完成した秘薬
「出来たわ・・ヒントが深海クラゲだった」
美恵子が、サネアツの前でそう言葉を発した。
「やはり、ワクイ型の基本は、深海研究の第一人者でもあった天才博士の地球再生計画で生み出された代物だったんだな。もっと研究者として不老不死の方向を自分自身では無く、応用として広めてくれれば、こんな世界とは違ったものになったんだろうけどなあ・・」
しんみりとした顔でサネアツが言うと、美恵子は、
「いいえ、確かに当時の世界の統治者達が存在する一方的な強権、強圧、戦争を道具にする世界を破壊しようとしたのよ。目的がそっちになってしまったけど、自分自身の寿命の延長と目的を達する為には、手段など選ぶ時間が無かったのよね。私にも今サネアツ君が抱いた感情は理解出来る。でも、その後どうなったの?結局その世界が消失してしまったのは、戦争では無い。地球大事変であった事は皮肉ではあるけれど、どうでしょうね、その時代にこんな怪物達が跋扈していたら、重火器で勿論駆逐するでしょうし、世界の国々は一致団結せざるを得なくなる。一つの方法論ではあるけれど、どっちにでも転び得るし、結局は一人の王者として自分が君臨する目的に走ってしまったんじゃないの」
「ああ・・そうだったね、何度も議論して来た事だ。その答えはSKI自身が今も持っているし、試行錯誤は永遠にして行かなきゃならないんだろうね」
SKIは、その言葉を黙って頷いていたし、優、雄太も深く頷いていた。麗華がここで、
「じゃあ、もう躊躇しないわね。特級怪物達の弱点もこの数十年で見つけた。そして、デマルガーⅠ型はやがてアミー軍団と交雑し、一族を形成して行く人型亜種となって行くでしょう。その時、我々人型とまた争う事にもなるのかも知れない。でも、ワクイ型のこれ以上の繁殖は駄目、地球本来育む種が生き残るのが未来なんて、想像も出来はしないけれど、今我々が行う最善の策だと考えるから」
「うん、実行は早い方が良い。SKI軍団は現在100万生体規模になって、交雑も進む未来にはどんな形態になっているのかも知れないが、とにかく今は実行すべきだと考える。その未来に間違いだったとしても、責を負うのは我々自身なのだし、逆に我々が滅ぼされているのかも知れない。そこまで今は考えない」
SKIは、そう言った。既に旧時代の科学力には及ばないものの、工場的なものは出来つつあったし、人間生体が地上に住める環境がようやく出来て来たのである。
SKI軍は即行動を開始した。デマルガーのⅡ型、Ⅳ型は滅びた。それは、ワクチン型の銃弾がその身を壊したからだ。デマルガーⅠ型は完全に屈服した。それが破壊兵器だと認識したからだ。ここで生き残る為にはアミー軍団と手を組むしかないのだと。深海鮫バルーはとうとう手を下す事なく、自然消滅してしまったのである。SKI軍団が何かをした訳では無い。それがダイオウグソク虫が体内に持つ、ある細菌であった事も分かって行く。そして、地上には肉食系の怪物達が殆ど姿を消して、草食系の怪物達が生き残る事になる。ここまで数百年の歳月を費やしたのだが、彼らは進化していた。それは形態では無く、身体的なものであり、遺伝子が交雑化する事によって、人類が逆に最強生体になったのだ。
こうして、第一部のワクイ戦争は終結したのであった・・
第一部完




