第1章 進む
「おい、アカネ・・もう本体が無くなっているぞ、バクダンのさあ」
「本当だ・・もうお腹もかなり一杯になってきちゃった。あたい達も夢中でやっていたからね」
「いや・いやいやいや・・お前は焼くのと、食うのが同じスピードだった。俺の倍位は食ったんじゃねえのか?どうする?もう俺達の体の半分くらいしか残って無さそうだし、再生する部位は、もうお腹の中じゃねえのかな、どうやら、やっとこさ流石のこいつも、ぴくりとすらしなくなったぜ」
「じゃあ・・この肉を『感車』に入れて持ち帰ろうよ、これ、果実と一緒に食べたら、もっと美味しいかも知れない」
「おう・・そうだな、アカネ・・ひょっとしたら俺達はこのA地区最強の化け物に勝ったかも知れないなあ、そんな事を思った、今・・。なら、もう他の怪物は襲って来ないんじゃね?」
シンタの発した言葉は、所謂感覚である。その感覚って言うのは、とても大事なんだぞって、うわ事のようにシンじいちゃんが、もうかなりボケていたが言っていたのを思い出す。アカネより、シンタの方が特に長男だからなと、シンじいちゃんは目をかけてくれていたらしい。ただ、シンタのとっては*全ての記憶がおぼろげなのだ。
*重大な情報がそこにある。もっと先に明らかになって来る。
壁の上に戻り、森林を見た。しかし、シンタとアカネはビロー、バランディードと再戦する気は無くなっていた。と、言うのもA地区に居る殆どの怪物達は、シンタ、アカネを見ると、もう逃げ回るようになったからだ。つまり、この地区の最強怪物を倒し、且つ食ってしまった彼等こそ、この地区の最強王者になったのでは無いかと思われる。だから、今は感覚の世界なのだ・・彼等にはその昔の知力を駆使した闘いの歴史等語れる環境は殆ど無いのだから。これはつまり、原始社会に回帰している世界での出来事なのだから。客観的に両親達が、正当な教育を受けていて、それを二人に教えていても、そこから生きて行く為に必要なものなど全く無いように思われる。そう言う意味では、この時代に即応した育て方を選択したのでは無いかとも考えられない事も無い。しかし、いずれにしても、時間的観念も、アンバランスな武具、『感車』の存在は、この異質な世界にあっても更にミスマッチな物にも思えて来る。何故食する事が力の源になるかの根源的な事も分からないのだ。だが、彼らは着実に力をつけて行っているらしい事だけは分かる。そして、必然的に闘わねばならない事と、食する為に怪物達と向かわねばならない事、そして、両親を探すこの三点セットのミッションだ・・?ミッションって・・
保管していた果実と、バクダンの肉を『感車』に積み込むと、彼等が何も念じても居ないのに、すうーーっと、岸壁の下に下降して行った。




