第1章6節 そして動き始める
ワクイは、シンゾウがワカナに何かを伝達した事は分かったようだが・・現時点において、シンゾウが自分に対し敵意を剥き出しにしたり、妨害行動をしていない以上、必要以上に彼がアクションを起こす事は、当面は無いのだろう。しかし、この先に弊害になれば、どんな手でも必ず使ってもシンゾウを排除するであろう。やっと自分が望んだ地球の姿が手に入ったのだ。それは火星や月では得られなかったものなのだ。制約が無い地球程彼が望ましい所は、太陽系内には他に無かったのである。
その時一瞬だが、ワカナの眼に陽光が見えた。それは、自分が今存在している所から西の方向にあたる。つまり、それはシンゾウが西の方角に居る事を示した。直ちにワカナは、複合するシンゾウとの暗号に位置する合図を送った。シンゾウはそれを理解した。瞬間だったが、その時東の方向にも影が見えた。確かに顔も知らず、その姿をも知らない父であったが、見目麗しい青年の姿だった。ワカナはその情報は、シンゾウには知らせなかった。余りにも、未だ不可解な部分と不確定な要素が多過ぎる。何故シンゾウに吐露したかったのかと言えば、自分の存在とその位置感であった。彼女は苦悩していたのである。
なんの為に自分と言う存在を創出したのか・・それはワクイの分身では恐らく無いのだろう。ワクイは、複数の分身を創出している筈だと思われる。しかし、ワクイの複製体は創出しないだろうとも思われる。その自分と同じ考えや行動を起こす者が居たとするならば、それこそ自身にとって、最大の弊害となるからだ。つまり、自分より優秀な者が居ては困ると言う人間心理における欲望・独占欲、支配欲的な根本的原理に尽きる。何故なら独裁者は、全て麾下を支配するからだ。と、すればの話になる。ワカナはとても優秀だ。恐らく科学者にもなれる器であろう。なのに、その立場を自分にワクイが求めた事は無い。彼女は考えた。この先・・未来におけるワクイの望む帝国には、そこに自分が象徴として君臨する傀儡の女王とするべき存在にしようとしているのでは無いかと・・。
そのワカナの思考の先が合致しているのかどうか。しかし、少なくても地球の自転が止まり、酸素が無くなると予想される最短の今度こそ完全滅亡の時期は、1000年後だ。その間にワクイが何かを仕掛けているのは確実であろう。火星や月では出来なかった事なのだ、それは。
そして、シンゾウ達は、まるで目くらまし戦法を選択するように、再びYゾーンにやって来た。今度は感車で瞬間移動をする。何かを探しているかのようだった。全て感車を操っているのは、シンゾウの思念そのものであった。シンタもアカネも誰もそんな事等出来はしない芸当なのだった。




