皇室諜報局
「ここは…」
私の起きた部屋は散らかっていて、明らかに人が住んでいない。
廃屋のような雰囲気だ。
いや、廃ビルだ。
私は今、廃ビルにいるんだ。
両手両足を縛られた状態で。
「拉致られたか?姫桜のやつ、私を放置して帰ったのか?」
「そんなわけないでしょ?」
今まで気付かなかったのが不思議なくらい、姫桜は正面の椅子に座っていた。
姫桜がここにいるって事は、私を拉致したのは姫桜か。
「まぁ、私が拉致したで間違ってないけど、別に貴女をどうこうとかじゃないのよ?」
「あっそ…なんで姫桜が拉致したって、考えてるって分かった?」
言い方が、知っているみたいな感じだ。
普通に会話してる時、質問されたから答えたみたいな…
喧嘩してる時から感じてたけど、こいつ何者だ?
こいつのパンチは、人間が出せる速度じゃない。
「そうだね、私は人間じゃないね。半分くらい。」
「あんた…心が読めるのか?」
私が、そう質問すると微笑して、
「そうだね、格下も格下相手にしか効かないし、一般人でも意志の強い奴なら覗くことは出来ない。」
「何者なんだよ…それに、半分くらい人間じゃないって、どういう事だ?」
すると、姫桜が立ち上がって、
「貴女は、幽霊は居ると思う?」
「はあ?…まぁ、いると思うけど。」
「へぇ、珍しい。最近の人間は、幽霊なんていないって言う人がほとんどだからね。」
まぁ、私も半信半疑で、むしろ疑ってる方に傾いてる。
「じゃあ、妖怪は?」
「幽霊もの妖怪も似たようなもんでしょ?」
「まぁ、なら信じるにはいるでいい?」
一応頷いておいた。
全然信じてないけどね。
「天狗って、知ってるかな?」
「あれでしょ?羽があって、鼻が長くて、山伏みたいな服着てる、うちわを持った妖怪。」
「そうそう」
こんな事聞いて、どうしたいんだろうか?
…もしかして、姫桜ってオカルト的な、ヤバい奴なのか?
それか、ヤバイ宗教にはまった、ヤバい奴とか…
「う〜ん、その私をヤバい奴認定するのやめてくれない?」
「なんで分かって…そうか、心が読めるんだった。」
あれ?
姫桜は、心が読めるの?超能力者なのかな?
いや、さっきから妖怪の話してるから、心が読める妖怪…半分人間じゃないってのも合わせて、心が読める半妖なのか?
「半分正解、半分不正解。半妖である事は間違ってないよ。」
「は?じゃあなんで心が読めるんだよ?」
「そういう神通力…まぁ、魔法とか妖術みたいなものを使ってるからだよ。」
神通力?
名前しか聞いたことないけど、なんかすごそう。
「で、私は天狗と人間の半妖なんだよ。」
「天狗と人間のハーフ?」
「いや、正確には先祖返り的なので、天狗の血が強く出ただけで、言うなら、天狗の末裔…或いは天狗の血を引く人間の末裔かな?」
長いな…でも、前者だと普通に天狗の生き残りになっちゃうから、後者の方が正しいんだけど。
にしても、妖怪の血を引く人間か…信じられない。
「そうは言うけど、貴女も私と同類なのよ?」
「え?…え!?」
私も半妖なの?え?
でも、親父もお袋も爺ちゃん婆ちゃんも、みんな人間だけど…
「私と同類…先祖返りで、妖怪の血が強く出たんだよ。貴女の喧嘩強さは、妖怪の血が強く出たから、身体能力が人間の比じゃないからだよ。」
そうか…先祖返りで私だけ妖怪に近くなっただけなのか…
「でも、力の使い方を正しく学ばないと、普通の人間と何ら変わりない人生を歩む事になるよ?」
「いいじゃん、それで。」
「良くない」
別にわざわざ強くならなくても、この平和な国で力を使うことなんて、ほとんど無いのに…
「そうじゃなくて、将来の事だよ。貴女、自分にまともな将来があると思ってるの?三ツ葉高校だよ?進学も就職も絶望的何だよ?」
「だから何?あんたもそうでしょうが。」
「公務員に今から内定が決まってるよ?しかも、かなりエリートの。」
「はいはい、すごいすごい。」
うわ〜、キレてるよ。
短気だな〜カルシウムちゃんと取ってるのかな?
