怪異部門の人達
「あれは何?」
「警報装置だよ。」
「あれは?」
「監視カメラみたいなもの。」
私は、初めて東京にやって来た田舎の人みたいな感じで、目を輝かせながら、周囲を見て回った。
ちなみに、ボーッとしたりして遅れると、姫桜が襟を掴んで引っ張ってくるから、あんまりボーッとしないように心がけてる。
それでも見とれてる事もあるんだけどね。
それから、同じような感じで辺りを見回しながら歩いていると、いつの間にか最下層まで来ていた。
最下層って言っても、五階建て何だけどね?
「今から、私の直属の上司に貴女のことを報告してくるから、大人しくしてて。」
「姫桜の直属の上司?どんなやつ?」
「怪異部門を立て直す為に、反乱を起こした人。」
「ヤバい奴じゃん…」
姫桜の上司って、マジでヤバい奴じゃん…
だって、結果的良かったとはいえ革命家でしょ?
革命家って、言い換えれば反逆者だからね?
マジでヤバい奴じゃん…
「絡まれた時は、私の名前を出すといいよ。大抵の奴はこれでどっかに行くから。」
「虎の威を借りてるみたいでいや嫌なんだけど?」
「死んでもいいなら使わなくていいよ。貴女はまだ怪異部門の一員じゃないから、規則が守ってくれないからね?」
「名前を使わさせていただきます。」
流石に死にたくない。
プライドと命を天秤にかけたとき、私は間違いなく命の方に傾く。
私は、誇りのために命を張れるほど、肝は座ってない。
我ながら情けないと思うけど、普通はそんなもんだ。
私がそんなことを考えていると、いつの間にか姫桜が居なくなっていた。
「そろそろ絡んでくる奴が居ると思うんだけど…」
しかし、そんな気配はない。
?
視線は集まってるけど、誰も近付いてこない。
私なんて、一般人と大差ないくらいの力しかない雑魚なのに…
「おいガキ」
噂をすればなんとやら…
本当に絡まれた。
「何?」
「ヤンキーか?先輩に向かってずいぶんな態度だな?」
「一般人と大差ない雑魚を脅して恥ずかしくないの?器が小さいね。」
「っ!?このガキ…」
絡んできた奴は、チンピラ風の男で、表社会では人気の少ない所でたむろしてそうなイメージの格好をしている。
にしても…こいつはなんの妖怪の末裔だ?
「あんたって、なんの妖怪の末裔?」
「俺か?俺は、鎌鼬の末裔だが?」
「鎌鼬…人間と鎌鼬!?」
いったいどうしたら、そこで子作りをしようと思えるんだろうか?
相手はイタチだよ?
獣と子作りしようって、かなりアレだと思うんだけど…
「で?お前はなんだよ?」
「私は「あらあら、可愛らしい子がいるじゃない。」え?」
私は、突然すぐ後ろから声をかけられて、急いで振り返る。
そこには、大人の色気を放つ、妖艶な美女がいた。
その美女は、同性の私でも惚れてしまそうな雰囲気を纏っていて、凄く甘いニオイがした。
「貴女、角は出せる?」
「え?出せませんけど…」
私は、自然と敬語を使っていた。
何故か、無意識に敬語を使っていたのだ。
まるで、本能がそうするべきというかのように、無意識に敬語を使っていた。
「そっか…たまに、妖怪の特徴を持ってる子がいるんだけど。貴女は違うみたいね、鬼っ娘ちゃん。」
「え?どうして私が鬼だって…」
「持ってる力でわかるわよ。鬼特有の力を感じたからね。」
この人は、美しいだけじゃなく、底が見えない。
まるで、吸い込まれるような錯覚をするような…変な感じ…
しかし、不思議と警戒心が湧いてこない。
恐ろしいと感じるのに、安心出来るような…
「なるほどね…姫桜が欲しがるわけだ。」
「え?姫桜が?」
「ええ。姫桜が自分からスカウトすることはほとんどないのよ?だから、貴女は姫桜が自らスカウトするほど欲しかった存在なの。鬼姫ちゃん。」
すると、辺りが静かになったあと、一気に騒がしくなった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!その子が鬼姫なのか?」
「長年不在だった鬼の主が遂に…」
「遂に俺らにも頭が出来るのか…この時をどれだけ待ちわびたことか…」
驚愕する人。
考え込む人。
歓喜する人。
嬉しさのあまり、涙を流す人。
『鬼姫』という単語一つで、ここまで騒がしくなるなんて…いったいどういうことなんだ?
