…姉の麗美を除いてはだが……」


 二人で隠れ潜む部屋、床に頭をこすりつけるように俺に頭を下げる彼女、俺は矢も楯もたまらず、少し強引に彼女を抱き起こした。


「……え…ていうことは…あの時隼人の言ってた事って……」


 彼に少し強引に引き起こされたあたしは、その後の言葉が続かず、黙りこんだ。


「……ああ…組織在籍中…あんた達姉妹が加入してくるまでは…堕天使の処刑人だった…俺の最後の仕事……それがあんたの親父さんの抹殺だった……けど…これでわかっただろ……俺がどんな人間かってことがよぉ……」


 この事だけは、誰にも語らず、俺の腹の中にしまいこんだまま墓場まで持っていくつもりだった。


 しかし彼女は、俺がこの手で殺めた、大恩ある人、葛城龍三の娘だったからなのだろうか、彼女には、事実をしっかりと把握して欲しかったのか、数日前に、三枝隼人の言った最後の言葉の意味を彼女に語っていた。


「……そんなの…大方の予想はしてたよ……父は生前…あたしと美奈子に話してくれていた事があったのよ……おまえ達二人が入ろうとしている組織は間違いなく犯罪組織だということと…おまえ達二人がこの言葉の意味を理解するころには自分はもうこの世にはいない事…予測してたのかもね……けど父は…最後まで悔やんでたわ……自分の器量の無さからあんたのご両親を死なせてしまった事を……だからあたしと美奈子は決意したの……どんな不協和音な結果になったとしてもあんたとは絶対に離れないって…約束したの!さっきは咄嗟にあんたの衝動止めちゃったけど…これで…意思ははっきりと固まったわ……乗り込みましょ!!県警本部に!あの腐れ外道に全ての人の怒り!めいっぱい叩きつけてやろうよ!!」


 彼のこの告白は、あたしが闇の無い女だったら、間違いなく、父と妹の仇として、討ち果たしていたのかもしれない。


 けれどあたしには、彼の請け負っていた、堕天使の処刑人の次代を担った経緯があり、彼のお姉さんを殺めたのはあたしであり、彼の衝動を止める権利など、あたしには最初からなかったのかもしれない。


 一方そのころ神奈川県警本部のとある一室では、一人の女性警察官僚と、県警ナンバー2の谷崎圭吾が、彼女の抜き打ち監査を受ける形で極秘での会談が催されていた。


「谷崎管理官……貴方の行動には我々警察庁の人間から見ても目に余る物があります……如何にこの日本で殺人許可のある部署とはいえ…一晩で八人というのは法治国家である日本国内全体の維新を揺るがす一大事……その事については如何お考えか?」


 県警本部の一室、極秘に催されていた一人の女性警察官僚と、県警ナンバー2の極秘会談。


 そう先に口火を切ったのは、この神奈川県警から、異例の出世で、東京の警察庁に移動となった、瀬戸内真理子監察官だった。


「これは如何に監察官といえど…少々心外な質問をされるが…その胸中如何なるお考えなのか私の方から逆にお聴きしたい」


 彼女の質問に対して彼、谷崎圭吾は臆することなく、平然と逆に彼女に問い返していた。


「……谷崎管理官…質問を許可した覚えはない……私の質問にのみ応えていただければ結構だ……」


 彼女もまた、彼に臆することなく、平然と言い返していた。


「私はただ…この街の秩序を乱しかねない人間を法の元に裁いただけの事……貴女にとやかく言われる事は何一つしていない!これ以上の会談ははっきり言って時間の無駄……速やかにお引き取り願おうか!」


 彼女を女性だからと侮っていたのか、はたまた、己のミスなのか、語気を荒げ先にその場を退席しようとしたのは彼だった。


「ちっと待ちなよ!話しはまだ…終わっちゃいないよ!あんたのやった事…これからやろうとしてる事ぁあ法と秩序をうたっただけの大量殺人だぁあ!あんたを恨む人間は…5万といるだろうからねぇ……ついでにいうなら…今こちらに向かおうとしてる二人は…あたしらなんかよりさらに激しくあんたを恨んでんだろうねぇ……あの二人は…どうしようもないはねっ返りだったあたしを警察庁の監察官にまで押し上げてくれた…大恩ある人のご子息だ……警察庁側の人間としてぇ!最初は貴方を守ろうと思ったぁ!けど…気が変わった!貴方には…あの二人からの罰を受けていただく!そして…今の職務からも退いていただく!以上があたしからの最終勧告だ!」


 彼女はそう言うと、話し途中でその場を退席しようとした、彼、谷崎圭吾の足を止めた。


「……愚かな人だ…そのような愚行に出れば貴女だってただでは済まないんですよ瀬戸内監察官……」


 彼女の言葉に、一瞬だけ眉根を潜め、考えるような仕草を見せた彼だったが、あくまで自分の愚行の非は認めず、彼女の言動を愚行と嘲笑うだけだった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  肉親の縁が絡み合って複雑になってきましたね。  どう話が変化していくのか。  執筆、更新ご苦労様です❗(o´▽`o)ノ
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