おっ?怒っちゃった?怒っちゃった?きゃー、こわ〜い(笑)
「あんまり調子乗ってると、生きたまま東京湾に沈めるぞ?」
「ヤクザみたいな事言わないでよ。こわいな〜(笑)」
すると、姫桜は懐から何かを取り出した。
「チャカって、知ってる?鉛の弾がマッハ2で飛ぶんだよ?頭に当たったらどうなるかな?」
「そんな事言って、どうせ偽物ッ!?ああああああああ!?」
姫桜は、私の太ももに向けて引き金を、引きやがった。
太ももから、今まで感じたこともないような灼熱の痛みが襲ってくる。
痛い…これ、本物なのかよ。
「私の本職って、殺し屋みたいなものなんだよね。いや、どっちかって言うと、国が抱えてる暗殺者なんだけどね。」
こいつ…本職だったのかよ。
道理で強い訳だ。
それに、簡単に引き金を引いてる感じ、殺しの経験がある。
というか慣れてる。
「それで、提案なんだけどね。貴女の、先祖返りを考慮して、とある組織にスカウトしたいんだけど…どうする?」
私は、その質問に呆れてしまった。
「そんな銃をちらつかせて、さも私に選択肢があるような言い方をするのやめてくれない?」
もともと選択肢なんて与えられてない。
姫桜は殺し屋だ、バレるとまずい。
よくあるやつだ、『貴様は、知ってはいけない事を知ってしまった。』ってやつ。
断れば、あれで口封じのために殺される。
つまり、私に拒否権なんて物は無い。
「分かった、その組織とやらに入るよ。なんて名前なの?」
「うん、ありがとう。名前は…」
「皇室諜報局怪異部門…めっちゃかっこいい名前じゃん。」
ザ・秘密の裏組織って感じでかっこいい。
「この組織は、分かりやすく言うなら日本のCIA…つまりは、スパイ組織だ。まぁ、諜報局だからね。」
「それは、文字を見れば分かるけど、問題は皇室と怪異部門なんだよ。」
怪異部門はまだいいとして、皇室はよくわからない。
なんで天皇が、スパイ組織持ってるの?
「それは、明治時代まで遡るんだけど…」
結構遡るな。
「そもそも、皇室諜報局は明治維新の際に、新しい諜報機関を作ろうって事で、作られた組織なんだよ。それまでは、朝廷専属の忍者とか陰陽師みたいな奴がその役割を担ってたんだよね。でも、明治時代に欧化政策を取った政府によって、皇室諜報局が誕生したんだよ。怪異部門は、半妖で構成された部門の事ね。」
「じゃあ、他にも部門があるの?」
「あるよ、隠密部門、抗魔部門、隠蔽部門とかね。」
部門って、結構いっぱいあるんだな〜
「それで、皇室諜報局は日本のスパイの要として頑張ってきたんだけど…とにかく上が無能だった。どれくらい無能かっていったら、自分の意見しか頭に無くて、しかも杜撰な計画だから実行すれば被害が出まくって、その責任を部下に押し付けるくらい無能だった。」
ボロボロじゃん…
よくそれで無事だったなこの国。
「それで、二次大戦では戦犯かましまくってね、誤情報持ち帰るは、こっちの情報は見抜かれるは、暗号解読されるは、人員は失うは、とにかくクソみたいな奴が上司だった。まぁ、相当やらかしまくって、戦況が有利に進められた事から、放置でいいやって事で、解体されなかったんだよね。」
スパイ組織を放置してもいっかって、どんだけ無能だったんだよ諜報局。
「で、このままだとまずいって感じた、今の長官が内部反乱を起こして、無能な連中を片っ端から殺していったんだよね。そして、紆余曲折を経て見事にしっかりとした組織に成長させたんだよね。」
「紆余曲折って…」
「仕方ないでしょ?粛清した分の人集めて、しっかりとした教育して、施設建て直して、それくらいだよ?何か事件があった訳じゃ無いから。」
普通に組織を立て直したって感じか…
それなら、紆余曲折でまとめてもいっか。
「諜報局についてはこんな感じ。怪異部門は…私みたいな半妖で構成された集団。以上。」
「いや、いやいやいや、ざっくりしすぎでしょ!もうちょっと何か無いの?」
「何かねえ?なんでもやってるくらい?」
駄目だ、姫桜に聞いてもまともな答えが返ってこない。
これは、組織に入ってから他の人に聞いたほうがいいかも。
「そうして、私も教えるの面倒くさいから。」
「よくそれで勧誘出来てるね。」
姫桜のことを馬鹿にしてみたけど、華麗にスルーされた。
そして、姫桜が呼んだ迎えに連れられて、諜報局の本部に向かった。