四話 秘密結社堕天使~③~
「公安がこの件に大きく関わってる……美奈子のヨミは当たったみたいね……しかも…同業者であるはずの捜査一課の刑事まで一人犠牲になってる……公安はいったい…何を企んでるんだろう」
目立った動きは控え、普通に迎えたそのひの始まりの朝、何もなかった殺風景を絵に描いたようなあたしの部屋、ミカン箱の上に置かれたポータブルテレビから流れる朝のニュース番組を見ながら、あたしと彼は少し早めの朝食を食べていた。
「……おそらくトカゲのしっぽ切りだ……今回の件で殺された人間が全員何らかの形で公安の人間と関わってたとすれば…公安当局にすればそれ自体が自我を滅ぼしかねない一大スキャンダルになる……そう考えればおのずと応えは見えてくる……彼等は新聞記者やゴシップ記者への発覚よりも俺達が事の真実を掴み自分達に牙を剥いてくるのを今一番に恐れているのかもしれない……」
見ていたテレビのニュース、その中に名前のあがった二人の刑事に俺は見覚えがあった。
それは、どちら共があの事件当日、父親の会社に踏み込んできた特捜部に紛れて現場に踏み込み、俺の父親を追い詰めた二人だったからだ。
「この二人なら…あたしも美奈子もはっきりと覚えてる……どんな事件現場だってお構いなしに踏み込んでくる……まるで動物の死骸に群がるハイエナみたいに……」
里中弘二、村下恭一の二人。その顔写真が公開された直後、俄に顔色をくもらせた彼を見たときあたしの脳裏にも、忘れかけていたあのときの記憶がはっきりと、鮮明に思い出されるのだった。
そしてさらに、あたしたち二人が驚いたのは県警特殊公安の謝罪会見映像に画面が切り替わったときだった。
なぜなら、その会見会場に、変装こそしてはいたが、明らかにそれは、あたしたちの首魁であるはずの舞原直子さんの姿を見たからである。
「…何で…直子さんが会見会場に?」
そのまさかの映像を目の当たりにしたとき、あたしは思わず疑問符を口にした。
「落ち着きなよ…恵梨香さん……んなこたぁ最初からわかってた事さ……あの女と公安は筒抜けだ……あの女狐…焦ったのか自分から本性露わしやがった……あの女が欲するのは己の我欲だけ……だから今回もおそらく…用済みと判断した俺等の首を手土産に公安に取り入ろうって魂胆なんじゃねぇのかな……それからこれは非常に言いにくい事なんだけど…あんたの本当の妹さんだった美奈子さんはとっくにあの女狐に抹殺されてる……今の今まで行動を共にしてきたのは全くの別人であの女狐の忠実な下部だ……」
彼の口から語られる事の真実。俄には信じがたかったけど、伏し目がちにそう語る彼の目が嘘を言っているとは、到底思えなかった。
「あの子の死については俄には信じがたいけど…あたしたちよりも長くあの女の傍にいたあんたがそういうんなら…それが真実なんでしょうね……たった二人だけでどこまで善戦できるかはわからないけど…まずは…この腐り果てた組織から叩き潰してやりましょうよ!あたしたち二人は…今日から反逆の堕天使よ!」
あたしはそういうと、クローゼットの奥に隠していた、連射型のニードルガンを二体左右の手首に固定して、一つのカートリッジに二十本にまとめられたニードルのカートリッジをまとめたガンベルトを腰に巻き、さらにもう一体あるその装備を彼にもわたすのだった。
「恵梨香さんは今…動いちゃだめだ……あの女のもう一つの狙い…あんたの抹殺だ……あんたに俺を近づけたのも俺にあんたを殺させるため……妹さんは守れなかったけど…あんただけは断じて死なせねぇ……」
戦いに伐って出ようとする彼女を、俺はそう言って止めた。
「……そんな事…最初からわかってたし…今さらどうだっていいよ……どのみち…あの女を斃さない限りあたしたちの身体に組み込まれた堕天使の烙印は消えないんだから……そんな哀しそうな顔しないでよ!また…いつもみたいに笑ってよ!……ヒロぉ……」
彼が、これから戦いを挑もうとする相手方の刺客だったとしても、本当の意味で独りになってしまったあたしにとっては正直どうだっていいことで、とにかく今のあたしは、彼という存在を意地にでも失いたくなかった。
「……どこの世界に…惚れた女をわざわざ修羅場に連れてく男がいんだよ!」
彼女の本当に哀しそうな顔を見たとたん、今まで抑えていた感情が一気に爆発した感を覚えた俺は、無意識に彼女を強く抱きしめていた。
「ヒロは本当に真っ直ぐに優しい子なんだね……今の台詞…あたしが真っ白な乙女だったら泣いて喜ぶだろうけど…あたしは残念ながら血の香りを纏った裏社会の女……愛して止まぬあんた独り修羅場に立たせるくらいなら…あたしは…己の意思で修羅になる……この…堕天使の烙印が発動して二人の生死を別つまで!」
愛しい彼に強く抱きしめられた時あたしは、互いの烙印から流れ出る互いの血液の滴を啜り合い、新たに戦意を固めたときだった。
あたし達二人は部屋の扉の外から、あたし達二人のいる部屋の中央部に向けて、突き刺さるような殺気を感じた瞬間、先ほど彼の言っていた実妹、葛城美奈子の抹殺が事実だった事を知るのだった。
「……姉さん…ドアを開けてくれない?組織の裏切り者が二名…ここに潜伏してるって情報があったの……」
一瞬殺気が緩んだ後、扉の外から女の声が聞こえた。
「嫌よ!…それから…今後一切あたしの事…姉さんなんて気安く呼ばないでくれる?舞原真奈美さん……」
あたしはそう言うと、おそらく扉の外で彼女が構えていたであろう、大型拳銃を発砲しようとした刹那、あらかじめセットしておいた一射目のカートリッジをスプリング強度をマックスまで引き上げた状態で部屋の扉目がけて連射するのだった。