現状からの脱却へ
ここで優が、
「一つ聞くけど、そのダイオウグソク虫を食べても形態変化が無い個体も居るんだね?」
そこはサネアツが答える。
「いや、陸上と同じく、海の中もそれぞれの環境に応じた棲み分けが進んでいると言う事だよ。つまり、この深海底は-4度の冷温地域だ。ダイオウグソク虫は、熱水鉱床付近に棲息する。そこしか、住む場所は無いからだ。そして、その極低温に適応した深海鮫バルーの一群が、極めて少ない食の中から、このダイオウグソク虫をターゲットにし始めたと言う事なんだ。それまでは、ワクイ型の深海クラゲを主に食っていたし、流石に熱水鉱床の岩までは齧られないからね」
「はは・・それはそうだな」
雄太が笑った。この会議で世間話までするような雄太には、周囲は何時も余裕があり、緊張感が無いようにも見える。
「で・・その変化とは・・ここからが本番なんだよ。つまり、柔らかい皮膜になった深海鮫バルー群は逆に捕食される対象にもなると言う事だ」
「あ・・そうか、そうなるよね」
雄太が気づいた。コウタが、
「そうなんですよ。今の逆パターンが深海で起こりつつあると言う事です。そして、ダイオウグソク虫に形態変化が起きつつある。つまり、ワクイ型遺伝子が、この生体に変化をもたらそうとしていると言う危惧です」
「ちょっと・・待った。危惧はむしろ、好転に考えられないかな?」
雄太とコウタの問答のようになった。
「いえ、確かに深海鮫バルーの個体群は多いですが、ダイオウグソク虫が逆に繁殖し始めたと言う事です。つまり、もっと効率の良く栄養価の高い食の対象が現れた訳ですから、これは、皮を切らして肉を切ると言う事です」




