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三話 秘密結社堕天使~②~

 そして着いた先のカクテルバーは、大通りから三本ほど道を奥に入った場所の地下にある、あたし達堕天使が持つ唯一の会合場所で、夜半ともなれば、司法の目も届かぬ無法地帯と化す場所でもあった。


 かつては立ちんぼと呼ばれる私設の娼婦だったり、バイヤーと呼ばれる違法薬物の密売人達がこぞって客を取り合うなどの光景をよく目にした場所だったのだけど、この二、三年のうちに、この裏町で急激に勢力を拡大しつつあるチャイニーズマフィア香蘭の力によって、いかがわしい商売をする人間は、徐々にではあったけど、その姿を消しつつあったのである。


 しかしそれで、この裏町の治安が完全に改善されたのかと言えばそうでも無く、お天道さまに背を向けた人間は、数えきれないほどにあふれていた。


 そんな世捨て人の喧騒を抜けた先にその店はあった。古めかしいながらも重厚感のある木製のドアを開けると、ドアに取り付けられたガラス細工の呼び鈴が、あたし達二人を出迎えてくれるのだった。


「葛城恵梨香様と露木浩行様ですね?お連れ様があちらのVIP席の方でお待ちです」


 あたし達が店に入ってすぐ、ドアの脇に待機していたボーイがあたし達二人を出迎えくれ、あたし達二人は店の奥に設けられた完全セキュリティの一室へと通された。


「姉さん……あたし達姉妹って罪作りよね……期せずして同時に一人の男に惹かれちゃったんだから……けど…ごめんね…姉さん……せっかくつかんだ表世界の幸せだったのに……また…裏世界に逆戻りさせちゃって……」


 完全セキュリティが施されたこの店のVIP席、入室早々に妹の美奈子があたし達二人に深く頭を下げるのだった。


「頭を上げて美奈子…あたしは逆戻りしたんじゃない……自分から戻ったのよ……それにね…ヒロくんはもう年の離れたあたしの彼じゃなくてたった今からあたし達三人は姉弟の間柄であり…あたし達姉妹の最高の彼氏よ……」


 あたしはそういうと、頭を下げたまま、泣き崩れて起き上がなくなった妹の美奈子を彼と二人で抱き起こすのだった。


 しかし今日この時から、俺達三人は迷走の一途をたどる事になるのだった。


 なぜなら、昨夜俺が殺めた最上晃三以降のあの当時の事を知る人物が俺達の知らぬ間に次々と抹殺されており、こちらに入ってくる情報はすべて、がせネタだった。


「いったい…何がどうなってるっていうの?あたし達がめぼしをつけていた人間ばかりが次々に抹殺されて…こっちに入ってくる情報はすべてがせネタだなんて……」


 半ば絶望的状況に姉の恵梨香さんは苛立ちを隠せ無い様相でテーブルを叩いた。しかしこういう時、妹の美奈子さんは彼女と反対に冷静かつ、迅速に氾濫しかねない数のがせネタを一つ一つ、確実に崩しているようだった。


「……やっと…謎が解けたわ……あの時の事件…単なる一社員の横領事件じゃなかったのよ……」


 あたしはいったんそこで言葉を切ると、タバコに火をつけて紫煙をくゆらせた。


「デカくなりすぎたこの組織自体が暴走し始めてるのもあるけど…この件には本来関わっちゃいけない組織まで関わってる気がする……県警の特殊公安が動き始めているのかも…これはあくまであたしの仮説…けどはっきりしてる事もあるわ……このまま三人で行動するのはよした方がいいかもね……姉さんとヒロくんはいったん姉さんの店に待機してて……それとここを会合場所にするのもおそらく今日が最後……なるだけ三人の接点を相手に嗅ぎつけられないように連絡は文字で取り合いましょ!散会!」


 あたしが最後の采配をして三人が一斉にその店を出て、未だ夜の明けぬ朝闇の街にその身を隠した直後だった。地下にあり、警察には決して摘発されず営業を続けてきたこの店が、県警の一斉摘発にかかったのは。


「警部…一足遅かったようです……踏み込んだ警官達の話しだと奴らぁ逃げた跡で…店ん中ももぬけの殻だったそうです……」


 あたし達三人が店を出て数分後、一斉摘発にと店内に踏み込んだ神奈川県警捜査一課の刑事の一人が、ともに踏み込んだ上官でもある、里中弘二に現状報告をした。


「……みてぇだな……なぁ村下ぁおまえはどう思う?奴らの事をよぉ……憎むべき犯罪者かはたまた…義賊か……まぁ…こいつの応えを今すぐ出せったってそいつぁそれこそ無理な話しだぁ……おまえの気持ちがまとまった時でかまやしねぇ……俺にゆってくれねぇか?奴らが公安の手に墜ちる前に…俺達で奴らを保護してやろうと思ってる……おまえに無理強いするつもりはねぇがよぉ…そんときゃ頼んだぜ…相棒!」


 どこか意味深な笑みを浮かべ、彼はそういうと、タバコをくゆらせた。


「この街に生まれて…この街に育った人間ならあいつらを犯罪者呼ばわりする者はいないと思います……闇が深いって言えば…自分達警察の方じゃないかと…俺は思います……」


 最もらしい事を話しているようにも見える二人だが、明らかに二人は同じ穴のムジナで、互いの腹を探りあっているにすぎなかったのである。


 そしてまた、本当のところのコンビ仲は最悪で、腹の中では常に互いをけなしあっているという最低にして最悪のコンビだったのだが、今回だけは互いの利害が一致したのだろう。互いに要領良く腹黒くこの警察機関を生き抜いてきた二人なのだが、要領の良さと腹黒さは、彼、村下恭一の方が少し上手だったようで、あっさりと彼、里中弘二の築き上げてきた裏のコネクションに踏み込もうとしていた。


『……チッ…どうせんなことだと思ったぜ……あのクソオヤジ…奴らを保護するとかなんとか言っといて奴らパクって公安に売る気かよ……まぁ…公安ともめんのも先々面倒なことんなりそうだな……ここぁ一つ…保険をかけさせてもらいますよ…里中警部……』


 彼、村下恭一がそう一人ごちたのは、一様上官に当たる里中弘二との別れ際、さり気なく彼のスーツの上着のポケットに忍ばせた発信機付きの盗聴器から流れる公安に掛け合う彼の音声と今現状の彼の居場所を示すタブレット端末を移動中の車内で確認していたときだった。


 しかし、いくら彼が要領良く腹黒い男だったとしても、長年県警に巣くい、県警の老獪とまであだ名された弘二に叶うはずも無く彼はあっさりと見切を付けられたのか、はたまた自分が公安に取り入りたかっただけなのか、彼の策略に保険をかけるつもりで掛け合った公安の一員に敢え無く抹殺されてしまい、真実は次々に闇へと葬り去られるのだった。


 そして、策を労した弘二だったが、彼もまた、自分が老獪とまであだ名されて県警本部から意味嫌われていた事実を知らない愚か者だったようで、定年を一年後に控えた六十四歳で、長年勤めた県警を懲戒解雇処分になるのだった。

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― 新着の感想 ―
(;゜Д゜) あ、いや、これは…… ただの「恨み晴らしますニャ」ではおさまらない様相を呈してきましたね……! しっかしなんだな ちょっと お(;・∀・)、なかなか漢気のあるやついるじゃん と思っ…
[一言]  スケールの大きな話になってきましたね。  敵が別の大きな組織。  警察関係なのでしょうかね。  堕天使の存在目的がなんなのか❔  どうして姉妹は堕天使を作ったのかが、解りずらかったです。
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