第1章 進む
「何が・・起こった?」
「何だかちっとも・・でも、あの実が『感車』の先端の突起に刺さっている。それに、森林ってどこにあるの?今、岩山の上に居るっぽいよ、あたい達は」
シンタも気が付いた。
「あれ・・?ここって・・もしかして、俺達がぐるぐる回っていたA地区の、強風が吹いて辿り着く事が出来なかった壁の上なのか?それに、今ここには風なんて吹いてもいないし、眼下は、白い雲に覆われているようだし、何も見えやしないぜ」
「何だか・・あたいもちっとも分からないけどさあ、お兄い、先にそれ・・食べよ?」
「あ・・おう・・そうだったな」
育ち盛りの二人には、今の一瞬の出来事より、食欲の方が勝っていたようだ。そうなのだ、分からない事を追求したがった先祖のような環境でも、教育を受けて来た者では無い。今眼前にあるのは全て分からぬ事ばかりなのだから。
こう言う時代、環境では変に中途半端な知識等も必要が無い・・恐らくそう言う意味で両親が二人を教育して来たのだとしたら・・だから、どこが教育って?放任主義じゃないかと言えるかも知れないが、ナチュラルな受け止め方の二人を見ていると、この時代に生き残っていけるように、育って来ているのかも知れない・・と思いたい。
二人は、シンタのソードでそれを綺麗に刻むと、ごくごくと飲んだ。現代の果物で言えば、それは特上のドリアンのような物で、その果汁はすこぶる美味だった、貪るように、飲み込むように、直径3メートルはあるその巨大果実を口に入れていく。それはそれは、余りの美味しさに言葉を忘れる程だった。この二人がどの位の大食漢なのかは分からぬが、直径にして『感車』の半分と言えば、繰り返すが推定3メートル近くのほぼ円球状のものだ。皮が結構分厚くて、30センチは優にあったのだが、それでもその中はほぼ果肉で埋め尽くされていたのだ。その果肉は、白っぽい黄色状で、所謂匂いは全く感じなかった。地球上にはもはや旧時代の特定種等は皆無であるから、現代の種別等を比べる事も出来ないが、遺伝子操作されたものである事は間違いも無いものだ。そして源種と言うか、ワクイが撒いたその種ならば、又そこから無限に近い変異を繰り返した動植物に覆われているのだから、その一種に過ぎないものと言える。故にそう言う意味で、過去の地球上の植物を参考にはならないものの、やはりこの二人の食いっぷりは、尋常では無かった。食事にしても、栄養価の高いミミッチ等だと3日は何も食べなくても大丈夫だと言うから、その栄養価的に非常に効率的な肉なのだろう。それにこう言う果物類には、毒性のあるものが存在するが、やはり二人にはその鼻、嗅覚によって判断が出来るようだ。重量にすると、約100キロ、二人で200キロは軽くあるだろうと思われる、恐らくアカネは、更に底なしの胃袋を持っているようで、まだ欲しがって、シンタの分まで口に頬張った。シンタは兄らしく、そこはアカネに譲ってやるのだった。微笑ましそうに無心で食べるアカネを、兄らしく眺めていた。