「なあ、あんた名前はなんて言うんだ?」
「え?鬼頭安奈だけど…」
「そうか…鬼頭姐さんか、安奈姐さん、どっちがいい?」
「ええ…じゃあ、鬼頭の方で…」
すると、急に沢山の人が集まってきて、私を囲む。
そして、
「俺達鬼の末裔は、あんたに忠誠を誓うぜ!鬼頭姐さん!!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
「は?…え?」
私は、あまりのことに脳がフリーズしそうになってしまった。
というか、このいかつい連中に囲まれて、変なこと言われて、怖いんだけど…
やばい…誰か助けて…
すると、
「安奈ちゃんが困ってるでしょ?」
さっきの女性が、私に助け舟を出してくれた。
「二階堂さん。俺達は…」
「安奈ちゃんが困ってるでしょ?」
「…はい。」
この人は、二階堂というらしい。
そして、私に向けられてはいないものの、漏れ出した殺気でわかった。
この人、とんでもなく強い。
姫桜と同じかそれ以上。
とんでもない化け物だ…
しかし、それは凄く強いということ。
まだ、新入りですらない雑魚の私にこんなに優しくしてくれるんだ、きっといい人に違いない。
「あー…もしかして、怒っちゃった?」
そう言って、二階堂さんは凄まじい速度で何かする。
刹那、凄まじい風圧で私の体が吹き飛びそうになる。
尻餅をついてからよく見てみると、二階堂さんと姫桜の蹴りがぶつかり合っていた。
おそらく、あの蹴りの衝突が風圧の原因だ。
…そう考えると、とんでもない蹴りだね。
「アレは、私が見つけたものだ。勝手に横取りしようとするな、老害女狐。」
「貴女が放置するのが悪いんでしょ?人のせいにしないでくれる?ガキ天狗」
蹴りの体勢のまま、姫桜と二階堂さんが罵り合ってる。
呼び方からして、かなり仲が悪い事がわかる。
すると、二階堂さんから離れた姫桜が、私を守るようにして前に立つ。
「あの老害女狐に何もされてない?」
「いや…何もされてないけど…」
「なら良かった。あいつに誑かされた最後、一生あいつの養分として生きる事になるからね。」
は?
二階堂さんがそんなこと…
「少しだけ精神誘導を受けてるね。これくらいなら、容易く解除出来る。」
そして、私の中に何かが流し込まれ、心のモヤモヤが消えたように感じた。
このモヤモヤが、精神誘導?
ん〜?
わけわかんない。頭がこんがらがりそう。
「あーあ、せっかくバレないように洗脳しようと思ったのに。」
え?洗脳?え?
「今回ばっかりは、本気で殺しに行くからな?」
「やってみろよ、ガキ天狗。」
「黙れ、老害女狐。」
二人が、殺気丸出しで睨み合う。
めっちゃ怖いんだけど…
しかし、その睨み合いを、更に圧倒的な力の波動が喧嘩を終わらせる。
「くだらない喧嘩をするな、天見、二階堂。」
「「はっ!」」
もしかして、この人が姫桜の直属の上司?
「君が、鬼姫の鬼頭安奈だね?私は、『一ノ宮 悟』。怪異部門の部門長だ。」
まさかの部門長。
私は、とんでもない大物の登場に更に頭がこんがらがった。