現状からの脱却へ
「圧倒的に卵を産むダイオウグソク虫の方が、繁殖力は高いよなあ・・ふむふむ」
「そうですね、数的に言えば圧倒的に多い上に、今度は熱水付近以外にも活動範囲が広げられると言う事です」
「おっと・・地球本来存在した生体が、人為的遺伝子の生体に今度は攻撃し始めると言う事を言うのかな?」
「そうですね、それこそ、肉どころか骨まで砕くようなものでしょう」
ははは・・骨を砕くと言う表現に、優とサネアツが苦笑している。まさにそう言う現象が起こっていると言う事だ。コウタは、更に言った。ここが、彼が雄太より自分が比肩も出来ない知力、大天才には及ばぬ者と思っていても、こう言う発想をどんどんと繋いで行く方向性は、誰にも真似は出来ないだろう。コウタ復活を望んだものは恐らくこう言う事だったのだろう。
「つまり、君コウタ博士は、今深海で驚くべき逆転現象が起こっていると言う事を話しているのかな?」
「実際には、このダイオウグソク虫の海域における生物棲息環境は、ご存じのように、熱水に対し、化学合成細菌を繁殖させ、400度もの熱を発するその付近に棲息すると言う極めて特異な生物群です。カニ、エビ等も繁殖しております。つまり、金属分子を合成した有機物を食とします。この事は、我々が『龍の巣』において、金属的組成の物質を体内に摂り入れている事とほぼ変わらないものと言えましょう。いえ、方法論は違っていても、つまり我々の体が、前時代の私には想像も出来なかった組成に変化して来たと言う事です。一方深海鮫バルーも、岩すらも砕くその強靭な牙状の歯においても、特殊金属同等の超硬質な物質ですので、また違う手段において、体内にその仕組みを形成して居るが故に、ここまで海中において、無敵に近い存在感があったと思うのです。我々にも迂闊に手が出せない。そうではありませんか?」
「まさしく・・君の言う通りだよ。ただし、それは、深海鮫バルーを回避して来たと言う経緯もそこにある。敢えて向かう切羽詰まったものでは無かったからだよ。デマルゴンや、食に対する捕食怪物は無数に居るからね」
「ですよね、そうなんですが、ここへ来て今まで熱水のその深海底まで進出して来た深海鮫バルーは、新に海に君臨する王者として棲息域を広げて来た。冷水だけでは無く、今度は熱耐性も出来て来たと言う事になりませんか?」
そこで優は、この深海底だけの事を言っているのでは無い事を悟り、こう言った。




